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【耳かき】☆癒しの小説売り☆【警報】

1 :夢花火:2007/06/20(水) 14:52:45 ID:mFB+YCwT
ここは癒しの小説売りが作品を投稿するスレッドです…
最後に癒しの気持ちが残ればどんなジャンルでもOK

ちなみに私は耳かきスレ内で小説を書いていたのですが
もっと色んな内容を盛り込んだ作品を書きたいと思い作りました

耳かきは最高の癒し!であるので私の作品には耳かきが登場致しますがあしからず

感想・リクエストなどもどんどん書きこんで下さい!

2 :癒されたい名無しさん:2007/06/20(水) 15:38:21 ID:c2XFTg9G
 「ください………………ここに………ここに先生の……あなたのおチ○チン、あたしの……お、おま○こに、入れてください!
 お願いっ! ずぶううって、つっこんで! あたしのおま○こ、あなたのそれで、ぐちょぐちょにかき回して! 奥まで入れて、気持ちよくしてぇ!」
 叫びながら優良さんは指で秘裂を広げてみせました。よほど興奮していたのか、白濁した蜜がとろっとこぼれてきます。
 男はこちらも興奮した目つきで優良さんにのしかかってゆきました。
 先端が唾液と先走りに濡れたペニスに手を添え、しとどに濡れそぼった秘裂にあてがいます。
 ちゅっと軽いキスをした様な音がしたかと思うと、男は一気に腰を突き出しました。
「あーーーーーーーーーーーっ!!」
 貫かれた途端に、優良さんはものすごい悲鳴をあげて、男の体の下で汗まみれの体を激しくのたうたせていました。
「いいっ! いいっ、ああ、すごい、す、すごいいっ! 気持ちいいっ! ああっ!」
 男が優良さんの右脚をかかえ、体を横向きにさせると、ピストン運動をはじめました。角度が変わってまったく別の快感が優良さんを襲います。
「ひっ! ああ、ふぅあ、ふ、ふかいっっ! ひあああ!」
 優良さんが顔を覆いました。すすり泣いているているようです。
 男はかまわず腰を振り続け、一度奥深く腰をたたきつけると、腰をくねらせながら、かかえ上げた右足を両腕で抱きかかえました。
 すすり泣く優良さんへ、満足気な視線を送りながら、足に舌を這わしてゆきます。
 男が突如くねらせていた腰を前へ前へと送り込み始めました。優良さんの最奥部をかさの増した肉棒がつつきます。
「あ、だ、だめ、これ、あ、ふ、ふかっ、ふかすぎ…………あんっ、あたし、だめ、
 これ、す、すき、ああっ、あんっ、あっ、くああっ、お、おかしく、おかしくなっちゃ………!」
 きつく目をつむる優良さんの目の前に、スパークが飛び交いました。
 今日初めてのオーガズムを迎えた優良さんは、そのままあごをのけ反らせ、全身をぶるぶる震わせます。
 優良さんの媚肉がすべての細襞をまとわりつかせてきました。男の精を搾り取ろうとするかのようです。

3 :癒されたい名無しさん:2007/06/20(水) 17:02:59 ID:YwLlV/AI
★必須★テンプレ厳守でお願いします

*sage進行でお願いします

*癒すことが目的のスレッドです
悪口・人が見て不快になるような書き込みはやめてください。

*過激な性表現のある作品の禁止
これも不快になる書き込みとみなされます。
芸術としての官能を目指したい方はスレ違いです。どうぞ他のスレで行ってくださ
い。

*ここは夢小説置き場ではありません。有名人の名前を使っての作品は犯罪です。
他の作者の方の迷惑になります。絶対やめてください。

*その他
人の好みはそれぞれなので、好みの作品・そうではない作品があると思います。仕方
ありません。
が、一生懸命書いてくださった作者の方をいたずらに中傷するような書き込みは絶対
やめてください。
例)つまんない・おもしろくない等
心の琴線にふれなければどうぞスルーして下さって結構。

4 :夢花火:2007/06/20(水) 17:04:07 ID:YwLlV/AI
<作者さんへのお願い>
コテハンでお願いします。
できるだけリクエストには答える努力をお願いします。
無理な場合は一言理由を添えてください。

<リクエストをしたい場合>
書いてほしい作者の方がいる場合は明記して下さい。
作者の方は一生懸命作品を書いてくださいます。急かしたりしないでください。
リクエストに答えられなかったり、またリクエストしたものとイメージが違った場合
でも
中傷したりするレベルの低いマネはよしましょう。
そしてリクエストに答えてくださった作者の方には、必ず愛のこもったお礼を言って
くださいね。

【リクエスト禁止事項】
性表現のある作品や、有名人の名前での小説のリクエストは禁止

最大の目的は癒されること…作者の方には溢れんばかりの感謝をお願いします

5 :夢花火:2007/06/20(水) 17:06:55 ID:YwLlV/AI
初めてスレッドなんか立てたので意味わかりません
非常に見にくい!
もしこのスレが続くような事があれば…どうか上手い方助け…て…orz

6 :夢花火:2007/06/20(水) 17:15:49 ID:YwLlV/AI
「花火」1

「今日みっちゃん家行っていい?」
娘の友達の洋子ちゃんから電話がかかってきたのは、夏休みの最後の日だった。
「もちろんオッケーだよ!一緒に花火行こう」
道子がピョンピョン跳ねながら電話口ではしゃいでいる。

洋子ちゃんは最近塾が忙しくてあんまり遊んでいないようだけれど、
三年生になって出来た道子の大親友だ。
六年になるまで度重なるクラス変えにも負けず、全て同じクラスになったと大喜びし
ていた。
洋子ちゃんも道子もKAT-TUNの亀梨くんが大好きで、得意な教科は国語、泳ぎがうま
いのも似ているらしい。
洋子ちゃんは給食の鶏の竜田揚が一番好きで、私には教えてくれないが
道子の好きな男子も洋子ちゃんだけ知ってると言っていた。
洋子ちゃんは二組の菅先生が結婚して失恋してしまったので、現在好きな人はいない
そうな。

「お母さ〜ん、洋子ちゃん来るから何かお菓子買って〜」
私は素麺を茹でながら、
「スイカあるからいいじゃない、うち貧乏なんです。贅沢言わない」と言った。
道子は「ケチ」とむくれている。
確かにうちはあまり裕福ではない。
夏休みの間連れて行ったのはばあちゃん家だけ、しかも隣の県だから今の子には自慢にさえならないのかも知れない。

7 :夢花火:2007/06/20(水) 17:18:00 ID:YwLlV/AI
「花火」2

今夜花火大会に行く前に夕食を食べさせるのも、実は子ども達に買い食いさせない作
戦なのだった。

天ぷらをつまみ食いしている道子に、健太と遊んでやってよ、と言うと、
負けてやらないと泣くからめんどくさい、と言いながら幼稚園の弟とプロレスごっこ
を始めた。
「ウキャー!アチャチャチャチャ!」健太は奇声を上げて何度も道子に突進してい
る。
夏休みは道子が健太の相手をするので本当に助かる。
勉強は中の下だが、道子は素直でいい子だ、と親バカな事を考えていると
しばらくして「あちー」と言いながら道子と健太はお互い休戦状態になった。
クーラーがないのでプロレスをしていると余計暑くなってしまったようだ。

野菜天ぷらと唐揚げと素麺、夕食の支度が出来た頃、洋子ちゃんがやってきた。
洋子ちゃんはいつも真っ白いワンピースを着てお嬢様のような格好をしている。
「お邪魔します〜」
洋子ちゃんの顔を見て、私はにっこりした。
「いらっしゃい、食べてくでしょ?」
今どきの子にしては清楚で、クラスで一番勉強ができる女の子、私は洋子ちゃんの
ファンだ。
「入って入って!」
一週間ぶりに会ってテンションが上がったのか、道子は洋子ちゃんの手を取ってス
キップで居間に消えていった。

8 :夢花火:2007/06/20(水) 17:21:14 ID:YwLlV/AI
「花火」3

夕食を食べ終わってテレビを見ながらスイカを食べていると
健太が突然「母ちゃん耳痒い〜」と言い出した。
「どれどれ、やったげようか」私はニヤッと笑ってそう言うと、健太の頭を膝に乗せ
た。
汗をかいてちょっとしっとりした髪がコロンとした健太の頭にくっついていた。
健太は嬉しそうに膝にほっぺをつけてニコニコしている。
わ、これ面白いんだよ、と道子が洋子ちゃんに言った。
「耳かきが面白いの?」と洋子ちゃんは不思議な顔をしている。
「まあ見ててよ〜」と言う私を見て、洋子ちゃんはますます不思議そうな顔をしてい
る。
私はまず引き出しから竹の耳かきを取り出した。
巣鴨で見つけたよく取れるやつで、かれこれ10年も同じ商品を探しては使っている。

実はさらに使い勝手のよい耳かきがあるのだが、夫の幸男に内緒で購入した為自分専
用にしている。
大枚が飛んだのだ、墓まで持っていく秘密、というやつはいまのところこの耳かき一
本である。
これは他とは比べられない程の気持ちよさで、良いものは値段、というのもあながち
間違いではない。

「健太じっとしときな」と私が言うと健太はコクッと頷いた。
そして私は健太の小さい耳に耳かきを迷いなく入れると、
薬味入れから匙にのせた粉をすくうように、サクッ…サクッ…と耳垢を取り始めた。

健太は毎日公園だろうが家だろうが走り回っているからか、耳垢の溜まるスピードが
異様に早い。
みるみる間に耳かきの匙に粉をふいたジャガイモのような塊が山になって出てくる。

耳垢はついては出て、ティッシュに取られ、またついては出てティッシュに取られ…

まるで耳垢製造マシンを見ているようだ。

9 :夢花火:2007/06/20(水) 17:23:14 ID:YwLlV/AI
「花火」4

ふと洋子ちゃんを見ると健太の耳垢に釘付けになっている。
私は健太の耳垢を見るのが大好きだ。
白っぽいしっとりめの粉で、なんだかふかふかしている。
雪のカケラみたいだ…
どんな感じなんだろう、と私は気持ちよさを想像しながら耳かきをする。
サクッ…スー…サクサクッ…スー…健太は幸せそうに目をクリクリさせながらじっと
していた。

と、急に健太が「母ちゃんゴゾッゴゾッいうよ」と言った。
「はぁ、でっかいのがいるわ。ちょっと待ってよ」
私はそう言うと、引き出しからピンセットを取り出した。
「何?」洋子ちゃんが驚いている。
ピンセットは道子が五年の時に一回だけ取った訪問販売の教材についてきたのを私が
改良したものだ。
先が微妙にカーブしていて、耳垢を掴むのにぴったりなのだ。
健太は慣れたものでじっとしている。
私は慎重にピンセットの先端を入れていった…

「う〜ん」健太が呟く
「痛い?」と道子が聞くと「こちょばゆい」と健太
私は真剣な顔でピンセットをそ〜っと引きぬいた…

「最近一番のヒット」が出た!これはすごい、私は息を飲むと二人の前に急いでピン
セットを掲げた。
耳の筒の形にクルンと丸まった直径8ミリはあるコロンとした塊…

10 :夢花火:2007/06/20(水) 17:28:12 ID:YwLlV/AI
「花火」5

「こんな大きなのが健太君の耳に入ってたの!?」洋子ちゃんは目を真ん丸にして
いる。
「ぼくいっつもこんなん出るよ」と健太が言うと
「えー私いつもちょっとしか出ないよ」と洋子ちゃんが言った。
私はそれを聞き逃すはずもなかった。

「洋子ちゃん耳見せて?」道子が始まった、と言っている。
私はとにかく耳かきが大好きなのだ。
夫も「ありゃ病気だな」と言うくらい何かあると耳かきさせてと言っている。

洋子ちゃんは思いつめたように
「私病気かも知れないから駄目です」と言った。
「病気?」
聞くと昔からネチョっとした耳垢が出る、と言う。
道子はすぐ何なのか分かったようだ。
私はプッと吹き出して
「あーアレね。大丈夫、うちの父ちゃんも飴耳だから」と言った。
「飴耳…?」
キョトンとしている洋子ちゃんに、耳垢には二種類ある事を説明すると
「そうなんだ…うちみんなパサパサしてるから病気なのかと思った」

それを聞いて、もしかしたら洋子ちゃんのお父さんは飴耳だったのかも知れないな、
と私は思った。
洋子ちゃん家は小さい頃にお父さんが亡くなっている。

私は洋子ちゃんを手招きすると、道子に綿棒を持ってくるように指示した。
まず、耳に綿棒を入れる前に洋子ちゃんの耳を点検する。
「あ、…ああ、あるねぇ」
入り口からすぐ、飴耳特有のペチョペチョした垢が耳壁にまとわりついているのが見
えた。

11 :夢花火:2007/06/20(水) 17:29:53 ID:YwLlV/AI
「花火」6

太い側の綿棒をスルッと入れるとクニクニ…クニクニ…と円を描くように耳壁を拭き
取るように回していく。
これだけ量があると綿棒を次々新しいものに変えていかなければ追いつかない。
長居は無用だ。さっそく引き抜くと、十分に汁を吸った綿棒はぼってり重く、
片栗粉のようなとろみのある薄い玉子色の、餅状の耳垢が綿棒の頭全体にへばりつい
ていた。

健太が「いっぱい出たー」と言うと洋子ちゃんは恥ずかしそうに目をつむった。
「さて、道子綿棒お願い」
道子はさながらオペの助手のように綿棒を持って私の脇にスタンバイしている。
次の綿棒では耳穴の真ん中の耳垢を吸わせるように小刻みに輪を描く。
ズズ、ッャ…ズッズズズッ…小さな音をさせながら、綿棒は沼に穴を空けるように埋
まっていく。
ふと健太を見ると眠くなったのかうつらうつらしていた。

さて、奥まで埋まったのを確認してからののじを書くように優しく優しく綿棒を動か
し、
そうっとそうっと抜くと…
少し固めのゼリーのような耳垢がプルリッと綺麗に綿棒を取り囲んでいた。
「わー父さんのより綺麗」と道子もびっくりしている。
何度か沼に綿棒を入れ、さらに先の細くなった綿棒でキュッキュッとゼリーを巻き
取っていく。
するとつやつやゼリーは完全に綿棒にかからなくなった。

12 :夢花火:2007/06/20(水) 17:32:56 ID:YwLlV/AI
「花火」7

「道子シーブリーズ」
道子はほいきたとばかりにシーブリーズを綿棒に染みさせ渡した。
なかなかいい助手である。
綿棒を軽く絞って水気を切ると、私は耳かきの最後の仕上げにかかった。

「あ…ひんやりする…」洋子ちゃんはうわずった声を上げた。
「気持ちいいでしょ」というと
「うん、こういうの初めて」と言って洋子ちゃんはうっとりと目を細めた。

もう片方の耳も圧巻だった。
洋子ちゃんはいつも右手で綿棒を使っているらしく、左はどうしてもすくえない垢が
残っているようだ。
少し大きなゼリーに囲まれたキュウリの種、と言えばいいだろうか…
私にしてみれば耳垢沼から出てきた宝であった。
合計14本の綿棒を使って、ようやく洋子ちゃんの耳かきは終了した。
「どう?気持ちよかった?」と尋ねると、洋子ちゃんは
「気持ちよかった、恥ずかしかったけど」
そう言ってきちんと身なりを正すと、ありがとうございました、と言った。
礼儀正しい女の子である。いつでもしたげるからね、と言うと、洋子ちゃんは少し
曇った顔をした…

13 :夢花火:2007/06/20(水) 17:35:17 ID:YwLlV/AI
「花火」8

そうこうしていると夫の幸男が帰ってきた。
「洋ちゃん来てるのな」と言ってTシャツに着替えている。
近所の酒屋の景品で当たった「一番絞り」Tシャツである。
帰って早々申し訳ないなぁと思ったが、花火行くから運転して?と言うと
嫌な顔もせず幸男は「んー素麺だけ食わして」と言って台所に行った。

「父ちゃん花火!父ちゃん花火!」健太がはしゃいでくねくねしている。
急いで素麺を食べた幸男に運転を任せ、私達はいつもの穴場へ向かった。
沢山ある屋台がどんどん過ぎていく。
毎年の事ながら子供には辛いだろうが、これが我が家流だ。
なんとか車を止める場所も見つかり、どうやら花火にも間に合ったようだ。
幸男は「アイスいる人〜」と言うと、全員分のアイスを買いにポツンと一軒だけある
屋台に消えた。
そしてなぜかビールも買って帰ってきた。
あ、ずるい、と言うと「いいじゃん、0.5%」と笑っている。

そして子供たちは一番よく見える場所がいい、と私達の少し前に陣取った。

ヒュ〜……ドーン!!!…

時間ぴったりに開始を知らせる花火が上がり、いよいよ花火大会が始まった。
パーン…ドド〜ン!…ヒュ〜…ドン…ドドドドーン!!…
「わーすごいすごい!!」
漆黒の夜空を彩る赤や黄色の花畑に、子ども達の歓声が上がる。
道子も洋子ちゃんも健太もキラッキラした目をしているのだろう。
よく見えるなぁ、と言いながら、幸男は呑気に酒盛を始めた。

14 :夢花火:2007/06/20(水) 17:38:14 ID:YwLlV/AI
「花火」9

…本当に綺麗だった。
花火を見ていると、色んな思い出が蘇るから不思議だ。
思い出はどれも鮮やかで、繊細で、それでいて曖昧で…
無理に整理しようとするとガラス細工のように儚く壊れるような気がして、私はそっ
と目を閉じる。

近くにいるカップル達が携帯で花火を映しているが、私はああいうのは無粋だと思っ
ている。
花火は焼き付けるものだ、と珍しく哲学してしている自分に気がつくと、急におかし
くなった。

「たーまやー!!」健太は意味も分からずご機嫌で叫んでいる。
道子も洋子ちゃんもたーまやー!!と叫んだ。

花火があらかた上がって、急に静かになった。
ここで帰る人もいるが、しばらく間が空いた後、
最後の最後にやけっぱちのような花火が次々上がるので油断ならない。
とりあえず予定の終了時間まで20分ほどあるので芝生に転がって待っていると、
「健太君トイレ行きたいって言うから私連れて行きます」
と洋子ちゃんが寄ってきた。
気をつけてね、と言うと洋子ちゃんは健太の手を引いてちょっと遠くにあるトイレに
歩いて行った。

道子がじっと座っているので「一緒に行かないの?」と背中に声をかけた。
返事をしないので顔を覗くと、ポロポロ涙を流している。
びっくりして「道子どうした?」と尋ねると
しばらく間があったかと思うとアッ…アッ…と声を上げて泣き始めた。
ケンカでもしたのかと思って途切れ途切れの話を聞くと

洋子ちゃんは転校するのだ、しかも明日だと言う。

15 :夢花火:2007/06/20(水) 17:49:13 ID:YwLlV/AI
「花火」10

道子も驚いたはずだが私も驚いた。
明日?もっと早く言ってもらえたら、思い出を沢山作ったり一緒にどこかに連れてっ
てやったりできたものを…
塾が忙しいと言っていたのも引越しの準備だったのかもしれない。
あんまり遊べないと残念がっていた道子が可哀想で、私は泣き止まない道子の肩を抱
いていた。

しばらくして道子が一人でいたいと言うので幸男のところに戻ると、
私は「洋子ちゃん転校すんだって、明日、道子可哀想だよ!」と幸男にまくしたて
た。
幸男は「ふ〜ん」と言ってビールを飲んでいる。
「驚かないね」
拍子抜けしていると幸男はゆっくりビールの缶を置いて言った。

「だって俺知ってたもん」
「は…?」
「いや、夏休み入る一週間くらい前かなぁ。俺帰ったら洋ちゃんが家の前に立ってる
からさ、
遊びに来たんかと思って入んなって言ったんだけど、もじもじーってして入ってこ
ねぇの」
「…で?」

花火が再び上がり始めた
ヒュ〜………ドーン!
ヒュ〜……ドーン!ドッドッドドドッ…ドーン!……

「で何よ」
「で、聞いたら夏休み終わったら転校するから道子に言いにきたんだけど、
うまく言えないからおじさん言ってくださいって言うのね」
「…うん」
「ずっと言おうと思ったけど言えなくて遅くなっちゃったって泣いちゃって。おんお
ん泣いちゃってさ。
だけど俺が自分で言った方がいんじゃねぇの、って言ったらはい、っつっておとなし
く帰ってった」
と言って幸男はまたビールに口をつけた。

16 :夢花火:2007/06/20(水) 17:52:27 ID:YwLlV/AI
「花火」11

「え、何で道子に教えてあげなかったの!?な、夏休み今日で終わりだよ?」
前の夜、急に聞かされて明日転校していく親友。
道子が可哀想でたまらない私は幸男を責めるような口調になる。
「いやー。あのこの口から聞かねぇと、やっぱりさ、そういうもんだろ」
私が納得できない顔をしていると、幸男は続けた。

「一生のうちにさ、出会いとか別れとか何回も何回もあってさ。
んで別れの方が多くなってって最後死ぬ訳だろ。
その中にゃ切れちまう縁の方が多くて、それでも無くならない絆、みたいなのを探し
て人間は生きてる」
「うん…そうだぁね」
幸男は酔いが回ってきたのかちょっと赤くなった顔でさらに続けた。

「あのこと道子がどんな絆を結ぶか、そりゃ誰にもわかんない。
でもそりゃ、他人が入ってやいやい言っても仕方ない事なんだよな。
自分らで始めた絆なんだ、自分らで最後まで面倒みなきゃ。
あのこも悩みに悩んで、結局今日になったんだろ。
言っちゃったらどんな顔して道子に会えばいいか分かんなかったんだろ」
幸男はそういうとビールを飲み干して芝生に寝転んだ。

17 :夢花火:2007/06/20(水) 17:54:28 ID:YwLlV/AI
「花火」12


道子は一人で花火を見ている。
見ているのか見ていないのか、背中ごしには分からない。
最後の連続花火が次々に夜空を飾る。
小ぶりだが鮮やかな花火は、色とりどりの表情で夏休み最後の一日を締めくくろうて
していた。

やがてパーン……と最後に大きな柳花火が上がり、花火は終わった。
道子の背中はしばらくじっと動かなかった。

幸男はとろんとした目で煙の残る夜空を見ている。
虫の音だけが暗闇に響いていた
道子はどんな気持ちなんだろう…幸男のようには考えられなくて、私はただただ道子
の背中を見ていた。
洋子ちゃんが長いトイレから戻ってくると、道子の所へ近づいていく。

足音に振り返った道子は、笑顔だった。

帰りの車は静かだった。
ラジオから野球中継が聞こえている。
幸男と健太は疲れたのかすやすや眠ってしまった。

ふっとミラーごしに道子を見ると、窓を向いて声を出さずに泣いていた。
洋子ちゃんも泣いていた。

18 :夢花火:2007/06/20(水) 17:57:17 ID:YwLlV/AI
「花火」13


家の近くのめったにかからない信号で止まった。
野球中継も終わったラジオからは昔の歌謡曲が流れていた。

「来年も…」
道子が口を開いた

「来年も花火行こうね」

「……うん…」
洋子ちゃんは小さく何回何回も頷いていた…

洋子ちゃんの家の前まで来ると、車から降りた道子と洋子ちゃんはねんごろな別れを
している。
背中を叩きあったり抱き合ったり笑って手を繋ぎ合ったり…
「明日仕事早い?」と助手席の幸男に聞くと、
「好きなだけさせてやろうや。朝になったら仕事場まで車で送って」と言った。
後ろのシートで目を覚ました健太が空を指さして
「あ、花火〜」と言った。
花火は終わったのになぁと幸男と顔を見合わせて窓から空を見ると、
暗い夜空をぽっかりと、まんまるの月が照らしていた。


・・・・・・・・・・・・END


19 :癒されたい名無しさん:2007/06/20(水) 17:59:54 ID:Y3AGPflj
乙!
胸にグっときました。泣きそうだ。

20 :夢花火:2007/06/20(水) 18:01:17 ID:YwLlV/AI
長々とありがとうございました…
初めてスレッドを立てたので一人でこんなに書きこんでいいのか?とか非常に不安でした
拙い文章に見苦しい所ばかりだったと思います
そして私は最大級のミスを犯しています
もうお分かりかと思います
そうです
この登場人物は天ぷらとスイカを食べています

気がつかねかったよ………orz

21 :癒されたい名無しさん:2007/06/20(水) 18:18:52 ID:R/sWDIw1
オツカレー(_´Д`)ノ~~です

確かに後半を入れるとあのスレじゃちょっとまずかったかもです。
ぜひ、「夢」もここにおいてあげてください。
耳かきしてほしいよーあのおじいさんにー
すべてを委ねるのにw

22 :癒されたい名無しさん:2007/06/20(水) 18:40:18 ID:Y3AGPflj
>>20
天ぷらとすいかワラタw
気づかなかったよ。「今夜は素麺と天ぷらにしよう」とは思ったけど。

内容からして夢花火さんは主婦かな?
小説を書いたのは「夢」が初めてとのことですが、
今まで文章を書くお仕事とかされてたことがあるのですか?
また、二作を書き上げるのにどのくらいかかりましたか?

23 :夢花火:2007/06/20(水) 19:35:56 ID:YwLlV/AI
>>19>>21-22
皆さんありがとうノシ
純粋に耳かきだけの小説にする所がつい色気を出してしまうので、やっぱりここで書きたいと思います
「夢」もいずれこっちに入れるつもりです
今日は携帯厨なので疲れたす…(´д`;)

24 :夢花火:2007/06/20(水) 19:49:33 ID:YwLlV/AI
>>22
素麺ですか〜家もですw
自分は主婦ではありません、一応20代半ばの独女ですw
一家を任されているお母さんにものすごく憧れてはいますが全て想像ですw
こういう形で文章を書いたのは本当に初めてです
制作時間ですが、「夢」は携帯で空いた時間にちょこちょこ書いたので正確にはわかりませんが一時間半くらいです
細かい事は無視してアイデアを繋ぐ作業だったので割りと早く出来ました
「花火」は全文まとめて書きました
細かい直しにこだわりが出だして、四時間くらいかかったと思います

25 :夢花火:2007/06/20(水) 19:52:18 ID:YwLlV/AI
自分で何なんですが夢花火って夢芝居みたい…
梅沢富男…?
最初梅沢富子にしょうかと思ったけどやめました

小説リクエストお待ちしてますノシ

26 :癒されたい名無しさん:2007/06/20(水) 19:56:50 ID:ydL7nijG
1が張り切ってるのはわかるけど、1専用のスレではないんだよね?
レス連投はウザくみえるから、やめたほういいんじゃない。

27 :夢花火:2007/06/20(水) 20:04:06 ID:YwLlV/AI
ごめんなさい、以後ひかえます

28 :癒されたい名無しさん:2007/06/21(木) 19:54:42 ID:JWAzETbx
アチラからとんできました
続きが読みたかったのでスレが立って嬉しいです

新作投下お待ちしております

29 :夢花火:2007/06/22(金) 07:41:33 ID:D+5ZXM5A
「猫臓」1

訳あって寝不足である。
漫画家を生業にしている私にとって、締切前の一日二日の徹夜などは当たり前。
今回などは三日徹夜してしまった。やっと原稿が仕上がり、近くに借りている仕事場から
帰宅したのは一週間振りだ。
久しぶりに風呂にもつかり、さて思う存分寝られるぞ、とホクホクして布団に入ったのだ
が、人間おかしなものでこういう時になかなか眠気が襲ってこない。
仕方なく大好きな関根勤のDVDを見ながら睡魔の登場を待つ事にした。

しばらくするとスゥ…っと眠りに堕ちる感覚がして私は意識を失った……

……はずなのだが、しばらくしてまたぽっかり目が覚めた。
生暖かい風が吹いた気がしてふっと窓を見ると、カーテンに隠れるようにして見覚えのあ
る猫が座っていた。

猫は白に黒いブチで大柄、首にドラえもんの鈴をつけている。

「…猫臓?」
猫臓とは私が、子猫の時分捨てられていたのを拾って大事にしていた猫で、つい先月
老衰で亡くなったばかりである。
チリ…チリ…と鈴を鳴らして猫臓は三歩ほど進むと完全に姿を現した。
それを聞いて猫臓の鈴は中が錆びていて、チリチリと鳴ったのを思い出した。

30 :夢花火:2007/06/22(金) 07:48:22 ID:D+5ZXM5A

「猫臓」2

「ミャーミャー…」猫臓はしきりに何か話しているようだ。
と、しばらくするとまるでニュースの同時通訳のように、日本語が
聞こえ始めた。

ミャー…「…私の名は猫田猫臓。享年16歳。人間でいうところ180歳。生前は主人に大変
可愛がって頂き、誠に有り難く、私大変感謝致しまして、今、また生前の姿を借りて
こうしてご挨拶に参上した次第であります」

私があら、猫臓ってこんなキャラだったっけか、と思っていると、猫臓はさらに続けて言った。

「私生まれてすぐ捨てられ、母の顔も分からず、肺炎の身のところ手厚く看病して頂き、
長らく立派な家に住まわせて頂き、ご恩は感謝してもし尽せぬ程であります」

何かに似ている…私は考えていて思い当たった。口調が鳥肌実の演説にそっくりなのだ。

「猫も長く生きておりますと、不思議な力を持つ事がありまして、神様にお願い致します
と、主人の願いを一つ叶えてもよいと言って頂きました」
「神様…願い…」私が呟くと猫臓はひとしきり声を張り上げて鳴いた。
「私残念ながら、あまり長くはいられませんので、どんな願いでもよろし、お急ぎ下さい」

急げと言われても…と思ううち、みるみる間に猫臓の体が消え始めた。

31 :夢花火:2007/06/22(金) 07:56:54 ID:D+5ZXM5A

「猫臓」3

「ちょっと、待って!」私が叫んだのに、猫臓は聞こえないのか「主人、早く願います」
と言うばかりだ。
それで急に私は、猫臓が死ぬ前耳だれに悩まされていたのを思い出した。
するとなぜだかしばらく耳かきをしていなかった事を思い出した。
思い出した途端耳が無性に痒くなってきて、私は思わず
「ちっさくなって自分の耳に入りたい!」
と叫んだ。

首から下は完全に消えていた猫臓は「了解。主人、それではどうかお元気で…」
そう言うとスーッ…と闇に溶けるように消えた

…兼ねてから妄想していた事を言ってしまった…まあいいだろう、猫臓にどれだけ
力があるか知らないが、何が起こるか楽しみだ。
しばらくすると辺りが急に真っ暗になった。

目が慣れるまで随分かかって、ようやく自分が耳の中にいる事に気がついた。
しかし本当に真っ暗である。
自分自身の体さえはっきり見えない状態では、暗い洞穴でじっとしているのと変わらない。
私は猫臓に耳に入りたいと言ったが肝心の耳かきをしたいと言うのを忘れた。
猫臓があんまり急かすから、すっかり目的を伝えそびれてしまったではないか。

私は腹が立って「おい猫臓!」と言った。
とたん耳がキーンと痺れてしまった。そうだ私は自分の耳にいるのだった…。
するとどこからか「はい、猫臓です」と聞こえてきた。
また喋るとキーンとくるが仕方なく小さい声で「消えたんじゃなかったの」と言うと、
「猫臓、姿は消えましたがいつもここにおります」と言う。

32 :夢花火:2007/06/22(金) 07:57:57 ID:D+5ZXM5A

「猫臓」4

じゃああんなに急かす事なかったじゃないか、と私は思った。
「さっき伝えそびれたんだけど、私耳に入りたい理由が耳かきしたいからなんだよね」
と言うと「主人は耳かきが大好きでしたからね」と言う。
「そうそう、だから、耳かきしたいんだけど道具がないんだよ、何か出して欲しい」
と言うと猫臓は「承知」と言って、出してくれるらしい。
私はすかさず、ヘッドライト・綿棒・ローション・ティッシュにスコップを要求した。
「沢山ですな。ちょっとお待ちを」と言って猫臓はしばらく待たせた後に
希望の品を手元に並べた。
なんだ、願いは一つだけと言っていたのに叶えられるんじゃないか。
そう思った私はちょっと考えて「猫臓2億ちょうだい」と言ってみた。
猫臓が黙っているので「2億」と続けて言ってみると「…よく聞こえませぬ」と言う。
仕方なく道具を装着し、私は早速奇妙な耳かきを始める事にした。

33 :癒されたい名無しさん:2007/06/22(金) 08:34:55 ID:Kabheu8D
つ、続きを〜〜!(;´Д`)ハァハァ

猫「蔵」じゃなく猫「臓」な」とこに内臓感を感じるw
2億くれー

34 :夢花火:2007/06/22(金) 12:12:54 ID:D+5ZXM5A

「猫臓」5

まずヘッドライトを付けなければ話にならない。
スイッチを入れるとライトの明かりにクラッと目がくらんだ。
しばらく暗闇にいたのでこれまた目が慣れるまでじっとしていると
だんだんと視界がくっきりしはじめた。

…そこは見たこともない世界だった。

ライトは手近な所しか照らせないのだが、まず床から説明すると
白い鰹節が一面に散っていて、厚く踏み固められたように何層にも重なって
敷きつめられていると想像して頂きたい。

触ってみると上の垢はサクサクしていて、中の垢はしっとり、底辺の垢はもっちり…

まるで上質なパンのような質感だ。
そして少し先には耳毛が生えているのだが、その見た目はまるですすき畑のようだっ
た。
毛の頭には雪のように軽い耳垢が積もり、
間には固くなった黄身のような塊が、大小様々な形で一つ一つの毛を絡めている。

驚いて左右を見渡すと今度は下のすすき畑から一変し、
先端の垢によって稲穂のように頭を垂れた耳毛がびっしりである。

「・・・・・・・・」

私は言葉を失ってしばらく呆然と立っていた。下は雪景色・回りはぐるっと秋、
そのくせ耳の中は春のようにぽかぽか暖かく汗をかく陽気だ。
耳の中に季節があるとは誰が想像しただろう・・・。
上はどうなっているのかと顔を上げて仰天した。
なんと上からは鍾乳洞のようにプラ・・・プラ・・・と揺れる大きな耳垢がぶら下
がっているではないか。

35 :夢花火:2007/06/22(金) 12:16:12 ID:D+5ZXM5A

「猫臓」6

驚きはこれだけではなかった。
さらにライトを先に向けると耳毛畑は短くなり、やがて無毛地帯になった。
するとライトが何かに当たったのか反射し始めた。
よく照らすと耳奥は何やら分厚いマットのような巨大な壁で塞がれているではない
か。
あれが一番の目玉と直感すると、今やミクロキッズさながらな私はあまりの大きさに
びびってしまい
勝てない…と弱気になってしまった。

しかし固まったままになっていては仕方ないと、私は大きく息を吸い込むと、
まず下の耳垢から退治する事にした。
だが大量の耳毛に手元の何を使ってよいやら分からない。
私はふとある事をひらめき、猫臓を呼んで剃刀とジェルを持ってくるようお願いし
た。
手元に届くと早速私は稲刈りの要領で耳毛を刈り始めた。

………ジョリッ…!ジョリ…!!

一気に身の毛が総立ちになった。す、すごい…こそばゆさと妙な快感に足がぶるぶる
する。
耳の中で二十本くらいのハサミで毛の束を一斉に切ったような大音量が響く。
それは自分のやる行為が全て自分に返ってくる不思議な感覚だった。
耳毛に着いた粉雪のような耳垢が舞い、毛の下から厚手のパイ生地のような耳垢が
次々出てくる。
私は快感と鳥肌の変なコラボに汗だくになりながら、ようやく下の耳毛を剃り終え
た。

さて、お次は左右である。とそのとき耳の上側から妙な感覚がした。 
なにかやわらかいものがしきりにチョン…チョン…と耳壁をさわっているのだ。
猫臓である。
「何をしてる」と言うと猫臓はやたら興奮した声で「上から毛糸の玉が…!!」と言
う。
どうやら猫の習性で、私の耳から垂れている垢の玉に飛びつきたくてたまらなくなっ
たらしい。 
私はさすがに呆れて「遊んでいるなら手伝ってよ」と言った。
猫臓はまた沈黙するかと思ったが、妙に弾んだ声で「分かりました」と言うと
思いっきりジャンプしたのか上の耳垢のつららをものすごい速さで叩き落とし始め
た。

36 :夢花火:2007/06/22(金) 12:58:50 ID:D+5ZXM5A

「猫臓」7

姿は相変わらずないが頭にビシビシ降ってくる耳垢の雪に、私は初めて猫臓の手が
驚くほど耳垢取りに適しているのを知った。まずあの柔らかな小手先で大きな耳垢を

あらかた払い落とし、次にほんのちょっぴり爪を立てて耳垢に引っ掛けて
カリカリ…コリコリ…と小気味いい意音をさせながら器用に取り除いていくのだ。

猫臓は私の三倍は速いスピードでみるみる間に上の耳垢を無くしていく。
私も負けてはいられない…いられないのだが…
ゴゾッ!!!ゾゾゾゾゾゾゾゾ…………ゴゾ!!
カリカリカリカリ…ペリ…カリコリッ…ぺリ…

何ということだ。あまりの気持ちよさに、頭の芯がぼうっとしてもうフラフラ、クラ
クラ
真っ直ぐ立っていられなのだ。まずい。自分でやるときは、やっている場所が分かる
ため、
正直力も加減ができるのだが、他人、他猫の耳かきに身を委ねる時予期しない
場所のポイントをそれも手加減なしに掘られる。そのスリリングなこと!!

「猫臓、ちょっと私は休憩してもいいか」
私は猫臓の耳かきをじっくり堪能したくなり言った。この言葉は嘘ではない。
はっきり言わないのは飼い主の意地である。
猫臓は「ではあの大物まで私がすすめてみせましょう」と得意げにのどを鳴らした。

37 :癒されたい名無しさん:2007/06/22(金) 20:01:19 ID:M3YJu2Ny
(;´Д`)スバラスィ ...ハァハァ

38 :癒されたい名無しさん:2007/06/22(金) 20:53:06 ID:e3AHIvnj
つ…続きはマダですかハァハァ(*´д`*)

39 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 01:37:59 ID:Wd1uiNkQ
こんな使い古されたアイデアをこうも斬新な切り口で攻めてくるとはッ……
こいつぁタダモンじゃねえ!

えーと、ところで続きまだっすか(*´Д`)

40 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 06:15:49 ID:wrGoeCGa
願いがひとつ叶うなら
私にも猫臓をください(*´Д`)ハァハァ

41 :夢花火:2007/06/23(土) 08:02:44 ID:UNNmsOdr

「猫臓」8

猫臓がまず横の耳毛だけは刈ってくれと言うので、私は考えて上からぶら下がる
耳毛に体を縛り、ロッククライミングのように体全体を使って剃りはじめた。
どうしても綺麗に剃れない箇所もあるのだが、せめて芝生程の長さになるよう体を
揺さぶりながら懸命になって頑張った。
右側が済むと今度はターザンのように左へ移動し刈り進め、あらかた済む頃には
私はすっかりバテてしまった。

「主人ご苦労様です。そちらでゆっくりおやすみになって下さい」
そう猫臓の声がどこかから聞こえたかと思うと右壁を叩くような感覚がし始めた。

…ポン…ポン…

猫臓は足を曲げて耳壁に残っている耳垢をはたいているようである。
猫臓の柔らかな肉球は、小さくティンパニーを鳴らすように、ポワ〜ン…ポワ〜ン…
と耳全体に柔らかな振動を与える。私は体がジン…と痺れるような心地よさに
うっとり目を閉じて頭の中の音楽に神経を集中させた。

ファサ…っと下に落ちる耳垢は全て、まるで柔らかな生パン粉のようだった。
猫臓は左もはたき終えると、今度は耳全体の厚い層になっている場所にとりかかった。
前足をくの字型に曲げているのだろう、猫臓のクニクニした足が器用に
パイ生地の塊をモッコリと掘りうがしていく。すると耳垢はみるみる矧がれて
勝手にブワッと盛り上がってはザッ…と音をたてて落ちていった。

…ザク…ファサッ…サクサク…サクサクッ……ファサ……

スコップで水分を含んだ土をすくうような音が続いた。私はというともう両足を投げ
出し、首を傾けてこの不思議な世界をただ口をあけて見ているだけである。

42 :夢花火:2007/06/23(土) 08:09:52 ID:UNNmsOdr

「猫臓」9


猫臓は左右と下の垢処理を早々に終わらせると、また爪を出して残った細かな
垢を引っかき始めた。

カリカリッカリカリッといいはじめると、思わず武者ぶるいする程の快感がやってきた。
ああ、どうした事だ、もう失禁さえしてしまうかもしれぬ。
硬くなっている耳垢は猫臓の爪の匙にすくわれ、その度にコロンと下に転がった。
いつもでさえ硬くなっている垢を耳かきでこそげるのは気持ちいい。
だがこれは普段の耳かきがあほらしくなる程、比べ物にならない快感だった。
普段なら絶対匙がかけない細かい箇所でさえ、猫の手にかかれば綺麗に取り除かれてしまう。

そして大きな快感の波がやってきたのを感じた。
私はあらがう事なくその波にのまれ、ただただ快楽の海をプカプカと漂った。

私はしばらく意識を失っていたらしい。猫臓がしきりと私の顔を撫でている。
「主人、起きて下さい、あと少しですよ」
私は先ほどの快感ですっかりふぬけたようになった頭でぼんやり辺りを見回した。


そこには綺麗な薄いピンクの世界があった。
あれだけあった耳垢はすっかり無くなり、渦高く盛られてひとところに集められている。
その量は凄まじく、入りの穴が見えない程だ。

「わぁ……」私は小さく呟いた。
すると猫臓は「奥にあるのは引っこ抜かないと駄目みたいです」と言った。
どうやら掘ろうとしたのだが、触れば触る程奥にいってしまうらしい。
何かに引っかけなければなるまい。私は猫臓に道具を出してくれるよう頼もうとしたが、
猫臓は先ほどの活躍ですっかりへたばったのか無理だと言う。肉体の疲労は不思議な力を
奪ってしまったらしい。
アイディアをひねって、私は耳毛の長いのを編んでロープを作る事にした。
そして手元の綿棒をローションに浸けて湿らせると、巨大なマットのような耳垢の壁に
ネジをはめるようにグリグリ埋めていく。すると杭を打ったように壁に綿棒の取っ手が完成した。

43 :夢花火:2007/06/23(土) 08:12:14 ID:UNNmsOdr

「猫臓」10

私はその綿棒に一つ一つ耳毛ロープをくくりつける。猫臓も上の方に飛んで手伝った。
そして全て終えると、私は手元で束にしたロープを引っ張る作戦に出た。

体にロープを巻き付け、「大丈夫かな、途中で杭が抜けたりしないかな…」
私は不安になって言った。猫臓は「やらぬで後悔は男の恥であります」と男気を見せた。
いちにのさんでいくよ、と言うと、私達は巨大な耳垢の塊に背を向けた。

…いち……にい……さん!!!!!


ゴゴッ……!
まず大きな岩が動く低い音がした。続いて

ズ…ズ…ズルズルズルズルズルッッッ………

トラックを引っ張っているように重い。耳が、足が、腰が抜けそうだ。
猫臓踏ん張れ!と声をかけ、私達は渾身の力をこめて前へ前へ体を動かした。
汗が吹き出る。息も絶えだえになり、もうだめか、と思った途端

……ズポン!!!!!

耳に風が吹いたように急に体が軽くなって床に転がった。
急いで立ち上がると猫臓を探す。
「猫臓!猫臓!」
ロープを辿ると猫臓は入り口の耳垢の山まで吹っ飛んで埋もれていた。

44 :夢花火:2007/06/23(土) 08:49:20 ID:UNNmsOdr

「猫臓」11

「猫臓!大丈夫か!」私が声をかけると「はい、なんとか無事でございます」と返事がした。
私はほっとして、後ろを振り返った。


「………あ……」

私は声を失った…

あの巨大な耳垢の壁は見事に倒れ、煙のような細かい耳垢が舞っていた。
私は咳き込みながらゆっくり近づくと、巨大な耳垢を観察した。

壁は衝撃で割れてしまっていた。私は残念に思った。出来れば完全な形で見たかった
からだ。ふと先に目をやって愕然とした。

これは…これはまるで巨大なサザエのつぼ焼きじゃないか…
トゥルン…と表現するのが一番的確かもしれない。
貝の肝を連想させるちょっとグロテスクな形の耳垢が、湯気をたてて横たわっていた。
耳垢は玉子色から先端に行くほど濃い黄色に綺麗なグラデーションを描いている。
所処ある黒くなった古い耳垢がまるでバナナにできたシュガースポットのようだった。
最初に巻き貝を触るのは恐ろしく、私はまずおそるおそる壁側を触ってみるた。
割れた断面は石のようにカチカチしている。だが間の耳垢は茹でたじゃがいも
のようにほっくりしていて、中へ行く程柔らかく、クッキーの焼く前の生地の
ようなしっとりした質感だ。

私はほうっ…と息をつくと、改めて辺りを見た。
巨大なサザエの先には、でっかいでっかい洞穴がぱっくり口を空けていた……

45 :夢花火:2007/06/23(土) 09:15:17 ID:UNNmsOdr

「猫臓」12

ゴッ……
ゴトゴトゴトゴト……
急に足元が震え始めた
「え…?」


「主人、時間切れでございます…」
なんとそう聞こえた途端、ドーン!ドーン!と太鼓のような太い音をさせて
耳の中は激しく揺れだし、私は立っていられなくなった。


「一番肝心な時に………猫臓のバカ〜………!!!」
自分の叫んだ声がこだます中、辺りは急にサッ…ともとの暗闇になった……


次の瞬間私は部屋に立っていた。
猫臓の入ってきたはずの窓は閉まっている。「猫臓…?」返事がない。
猫臓、どこだ、いるなら返事しろ、と私はなおも呼びかけたが無駄だった。
夢だったのか…?にしては私はベッドにおらずしっかり立っているのだ。
テレビがつきっぱなしになっている、電源を切ろうとして気が付いた。
「はぁ…そういう事か?」
なんとなく私は理解した。
ずっと猫臓の声が誰かに似ている、でも名前が出てこない、と思っていた。
大滝秀治だ。私が見ていた関根勤のDVDによって、記憶の片隅にこびりついていたのだろう。
するとあれは疲れすぎた私の脳が見せた幻だったのか…

46 :夢花火:2007/06/23(土) 09:30:13 ID:UNNmsOdr

「猫臓」13

時計を見るとなんと昼の3時を回っている。よくまあ長い幻想を見たものだ。
私は寝に入ろうとしたが汗をかいたのか喉が渇いて眠れない。
だが長く留守にしたため冷蔵庫にはお茶さえなかった。仕方なく下の自販機で
買ってこようとアパートの廊下に出た。

すると大家さんが掃き掃除していて、私を見るなりぷりぷり怒りながら近づいてきた。
「吉田さん困るわよあなた、約束したじゃないの」と言う。
私が何の事か理解できないでいると、一晩中猫の鳴き声がしてうるさいと下の
階から苦情があったと言うのだ。

私がびっくりしていると、「前の猫ちゃんの時は見逃してたけど、うちはペット禁止
なんですからね。新しい猫なんか飼ったら出ていってもらうわよ」
と言って腕を組んで恐い顔をした。
「飼ってませんよ」と言うと疑り深そうな目をしている。
本当に出ていってもらうからね、と念を押して大家さんは去っていった。

47 :夢花火:2007/06/23(土) 09:41:05 ID:UNNmsOdr

「猫臓」最終話

あれは現実だったのか、私はまだぼんやりした頭で考える。
このところ雨ばかりだった空は今日はすっかり晴れ、すがすがしい青空を覗かせている。
街も久しぶりの太陽で、まるで洗われたようにピカピカ光っていた。

…猫臓がいたかどうか、耳での大冒険は本当だったのか。
そんなのは何も分からない、そんな事は本当は何の意味もない…
ただ、また猫臓に会えて良かった。
私はそう思うと、すがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込んだ…


するとよく聞こえるようになった耳に、チリチリ…と鈴の音が聞こえたような気がした。

……………END

48 :夢花火:2007/06/23(土) 09:45:31 ID:UNNmsOdr
いかがだったでしょうか
途中話がちょっとだれてしまって、文を立て直すのに時間がかかってしまいました

間が空いてしまい申し訳ありませんでした
楽しみにして下さった方々ありがとう

>>33
あの…もう…狙ってませんでした…
完全に凡ミスです…orz…

49 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 10:49:04 ID:HxJApkZh
ねこぞーめ、いい猫だw
うちの猫なんて悪いこと以外したことないのに・・・

いや〜いいです。
耳かきマニアなら一回は夢見ますよね。<小さくなって耳に入る

50 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 15:02:42 ID:bpFd0B3c
(;゚∀゚)=3ムッハーおもしろかったー

猫臓の声は秀治ですかwいいですねえ
長生きして不思議な力を持つ猫の声にぴったりかもデス。

また書いてくださいね。楽しみにしてます。

51 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 19:37:37 ID:p8Attxps
本当に癒された
また楽しみにしてます。

52 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 20:13:21 ID:wrGoeCGa
ひとつ気になることが…
がんばって取った耳垢はその後外に出たの?

53 :夢花火:2007/06/23(土) 21:27:41 ID:UNNmsOdr
「私、耳垢のあまりの魅力に負け、ついつい出来心で冥土の土産に頂いていきました…」
と、猫臓は恥ずかしそうに目を伏せながら>>52さんに言った…

……すんませんツメが甘カタ…(;∀;)

54 :癒されたい名無しさん:2007/06/23(土) 23:42:34 ID:Wd1uiNkQ
あれじゃね
夢花火氏は書きながら投下するんじゃなく、一旦テキストに纏めてみてはどうだろう
少々推敲の足りない箇所もちらほらあるしさ、折角腕は良いんだから勿体ないと思うんだ

55 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 00:21:36 ID:sS0RPtP8
みんとぶるうさんなんかもまた書いてくれるといいね。
やっぱこういう専門スレならうざがられないだろうし。


個人的に読みたい話。
台湾とかそっちに伝説と言われるような耳かき師がいて、そのテクニックを
ひたすら堪能できる話。
各種耳かきに加え、梵天を使った超気持ちいい描写があったらさぞかし
読んでてぽーーっとなるのではないかと・・・

夢花火さん、よかったら、お願いしますm(__)m

56 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 00:58:33 ID:fbBqvCmI
>>54
それは賛成だ。書く方も間違いが少なくなるし読む方も一気に最後まで読めて良し

57 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 01:12:27 ID:+IaJqapI
猫臓ー!
ブツ独り占めかよwwww

58 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 03:12:04 ID:DumstyLL
これほどの恍惚な耳掻き小説は久しぶりでした。
こんばんはコレを読みながら耳掻きします、オツでした。

59 :ねこずきん:2007/06/24(日) 04:32:20 ID:VaBlIBU0
僕もなにかかいてみるよぉ

60 :夢花火:2007/06/24(日) 06:03:53 ID:D8QgLBRf
>>54>>56
アドバイスありがとうです〜早速やってみます(^ω^)ゞ

>>55
私もみんとぶるうさんの小説大好きなんです
また読みたい…

リクエスト了解しました!
ちょっと時間を頂くかも分かりませんが頑張ってみます(・∀・)∩

61 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 06:35:18 ID:P69HjYlh
wktkして待ってまつ

62 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 06:45:30 ID:sS0RPtP8
>>60
やったー!
どうぞ、時間のあるときにでも。
wktkして待ってます(・∀・)

63 :癒されたい名無しさん:2007/06/24(日) 06:48:25 ID:sS0RPtP8
>>59
待ってます!

スコープで気軽に耳の中はチェックできるわ、耳小説は読めるわ
いい時代になったもんだ・・・

64 :癒されたい名無しさん:2007/06/26(火) 10:17:53 ID:zNW9QbBO
あと10年もすれば
極小の「猫臓ロボット」が開発されるかもしれんねw

65 :癒されたい名無しさん:2007/06/27(水) 23:53:26 ID:FaXA9W0l
耳がじ〜んとして気持ちい〜…

職人さんGJ!

66 :癒されたい名無しさん:2007/07/02(月) 19:59:30 ID:P+Nx5wpD
だれか投下してくださらんかのぉ

67 :癒されたい名無しさん:2007/07/11(水) 15:07:43 ID:FD/iWK6s
保守

68 :癒されたい名無しさん:2007/07/15(日) 11:04:18 ID:eovCYnCT
新作マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

69 :癒されたい名無しさん:2007/07/19(木) 03:14:28 ID:tBR2d809
耳掃除
http://vision.ameba.jp/watch.do?movie=519844

70 :癒されたい名無しさん:2007/07/20(金) 11:04:26 ID:gthhumag
(*´Д`*)

71 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:25:04 ID:RNG62B+m
自分の趣味というか、これが我が理想であるというのをそのまま形にしてみた小説を書いてみたんだが
どうも微妙に需要あるか不安なので一応聞いてみる

・物書きスキルは下の上〜中の下
・登場人物は野郎二人(NOT801)
・一人称の語りが微妙にウザめ
・膝枕不要派
・梵天? 何それ?
・孤独の耳掃除
・ピンセット=まじんぎり
※一部意味不明なワードが混じってるのは仕様です

とまあこんな代物だけど、適当に需要ありそうだったら投下してみるぜ
今夜の夜10時くらいまで待ってみる予定
この時点で拒否反応出るようなら今のうちにIDをNG指定にでもしといてくれ
興味なかったらスルーしてくれればおk

72 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:33:36 ID:qkXk7fIu
何言ってんだ遠慮するなよ!!
待ってるからな(*´Д`*)つC

73 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 07:04:28 ID:B2cX1On/
wktkして待ってる

74 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 14:54:13 ID:NiqY/lMG
待ってる!

75 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:13:56 ID:O+D1j6qo
>>71
マダー?チンチン(AAry
今まさに耳掃除始めたのでそろそろ頼む

76 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:35:55 ID:RNG62B+m
今更こんな代物で大丈夫なんだろうかと頭抱えておりました
チキンハートでサーセン

でも宣言しちゃったし要望も多いみたいなので意を決して投下開始

77 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:37:20 ID:RNG62B+m
ごめん、クセで改行少なくし過ぎた
ちょっと修正タイムプリーズなんだぜ

78 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:39:33 ID:B2cX1On/
待ってました!

79 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:46:11 ID:RNG62B+m
 例えばの話だ。
 頭が重くて首が痛くて、「うーん」なんて一人で唸っちゃったりしながら、首をぐるぐると回している男がいたとする。
 ああ肩凝ってるんだな、って見た瞬間に解るよな、誰だって。
そういうの見てるとさ、こうスッキリさせてやりてえっつーか、辛そうなの見てるとこっちまで肩が重い気がしてくるみたいな、あるだろ? そういうの。
 あの辺をちょっと後ろからぐいぐいぐりぐりとやってやったら、さぞ気持ちよさそうに溜息なんかついちゃったりするんだろうなあ、とか。
「で、要するに?」
「俺を見てみろ」
「耳に指突っ込んでぐりぐりしとるね」
「それを見てどう思った?」
「いや特に何も」
「お前は空気が読めなさすぎる」

 さて、自己紹介が遅れたようだ。
 俺の名は……って、別にそんな事はどうでも良いよな。大事なのは、俺は大変が耳が痒い、その一点だけだ。それも朝からだ。
 どのくらい痒いかって、そうだなあ。すんげえちっちゃい猫じゃらしで耳ン中ゴソゴソされてる感じ?
 まあ兎も角、恐らく大物と思われる耳垢がガサガサしてくれやがっている訳だ。
 で、人様の部屋――ちゅーか俺の部屋だ――でがぶがぶ麦茶飲みまくりながら、同じく人様のソファでゆったりとくつろいでいらっしゃる、こちらの空気の読めない御仁は――
 ていう紹介やっぱりどうでも良くて、要するに今俺の部屋にいる俺以外の人間と言えばコイツしかいない、という事実が重要なんだ。
 それも今の俺にとっては数少ない、気の置けない友人の一人である。である筈だ。筈なのだが。
「君は10年付き合った友の気持ちも察せないかね」
「お前は遠回し過ぎるんだ」
 ええい、話のわからんヤツはこれだから。単刀直入な表現は俺の美的センスに反するのだが、やむを得まい。
「焦るんじゃない、俺は耳が痒いだけなんだ」
「俺にはゆっくり耳掃除してる時間も落ち着いてる時間もないんだよ」
 オーケー相棒、ネタの解らない人に不親切だ。というかワザとやってるだろお前。
「で、結局やってくれるのかくれんのか、どっちだ」
「まあ、そろそろ溜まってくる時期だろうとは思ってたからな。いっちょやりますかね」

80 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:47:17 ID:RNG62B+m
「えーと、耳かきはこれで良いんだっけか? つーかまた増えてないかコレ」
「親愛なる友人への心暖かい配慮さ、何でも使いやすそうなもんを使ってくれたまえ。……あ、でも大物っぽいから念のためピンセットも用意な」
 いい加減限界に達しつつある痒みを堪えながら、俺は指示を出す。
 耳掃除は出来れば毎日やりたいほどで、幾種類もの耳かきは何とかしてあの快感を得ようとした虚しい努力の結果である。
 しかし神様の糞野郎は何か恨みでも御有りなのか、絶望的なまでに不器用な手先をプレゼントしてくださった。
 いくら痒いところを掻こうとしても、耳穴からは見当違いの感触ばかりが返ってくるばかりで、無理に探ろうとすればデリケートな部分を刺激し、激痛に身悶えるハメになるのが常だ。
 シンプルな竹の耳かきは言うに及ばず、スプリングやらのの字やらとありとあらゆる耳かきを手に取ってみたが、どれもこれもまるで俺の手と耳にマッチしないのである。
 しかもカサカサカリカリの塊が出来るタイプなもんで、綿棒じゃ撫でるばかりで寧ろ痒みを増幅させてしまうと来ている。
 それに俺の耳穴は標準よりもちょっとばかり狭い上、曲がり具合も複雑ときていて、もうここまで来ると見えざる意志の力を感じてしまう。
 よって、耳掃除の際はこうして他人に頼らざるを得ないわけだ。
 因みにコイツにやってもらうのはこれが初めてではないので、そういう意味でも安心して任せられる。
 人間持つべきものは友、とはよく言ったもんだ。
「ところで膝枕すると耳掻きしやすいっての、あれ都市伝説だと思う」
「俺もそう思う。というか、少なくともお前にゃそんな事は要求せんから安心しろ」
 憎まれ口を叩きつつ、俺は天井からぶらさがった電灯を出来るだけ降ろす。
 あぐらをかいたヤツの前に座布団を二つ折りにして敷き、さっきから痒みを訴え続けている右耳を上にして横になる。
 おっと、獲物を捕獲する檻も用意せんとな。
「銀紙かよ」
「保存性良いんだぜ地味に」
 呆れたように溜息を吐きながら、耳の中を覗き込むようにぐっと前屈みになる。
 手に握られているのは結局普通の竹の耳かきだ。まったく、折角色々あるんだからたまには変化球を投げて寄越しても良いだろうに。
 まあ、これも"掻く"という作業に特化された作りになっている訳で、今の状況ではそれほど文句もないが。
 因みに梵天はついておらず、反対側にはこけしのような小さな飾りがついている。
「どーれ……おー、こりゃまたえらい事になっとりますな」
「感心してないで早いとこ頼む、いい加減発狂しそうだ」
「へいへい」

81 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:48:31 ID:RNG62B+m
 カリ、カリ、カリッ……ガサッ、ガサガサ。ベリベリッ……ズズズ……。

 うおぁぁ……これこれ、これだよこれ。
 思わず恍惚となりながら、俺は心地良い感触に身を任せる。
 朝から俺を悩ませ続けていた耳垢は、どうも半端に剥がれかかってあちこちに絶え間なく刺激を送り続けていたらしい。
 おかげでもう耳穴至る所が痒くて「あ、もうょっと上の方」とかそんな指示さえ不要な状態にまでなっていたようだ。
 多分指で弄ったり頭を振ってどうにか外に出そうとしたせいなんだろうが、おかげで他の細かいヤツまで一緒になって騒いでいたんだろうな。
 さっきから中規模なのに混じって粉のようなヤツがボロボロと出てきている。
 だがしかし、その我慢の末の耳掃除はまさに至高の気持ちよさである。
 コリコリと程良い力加減で耳壁を伝う耳掻きからは、ひたすらに痺れるような鋭い快感だけが伝わってくる。

 ズリズリ……ズッ……ゴソッ。カリカリカリ……。

 うあー、こりゃたまらんわ……。おお、そこそこ……あー。
 耳垢を捕らえた時。掻き剥がした時。ズルズルと壁を伝いながらを引き出す時。
 そうして耳掻きが動く度に思わず目を細め、快感の波に酔いしれる。
 耳垢を剥がした後の壁を軽く掻くアフターフォローがまた憎い。細かいカスが溜まってて、ソワソワした感触が残るからなあ。

 カリコリ……グリグリ、グッグッ。

 お、ここだここ。このポイントが多分痒みの発生源だ。良い感じに掻かれてる……が、ちょっと引っかかってるな。
 もうちょい先の部分を掻いて貰いたいんだが……耳垢の下になってるんだろうなあ、こりゃ。

 グググッ……ガリッ、ベリベリベリッ。

 ーーッッ……。今のはちょいと痛かった。意外と頑固にへばりついてやがったな。
 銀紙の上にぽとりと落とされる暫定一位の大物を脇目に、今のポイントに再び耳掻きが戻ってくるのを待つ。

 カリカリ……カリカリ……クリクリッ。

 んー、そこそこ……。あー、気持ちいいのう。良い感じだぜ相棒。
 何も言わずとも心得てる辺り、流石に長年付き合ってるだけの事はあるよなあ。あと手先器用だし。

「しっかしまあ、いつも思うが無駄に複雑な形しすぎ。ここの曲がってる所とか、全然奥見えねーぞ……」
「むう、だが大物が潜んでる可能性大だよな、それは。取り敢えず先端小さいのでちょっと探ってみてくれよ」
「ラジャー」
 言われるがまま耳掻きを交換、確か「通の耳掻き」とかいうヤツだ。
 先端自体が小さめで、円盤状の突起が三つついていて狭い耳穴でも全方位掻けるという優れもの……という事になっているが、俺の耳垢はコイツだとなかなか引っかかってくれない。
 だが、手の感触に頼るしかなくなる深部では、獲物の隠れ家を探るサーチャーとして大いに活躍してくれる。
 曲がりくねった道を器用に進み、ひんやりした金属製の先端は滅多に手を出さない深部へと潜っていく。
 やがて探りを付けたのか、耳掻きの先端が慎重に壁を擦り始める。その動きは掻くというよりも這うと言った方が近い。

 スッ……クッ、クッ、カサッ。ズ…カサ…ズッ……。

「んー……手応えが無いな」
「いや、なんか近くにある感じするぞ。もうちょい探ってみてくれ」

 ……ガッ。ガリッ、ガサガサ……。

「お」
「来たな」
 こいつは間違いなく大物だ。なんというか、耳の壁そのものが動いたと言っても過言ではないくらいの振動が来たのだ。
 しかも派手な音がした割に耳に伝わる感触が薄い……というか、遠かった、と言うべきなのだろうな。こりゃ厚みも相当なもんなんだろう。

82 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:49:25 ID:RNG62B+m
「さて、どうするかね」
「取り敢えず、まずは普通に耳掻き使ってみてくれ」
 ピンセットで引っこ抜いても良いんだが、これはあくまで最後の手段だ。耳垢は耳掻きで掻き出すから気持ちいいんだ。
 使う側にしてみりゃ爽快かもしれんが、こちらは痒みを快感へと昇華させてほしいのであって、獲物の有無は実は二の次であったりする。
 いや、勿論現物として獲物を鑑賞するのは大いに達成感を満たしてくれるが、それはそれ。
 過程あっての結果であり、苦労の末メタルスライムを倒した時のレベルアップが格別に嬉しいのと一緒なのだ。
「訳のわからん持論を展開するな」
「ええい浪漫の解らんヤツだな、さてはお前はまじんぎり派か!寧ろバグ技派か!」
「ピンセット派に刺されるぞお前」
「ええい、話が進まんだろうが。早いとこやってくれ」
「俺のせいか」
 再び耳の深部に侵入を試みる耳掻きの先端。先ほどの感覚をしっかりと忘れずに保っているようで、その動きには迷いがない。
 スムーズに、ピンポイントで獲物の隠れ家へと到達し、ゆっくりと耳掻きを壁にあてがう。
 獲物の感触を確かめるように微かに耳掻きを動かすと、対象の真下へと移動、発掘作業を開始する。

 カリ……カリカリ……ガリッ、ガリッ……グリグリグリ……グッグッグッ。

「うーむ、角度が厳しすぎるぜ、こりゃ。強引に力業でいってもいいんだが、どうする?」
「痛いのは勘弁だからなあ……仕方ない、ピンセットでいってみよう」
「あいよ」
 そう言いながらピンセットに持ち替え、ゆっくりと挿入する。
 時々耳壁に触れるヒヤリとした感触に、思わず微かに身震いする。程良くピンセットが体温に馴染むのを待ち、いざ獲物へ。

 カサカサッ……ガサ、ガサリ。……カチッ……カチリ、カチ。

「ああ畜生め、上手く掴めん」
「おいおい頼むぜ、こんなヘビー級のお宝逃したら末代までの恥だ」
「末代まで伝える気なのか」
「家宝として」
「じゃあ俺はヘソのゴマでも伝えるか……む、捕らえた!」
「おお、グッジョブだ相棒!」
 確かに耳の中から伝わる感触は、巨大なブツと壁の隙間にピンセットが入り込んでいる事実を教えていた。
 僅かに持ち上がった耳垢の隙間からは強烈な痒みが襲ってくるが、今は我慢だ。

 ガッ、バリバリッ。メリッ……バリバリ……ゴゾッ、ゴゴゴッ。

 おー、剥がれてる剥がれてる。メリッて言ったぞメリッて。すっげこれすっげ。
 耳の一部が無くなってしまったかのような喪失感と、それと引き替えに得られた爽快感、開放感が溜まらなく心地良い。
 けど、出来ればやっぱり普通の耳掻きで派がしたかったなあ……。
 そろそろと引き出されたピンセットの先端には、厚み0.5mm弱、直径2cmほどの馬鹿でかいブツが挟まれていた。
 表面はザラザラの真っ黒で、これは多分昔自分でやった時に失敗したヤツの名残だろうな。
 恐らくは相当昔からあったブツと出血とが混ざり合って、ここまで成長して漸くほじくり出せるようになったんだろう。
 再び装備を耳掻きに換装し、剥がした後の壁をコリコリとぬるく掻いてもらいながら、俺は取れたばかりのお宝を手に取る。
「しかしまあ、耳垢ってここまでデカくなるもんなんだなあ」
「だな、ここまでの代物は初だな」
「うむ。んー、神々しくも美しい素晴らしい一品だ」
「この辺のテカり具合とか?」
「解ってらっしゃる」

83 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:51:04 ID:RNG62B+m
 さて、後は綿棒さんによる仕上げタイムだ。
 これは言うなれば寿司の後に食うガリ、フルコースディナーの後に飲むエスプレッソ、風呂上がりのコーヒー牛乳。
 これがなければ耳掃除は完結しないのだ。
 大抵デカブツがいるからメインデッシュには成り得ないのが、多少残念ではある。飴耳の人とか、あれはあれで気持ちよさそうだしな。
 ベビーオイルを俺愛用の小さい綿棒に浸し、軽く水分を絞る。
 そして早すぎず遅すぎずの絶妙なスピードで、ぐるぐると拭うように手前から奥へ、奥から手前へと綿棒が動く。

 ヒヤリ……スッスッ……スッスッ。グリグリ、グリグリ、キュッキュッ。

 んあー……。このヒンヤリすんのとスースーすんのがたまらんのよなぁ。
 耳掻きの硬質な感触とは違い、耳穴に伝わる感触は微かで柔らかい。
 痒みはすっかり綺麗に解消されたが、そのままでは耳の中には掻きむしった虫刺されの跡のような僅かなヒリヒリ感が残ってちょっと気分が悪い。
 そこで耳垢の除去された耳穴に、直接水分を含んだ綿棒が触れると、スースーと空気の触れる感触が開放感をより高めると共に緩やかな快感に包まれるのだ。
 まるで真夏の水風呂にでも浸かっているような快感にうっとりとしながら、俺は最後の仕上げを楽しむ。

 クルクル……クリクリ……。

 細かいカスと共に残留した不快感も取り除くと、まるで頭まで軽くなったかのような爽やかな気持ちに包まれる。嗚呼、余は満足じゃ。
「……が、こうなるとやはり左耳も気になってくるな」
「だろうと思ったさ。ほれ、さっさと頭を返せ」
「解ってらっしゃる」
 言われるがままに頭を返す俺。
 再び耳から伝わってくる快感の渦に包まれながら、俺はいつしか目を瞑り、安らかな暗闇の世界へと沈んでいったのだった。

84 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 22:52:23 ID:RNG62B+m
後書き

微妙にカオスな作品でサーセンwwwwフヒヒwwww
後から主要な耳かきシーンだけ読み直せるようにはしてあるんで、序盤イラネって声には耳を塞ぐぜ
その辺りはセルフサービスという事で

因みに無断転載上等、気に要らん箇所を独断で改変してくれても構わんぜ
俺はそんな事じゃ怒ったりせんし、寧ろ逆に悦びだしかねない生粋のM
勝手に作者を名乗ってくれても良いけど、かわりに続編書いてくれる事が条件な!
どっちみち自分で書く気はあんまり無いしな(゚∀゚)

それではお粗末でした

85 :癒されたい名無しさん:2007/07/29(日) 23:06:30 ID:B2cX1On/0
GJ!
大物の描写が特に気持ちよかった

86 :癒されたい名無しさん:2007/07/30(月) 09:17:32 ID:/u+EVsJY
GJ!一人称の語りが良かったよー。
自分がされてるみたいでゾクゾクした。

87 :癒されたい名無しさん:2007/07/30(月) 10:55:31 ID:OyW1vnjk
GJです!
BLとは違う、気の置けない男友達同士の耳掃除ってのもいいもんですな〜(´∀`)

>飴耳の人とか、あれはあれで気持ちよさそうだしな
でもやっぱりカサカサタイプの耳垢は羨ましいのですよ…

88 :癒されたい名無しさん:2007/07/30(月) 14:37:35 ID:N8sX4+Oh
面白かったよ!耳掻きシーンはゾクゾクした
また書いて欲しいデス

89 :RNG62B+m:2007/07/30(月) 16:32:17 ID:azLxeL3I
>>85
そりゃあ大物のシーンは山場ですからな!
耳掻き小説を書く人はきっと皆ここに魂込めてるのさ

>>86
まさかそこが良いと言われるとは思ってなかった俺ジョンソン
単に一番書きやすかったってだけの理由なんだけどw

>>87
親父にやってもらってた幼少期の体験が濃く影響してます
耳掃除は相棒と二人で立ち向かう困難なミッションというのが持論

ま、隣の芝生は青いという事で一つ

>>88
有り難う でも多分もう書かないよ!
だってもうネタ切れですからフヒヒwwwwサーセンwwww


そんじゃ俺も名無しに戻って、夢花火の人の降臨をwktkするだけの存在と化すぜ
感想くれた人達thxでした

90 :癒されたい名無しさん:2007/07/30(月) 19:55:32 ID:HHNN5a4/
良かったよー良かったよー
耳かきマニアになって以来大きいお宝になんてめったに出会えなくなっちゃった。
たまらんのう〜

また投下しておくれ。

91 :癒されたい名無しさん:2007/08/01(水) 14:07:55 ID:2Jzl9vVh
新作が投下されるたび癒されるねぇ
>>89 GJ!でした。

92 :癒されたい名無しさん:2007/08/05(日) 14:25:11 ID:kwx1hLp+
良スレ発見
すげーディープな世界
>>79-84GJ!!!!

夢花火氏カムバック!

93 :癒されたい名無しさん:2007/08/05(日) 14:50:51 ID:kwx1hLp+
前の夢ってやつがもう一回読みたい

94 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 12:57:43 ID:iYl1T1v0
もったいないので、作者さんに了承取らずに転載。

以下の「夢」は夢花火さんの他耳かきスレに投下された第一作目です。

95 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 12:58:38 ID:iYl1T1v0
「夢」

昔から人より耳の穴が小さいのは分かっていた
普通の耳かきだと中で動かせないくらいだ
そのうえ母親の乱暴な耳かきさばきにより、耳かき=痛いと思い込んで早26年
耳かきとは名ばかりの、穴の入り口をちょこちょこ掻き出すだけの行為を続けてきた
もちろん大物に出会ったことなど一度もなく、耳かきとはそういうものだ、と思っていた

そんなとある昼間、うたた寝をしていて夢を見た

「ねぇ、耳かきしてあげようか」
夢の中で私に12歳くらいの可愛らしい女の子が呼びかけてくる
いいよ、私耳の穴が人より小さいから、やりにくいよ、それに私は耳かきが苦手なの…
夢の中で私はぼやぼやとしゃべっている
「大丈夫だよ、私に任せて」
女の子はにっこり微笑んで私を手招きする
断ろうとするのだが舌がもつれて言葉が出てこない
夢の中なのに不思議にひどく眠たくて、ぼんやりしてしまう
手をひかれるがままに女の子についていくと、急に場面が変わって薄暗い森の中にいる
慌てて辺りを見回したが女の子の姿はどこにもない
目の前には古いが大きな山小屋が一軒あるだけで、人の気配すらない
仕方なく傷んだ木の扉をギギ、ギギギと大きな音を立てて開けると…
そこには神経質に痩せこけたお爺さんが暗闇に一人立っていた
「待っていたよ、耳かきをしてあげよう」
その瞬間、私はヒッ!と短く悲鳴を上げて意識を失った

96 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 12:59:47 ID:iYl1T1v0
「夢」2

どれくらい経っただろうか、気が付くと私はベッドに寝かされていた
背中の遠く後ろでかすかに人の声がする
「…あれは難しいな、あれは難しいぞ…」
よく聞こうとするのだが何かが耳の中に詰まっているのか、水の中にいるようだ
ボワァ〜ンボワァ〜ンと頭の中でこだまして何を言っているのかよく分からない
顔を向けて声の主を探そうとして気が付いた
頭が動かない
いや頭どころか身体さえ動かないではないか、どうやら何か器具でベッドに固定されているようだ
急に恐怖が襲った…背中に汗が伝う
無茶苦茶に身体を動かしていると誰かが側に近づいてきた
「目が覚めたかな。大丈夫、耳に薬が入っているだけじゃ。もうそろそろじゃて」
さっきのお爺さんだ、何か言わなければ…
「何をするんです!早く放してください…」
するとお爺さんは
「耳かきがしたいんじゃろう?安心せい、ワシは何千人とやってきた
ちょっとお前さんは変わった耳をしとるがの、まぁ任せておけばいい」
お爺さんはそう言うと、木机の引き出しを開けて何かを取り出し始めた
カチャカチャ…カチャカチャ…私は何とか首を動かして見ようとした
すると何やら歯医者で見るような小さなミラーと、細い細い棒のようなものが何十本か見えた
…あれは耳かきなのか…?何をされるか分からない恐怖がまた私を襲いはじめた
「大丈夫なんでしょうか…私は耳かきなんて痛くてまともに出来ないんですよ、耳の穴も小さいし…」
と、私が恐怖を隠しながら尋ねると
「それはやり手が下手糞じゃからの、お前さんのような耳は素人には難しい
とにかく、心配なんじゃろうが大丈夫ったら大丈夫!」
にっこり笑ってお爺さんは言った
その穏やかないなすようなお爺さんの口調に、私も少しづつ緊張が溶け始めた
私が動けなくされている不安を訴えると、暴れて耳を傷つけたらいかんから固定しとるだけじゃ、
暴れないとなったらすぐ外すわい、とお爺さんは朗らかに言った

97 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:01:16 ID:iYl1T1v0
「夢」3

「さて、薬はよく染みたろう、始めるかな」
と言うなりお爺さんは私の耳に顔を近付けた
そうしてどこからか、これまた歯医者のようなライトが上から近づいてきた
そしてお爺さんは手に細い管の付いた器具を持ち、私の耳に入れるなりスイッチを入れた

ヴィーン…と低い小さな虫の羽ばたきのような音がして、耳の中の液体がゆっくり吸い出されていく感覚がする
それは耳の中にあった圧迫感が柔らかく消えていく不思議な感覚だった
耳に水がある筈なのになんだろう、頭の中がふわっ…ふわっ…とまるで暖かな羊水に浮かんでいるような心地よさなのだ
気が付くと思わず目を閉じて、えもいわれぬこの不思議な感覚を味わっていた
しばらくして耳から完全に水気が抜けたのが自分でも分かった頃、頭の上からお爺さんの声がした
「入り口の大きいのを取るでな」
そう言うとお爺さんは、今度は先ほどより少し太い管の器具を手にした
私はというと、こうなったらもうどうにでもなれ、と半ばやけになって身を任せている
今度はピューンと少し高い音と共に風を吸い込む音がする
どうやらこれで耳垢を吸い込むらしい
ズボー…ズボー…という音がして、耳の中で何かが引っ張られる感覚が続いた
太い管の器具は先が柔らかなゴムになっているらしく、少しこそばゆい
しばらくして音が止んだ
「さて。機械の出番はここまでじゃ。やっぱりかなり固くなっとったのう。
これで入り口の蓋が空いたからの、これから耳の形に合わせた耳かきをしていくでな」
と言うとお爺さんはかなり使いこんだ耳かきを取り出した
が…かなり柄が短い…?思うやいなや
「これから頭を動かすでないぞ」
という声と共に、ガゾッと今まで聞いた事のない音がした

98 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:02:33 ID:iYl1T1v0
「夢」4

ガゾッガゾッ…ゴリ…ゴリゴリ…ザッーザッ…ガリガリッ……
まるで湿らせた角砂糖をスプーンで削るような音をさせながら、お爺さんは軽快に耳かきを操っていく
恐ろしく大胆に素早く耳かきを動かすのだが、一掻き一掻きがすべて正確なポイントをついているのだろう
心配していた痛みも全くなく、私の当初の不安はいつの間にかすっかり消えて、お爺さんの技を堪能する
余裕さえ出来始めた

しばらくすると、頭の中からスコップでどんどん砂が掻き出されていくかのような感覚がしはじめた
不思議な…頭の中が軽くなっていく、というか、スーッとモヤモヤしたものが消えていくというか…
だんだんと爽快な気分になっていくのが自分でも不思議である
と、ここで初めて部屋に音楽がかかっている事に気が付いた
ボリュームを絞ったピアノ…ショパンだろうか…?お爺さんの耳かきの軽やかな振動と相まって非常に心地よい

「さて、ここからが腕の見せどころかな」
かなりクリアーになった私の耳にお爺さんの呟く声がした
カチャカチャ…っと音をさせて、お爺さんは奇妙な眼鏡をかけはじめた
片方のフレームからミッキーマウスの耳のようにレンズが飛び出している
それには微妙な角度に折れ曲がった鏡がついていて、どうやらこれで中を覗くらしい
そうしてお爺さんは一際小さな匙のついた金色の耳かきを手に取ると、ゆっくりと私の耳の中に入れた

99 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:03:46 ID:iYl1T1v0
「夢」5

まず、初めてのひんやりとした感触だった
先ほどの耳かきで(私は痛みがないので全く気が付かなかったが)思ったよりずっと深くまで掘り進んでいたらしい
きっと私が生まれてから26年、ここまで奥に入ってきた耳かきはこれが初めてではないか…?
そんな事を考えながら、金属の持つぺったりとした気持よさにしばらくうっとりしていると
カリカリカリッ…コリカリコリ……スー…ポリポリッ…カリコリカリコリッ……スーッ
先ほどよりずっと細やかな匙の捌き方で、耳壁にへばりついた耳垢をこそげていく感覚がする
カリコリカリコリカリカリカリ…カリッ…カリッ……
何とも言えないではないか、先ほどとは比べものにならないこの快感…背中から爪先に何度もブワ〜ッと快感が走り抜ける
耳壁を伝う金属の匙は、おそらくかなり薄く削られて作られたのだろう、
先が耳垢を捕えると必ず深いカーブのスポットに収めて耳外まで運んできてくれる
匙はこの往復を何度も何度も繰り返し、私は意識せぬうちにだらしなく口を半開きにして快感に身を委ねていた…
「壷耳じゃなぁ…思った通りじゃ」
あまりの気持よさに放心状態の私に、お爺さんは聞き慣れない言葉を口にした
「壷耳…?何ですそれは…?」
「耳の中に壷があるような耳なんじゃ、入り口は極端に狭いが中は広い、お前さん程狭い入り口は珍しいがの」
そういうとお爺さんは金属の耳かきを使うのをやめて、また耳に薬を垂らした
そして今度は熱く蒸したタオルで身に蓋をした
「これでしばらく待つ」

100 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:04:45 ID:iYl1T1v0
「夢」6

途中何度も蒸しタオルを変えるお爺さんを見て私は、何となくここが「山場」ではないか、と思った
前回のように細い管のついた器具で水を抜き終わると、お爺さんは細長いピンセットを手にした
「芯があるんじゃ、壷耳は周りをいくらこそげても芯を抜かんといかん
柔らかくなっとるから大丈夫じゃと思うが鼓膜にひっついとる場合があるからの、痛い時はすぐワシを叩け」
そう言ってお爺さんはピンセットを耳に入れていった
ゴト…深い低い音だ…ボリッ…ガリガリッ…今までにないかなり大きな音がした
鼓膜にひっついているんだな、と思ったが痛みはまるでない
お爺さんはピンセットを小刻みに振動させながら耳垢を鼓膜から剥がしていく
ゴト…ゴトゴトゴトゴトッ………ガサガサ…ガサガサガサッ……かなり慎重に何度も何度も振動を送る

と、その時ゴゾッガザッザ……!!!
一際大きな振動音の後、ピリッ…というかすかな音と共に何か大きな塊が剥がれるのが分かった

「ほっと!」
お爺さんはピンセットを耳から抜き出したが何もついていない、どうやら私の細い耳の道は大物が通れなかったらしい
「ま、予想はしとったわい」
お爺さんは今度はさらに細長いピンセットを取り出した

101 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:05:49 ID:iYl1T1v0
「夢」7

「どうするんです…?穴は狭いのに…」
私はせっかく仕留めた耳垢が、壷の中から永久に出てこないのではないかと心配になって尋ねた
「ふふ、大丈夫じゃて、ワシを見くびってもらっちゃあ困るよ」
と言うとお爺さんは細長いピンセットを耳の中で器用に動かし始めた
クニュクニュ…カチャカチャ…何とお爺さんは耳の中で耳垢を変形させているのだ
壷の中で育った耳垢はボールのように丸く、細長い耳の道を通る事はできない
ゆえに柔らかくふやけた耳垢をピンセットで細長く変形させているのだ!
…そんな事が可能なのだろうか…耳垢もピンセットも全く見えていないのだ
頼りになるのは指先のかすかな感覚だけ…大丈夫なのか…?不安が再び首をもたげはじめた
が、この爺さんならやるかもしれないという思いも不思議とどこかにあるのだ
どうせまな板の鯉なのだ、お爺さんに任せるしかあるまい、と私はじっと待っていた
しばらく粘土をこねるような音が続き、お爺さんが言った
「ん、出るか」


ズ…ズルズルズルズル……………

グググッ…グググッグポッ!!!

102 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:06:38 ID:iYl1T1v0
「夢」8

「やた!」
「ゎああぁ!」

お爺さんと私は同時に感嘆の声を上げた

お爺さんはゆっくりとライトを近づけ、ピンセットを私の目の前にかざした
…なんとピンセットは小指の爪より少し長い、きれいな筒状の巨大な耳垢をしっかと捕えているではないか
「主」と呼ぶにふさわしいその耳垢は、年月のせいでやや黒っぽく変色した部分もあるものの、
キラキラと飴色に艶やかな光沢を放ちながら、どっしりと重たげに鎮座していた
「これはすごい…」
私はお爺さんの事も忘れて思わずしげしげと見入ってしまった

さて、もう片方の耳にもドラマチックな耳垢がゴッソリ詰まっていたのだが、話の都合上割愛させて頂く事にする
ただ私は今度はもう恐怖や不安を抱く事はなく、ただただお爺さんの技を全身で堪能した事を言っておこう
快感のみに集中する事ができると、最初より数倍激しい快楽の波にさらわれ、存分に楽しむ事ができた
私はこの時が永久に続けばいいとさえ思うようになっていた…

103 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:07:26 ID:iYl1T1v0
「夢」9

やがて両方の耳から耳垢を取り終わると、お爺さんは
「仕上げじゃ、急に引っこ抜いたからの、最後のこれが重要なんじゃ」
と言って耳の中に綿棒でローションのようなものを塗り始めた
言われてみれば急に外気に触れた為に耳の中は熱ったようにむず痒い
そこにヒヤッとしたローションがそぅっそぅっと塗られていくと…
耳かきとは全く違うえも言われぬ気持よさに、またしても脳天が痺れるような快感を覚えた
ああ……気持いい……
しばらくジィンとした頭でぼんやりとした眠る前のような時を過ごしていた
「さて、これで終了じゃよ」
このお爺さんの一言で、長かった耳かきは終わった
私は何だか無性に寂しかった

いつの間にか最初に見た女の子が私の側に立っていた
私はなんとなく、これで最後なんだな、帰らないといけないんだなと察した
私は最後にお爺さんに、これは本当に夢なのか、あなたは何者なのかと聞こうとした
だが…ずっと鳴っているゆったりとしたショパンのピアノを聴いていると、全てどうでもよい事に思えてきた

104 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:08:16 ID:iYl1T1v0
「夢」10

私はねだってお爺さんに耳垢を貰う事にした
お爺さんはこんなもんがいるのかい?と渋りながらも(私には手放したくない口実に感じられた)、
軽くお猪口に山盛りになる程の耳垢を丁寧に銀紙にくるんでくれた
最初の古い扉の前まで女の子とお爺さんに見送られ、
「…ありがとうございます、耳がよく聞こえるようになったしとっても気持よかった…」
と言うとお爺さんは「なぁに、また何時でも来るといい」と言って次の人が待っている、と顎をしゃくった
私が目をやると扉の向こうには、お爺さんの耳かきを待つ人が行列を作っていた

促されるまま大きな扉をギギギ…ギギギギギ……っと開けると目の前は最初の深い森だった
「本当にありがと……」
私が振り返るとそこには山小屋もお爺さんも女の子も、沢山の行列の人もいない
何もかもが消え去り、私の目の前にはただただ薄暗い怖いような森が広がるばかりであった…

105 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:09:06 ID:iYl1T1v0
「夢」最終話

冷たい風に腕を撫でられたようで、フッと目を覚ました
(ああ…やっぱり夢だよなぁ…変にリアルな夢だったなぁ…)
いつの間にか外はとっぷり日も暮れて、随分と時間が経ってしまったらしい
(本当にリアル…耳がスゥスゥする…)
私はまだぼんやりとした頭のままテレビのスイッチを入れる
と、「!!!」
あまりの爆音に驚いた
慌ててボリュームを下げ、音量を確認するがいつもの12の音量のままだ
「もしかして…」
私は辺りを見回し、あのお爺さんから貰った銀紙を探した
ない、ない、…あった!
ポケットから出てきた銀紙はまさしくお爺さんから貰ったものだ
開けてみると……耳垢が溢れんばかりに詰まっていた
「まさか…本当だったんだ…」
不思議と驚かなかった、むしろとても嬉しい気持ちと寂しい気持ちが混ざったような複雑な気分になっていた


後日例の耳垢を眺めていて気が付いた事がある
お爺さんは私の両方の耳壷から主を引っこ抜いたが、何故か一個しか入っていないのだ
どうやらお爺さんも大物をみすみす譲るのは惜しかったようだ
ただ、両方持っていかない優しさが私にはちょっぴり嬉しかった

106 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 13:09:37 ID:iYl1T1v0
「夢」エピローグ

さて、あれから私はあの夢をまた見たいと何度も何度も願ったが、結局二度と見る事はなかった
それに相変わらず自分の耳かきは下手である
ただ、耳かきをできる相手を見つけた
旦那と二人の息子だ
旦那は私と違ってガッポリとした耳穴で取りやすいのだが、耳かき嫌いだった
だが私が耳かきをさせて欲しいとお願いしてから、耳かきの魅力に取り付かれてしまったようだ
子供達も耳かきとなると我先に競って私の膝に滑りこんでくる
私はお爺さんのテクニックを思い出して、優しく優しく丁寧に耳垢を取り除く
優しく、そぅっとそぅっと………


…そしてもう一つ

我が家では耳かきをする時、ショパンのピアノをかける事にしている

……END

107 :癒されたい名無しさん:2007/08/07(火) 19:33:41 ID:Ltxfxway
転載乙
まとめて見られるのはやっぱり有り難いな

108 :癒されたい名無しさん:2007/08/08(水) 12:29:28 ID:Ejkf/iiY
この作品が一番好きだなぁ
転載d

109 :癒されたい名無しさん:2007/08/09(木) 22:35:27 ID:x575syAw
新作マダーマダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

110 :夢花火:2007/08/12(日) 03:47:26 ID:dEcpBR38
>>89
面白かったーこりゃ続き読みたいっす(/∀`。)*゜
洸惚の耳かきシーンのみならず会話がおもろい!テンポいい!

>>94
「夢」を転載して下さってありがとうございます!
すっかりしそびれてたので物凄い感謝です。


さて、大っ変遅くなって申し訳ありません…忘れた頃にやって来た…夢花火…だよ
|ω・`)
登場しにくさもなんのその⊂⌒~⊃。Д。)⊃
…すんません。言い訳はいたしません。
しばらく来てなかったんですがもっと早く進み具合書けばよかったと大反省orz
しかもまだ全文書き上がってないっつー体たらく(´;ω;`)
ですが一応目処がたったのでご連絡です。例によって(今までで一番)長くなってしまってます。
本当に長いっす。ちょっとした本?って感じ。
リクエスト主の>>55さんには是非…と言いたいんですが癖で耳かき以外のストーリーが多い。
(今までで一番多い。軽くスレ50くらい消費するやもしれんのです)
そこで最初にあらすじを書いておく事にします。耳かき以外いらん!と言われたらそうします。遠慮なく言って下さい。
あまりのご無沙汰ぶりに>>55さんもういらっしゃらないかも…その場合スレ住人の方の判断にお任せします。

111 :夢花火:2007/08/12(日) 03:58:28 ID:dEcpBR38
(あらすじ)

舞台は台湾、台北。
主人公の「私」は三十歳の元OL。失恋の傷を慰めようとたった一人で台湾旅行にやって来た。
しかしそこで知らない男に声をかけられ鞄をすられてしまう。
男を追いかけて道に迷った私は、偶然入った屋台で酒を飲まされ気を失ってしまった。
そこで私を助けてくれたのは双子の老人。彼らは伝説の耳かき屋だった。
とぼけた弟と寡黙な兄、彼らの絶妙なコンビネーションで私の耳は…
老人と私の触れ合いを中心に徐々に元気を取り戻し、前向きになっていく心模様を描いたつもり。
最後らへんちらっと老人の弟子とのちょっとした恋話も入ってます。

この内容でよければ投下します。もし全文掲載の場合は本当に長いので、
耳かき場面のみご覧になりたい方のために途中で名前欄に「耳かきシーンあり」と入れる予定です。

112 :癒されたい名無しさん:2007/08/12(日) 10:21:38 ID:qap6p3jE
お願いします

113 :癒されたい名無しさん:2007/08/12(日) 13:35:52 ID:OPAgbc8+
夢さんキタ━━━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━━ッ!!
自分は個人的に夢花火さんの文章好きだから読みたいけどね
もともと耳話以外もいいってことだし
てか過疎ってるんだし大量消費してもいいんじゃね?
小出しでもいいからwktkで待ってます

114 :癒されたい名無しさん:2007/08/12(日) 17:14:34 ID:vMDmBJNb
50レス投下したところで200いかないもんね。
全然おkだと思う。
投下するほうは大変だと思うけど、気長に待ってます。

115 :癒されたい名無しさん:2007/08/13(月) 01:11:59 ID:0cOKPz83
>>55です!!

いますいます!!
つかじっと待ってましたw
そんな長編に・・・!た、楽しみ〜〜

ありがとうございます、あらすじだけでも面白そう。
小説のために立てたスレなんだし、遠慮なんていらないと思います。
ぜひお願いします<(_ _)>

・・・というか実は前スレでここの板紹介したのも「夢」転載したのも自分です。
勝手にやってスイマセン
私も>>113さん同様ファンなので非常に楽しみにしています。
転載時知ったんですが10いくつ連続でレス投下すると連レス規制がかかるので
小出しでいいので夢花火さんのペースでよろしくです。

116 :癒されたい名無しさん:2007/08/13(月) 16:32:54 ID:+JEMXwfL
超大作、キター!

117 :癒されたい名無しさん:2007/08/13(月) 22:47:33 ID:XPRXWLdm
夢花火たんキタ━ヽ(ヽ(゜ヽ(゜∀ヽ(゜∀゜ヽ(゜∀゜)バ゜∀゜)ノ∀゜)バ゜)ノ)ノ━!!!!

マッパで正座して待ってます!

118 :夢花火:2007/08/14(火) 09:43:24 ID:wIZ6va4/
>>115
どうもです!ホ・・・よかった・・・じゃあ規制に気を付けて投下してみます。
お言葉に甘えてちまちま出してみる
そして全部載せ終わるのかなり時間かかると思う
待ってくれてる方&これから書きたい方がいたらしばらく占領するんで(*_ _)人ゴメンナサイ

119 :夢花火:2007/08/14(火) 09:58:22 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」1

大型ショッピングモールの最上階からは、近代的な台北の街が一望できる。今は夏。急に空を見上げると、ほの暗い屋内と焦げるような灼熱の太
陽との間で私はたちまちに眩暈を起こした。
そう、私は今台湾にいる。しかし失恋旅行だというのを最初に断っておこう。八年付き合った男と別れた。不倫。職場恋愛。世の中では腐るほどよくある話だろう。
彼は子会社に飛ばされ、しがない一事務員の私は会社に居座れなくなり結局自主退職した。相当やり手だった彼は、ほとぼりが冷めたらまた本社に帰ってくるだろう
と親切な同僚が言っていた。愚か者の私は若さにかまけて自分を磨くこともなく、気がつくと三十歳。これから新しい職、新しい恋、どちらも見つけるのは容易では
ない。度重なる不採用通知にすっかり自信を失っていた私は、我ながら安易な考えだと思うが非日常に身を置けば生まれ変われるような気がしてたった一人でここに
やってきたのだ。
今日で滞在四日目。昼からショッピングということで最初はテンションも上がったのだが、これからの事を考えるとやたらに散財する訳にもいか
ず、今まで散々お土産を買いこんだこともあり結局財布の紐を緩めるのをやめてしまった。そうなるとあらかた観光地も巡ってしまったし、もう
特にすることが思いつかなくて私は早速暇を持て余し始めた。
思えば旅行はいつも誰かと一緒だった。この歳になると友達同士で、なんて毎回そう簡単につるめるものじゃない。それぞれ生きている日常に埋
めようのない差があるのだ。主婦になった友人は子育てに忙しくしているし、仲の良かった大学時代の友人はみな私と違って優秀で、今はキャリ
アもできて仕事が忙しいらしくあまり予定をあわせられない。彼女たちは口々に結婚で仕事に支障が出るのはごめんだと言っていた。そして自分
の為だけにドカンとお金を使って派手に遊ぶのが最高に楽しい、ご褒美はブランド物や週末に一人で行く旅行だとも。
「いいわよ、一人旅。リフレッシュするから」今回の旅行も、もともとは私を心配した友人が勧めてくれたのだ。はるか昔だが大学時代に中国語
を選択していたから多少の日常会話くらいはなんとかなるだろう、卒業旅行でみんなと一度来た事もある。その友人はそれから何度も旅行したら
しく、何日滞在するか分からないからと格安のホテルを紹介してくれた。
「それなのに・・・」さっきから何度ため息をついたろう。認めたくはない。だが私はイマイチ楽しめていない。なぜか楽しい場所にいても心か
らリラックスできないのだ。ホテル選びもまずかった。格安だけあってとにかくベッドが固くてよく眠れない。やっぱり財布の具合を心配してい
るようではせっかくの旅も楽しいわけはないのだ。明日あたり帰ろうか・・・私は早々にこの誘惑の建物から撤退し、どこかで食事してからホテ
ルに戻ることにした。


120 :夢花火:2007/08/14(火) 10:01:27 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」2

目当てのレストランバーは時間が早く、まだ開店していなかったので向かいのカフェテリアで何か飲む事にした。一階でビールを買う。二階に上
がるとそこはテラスになっていた。夕時の風がむき出しの腕に気持ちいい。私は手すりに近づくとビンに口を付け、喉を鳴らして豪快に飲んでみ
た。台湾ビールはさっぱりとして飲みやすく、暑さで渇いた喉にキンとした冷たさが嬉しい。しばらく味わった。
しかし三十女には酒が似合う、と思う。いつの間にか外でも堂々と一人で飲めるようになっているのだがそれってどうだろう。最近一人の時間が
心地いい。そうならないように意識してきたのに。一人でうまく過ごす前に新しい出会いを探すべき、と言われるかもしれない。事実そうなのだ
ろう。しかし最初は元気付けようと合コンに誘ってくれていた友人も、会うたびにどんどん痩せて行く私を目の前にして最近は何も言わなくなっ
ていた。しばらく恋愛から遠ざかりたい。私はもっと強くなりたかった。損くじを引くのはもうたくさんだ。
そんな事を考えながら飲んでいると現実から少し意識が飛んでいたらしい。気がつくとすぐそばに品のよさそうな中年の女性が立っていた。薄く
色のついた眼鏡に綺麗にパーマのかかったそのおばさんは、私がひと目で日本人だと分かったのか嬉しそうに日本語で話しかけた。
「観光でいらしたの?」
「えぇ・・・まぁ・・・」
「私はもう来て長いのよ。二番目の息子が住んでいてね。息子は他にも出張であっちこっち行くの。いい所だからってしつこく誘われるから来て
みたのだけど食べ物が馴染まなくって。向かいの店は美味しいのよ。値段も安いしサービスもいい。出来たばっかりだからトイレも清潔」
おばさんはそう言って可笑しそうに笑った。本当に楽しそうに笑うので私も何だか愉快な気分になって笑った。さっきより出てきた風がおばさん
と私の間をゆっくり吹きぬけていく。
「ここからの眺めって好きなの。まるで日本にいるみたいな気にならない?」
そう言われればなるほどそうかもしれない。日本企業の看板やスターバックス・・・どことなく普段見る風景に似ていなくもない感じだ。いつの
間にかビールを飲み干していた。私がもう一本飲もうかどうか迷っていると「あなたも楽しんでね」と言っておばさんは笑って去っていった。



121 :夢花火:2007/08/14(火) 10:05:37 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」3

私はぼんやりと頬杖をつき、ぬるい風に身を任せて少し暗くなり始めた通りを見るともなしに眺めていた。日本に似ていると言われ、無意識に
いろいろ思い出してしまったのだ。私は少しの間そこでじっとしていた。
「不好意思」
突然後ろから声がした。振り返ると少し遠くに白いTシャツを着た小柄な男が夕闇に紛れて立っていた。ぼーっとしていた私は急に中国語をか
けられて気が動転してしまい、思わす「びっくりしたぁ」と呟いてしまった。
「日本人?」次にその男が近づく素振りを見せてそう言ったのでスリかもしれない、と私はちょっと怖くなって身を硬くした。手元のバッグをし
っかり抱きしめる。
「何の用。警察に言うわよ」近くに観光客がいるはずだ。辺りを見回すとちらほらとそれらしい人が見えた。
「驚かせてすみません。知り合いかと思って」
男は流暢な日本語でそう言うと真っ白な歯を見せてにっこり笑った。切れ長の目をしているが笑うとあどけなくて子供のように可愛らしい。
見た限りではそう危ない風には見えなかったが、私が警戒して黙っていると彼は「似ていたから。ごめんなさい」とだけ言ってさっさと行って
しまった。
「なんなのよ・・・」
ため息をついて再び通りを眺めていると今度は「あの・・・」と日本人らしい男がこちらを伺うような様子で声を掛けてきた。こんな観光地で
私の顔がそんなに珍しいのか、なんだか今日はやたらに話しかけられるものだ。
「失礼だけど、あなたさっき鞄をすられたんじゃありません?」
「は?いえ、私はほら、こうやってしっかり持って・・・」
何を言うのかと思って手元を見ると、なんと見たこともない全く別のバッグを私はしっかり抱きしめていた。しまった!慌ててさっきの男を捜す
と一階のドアから店の外に出て行くのが見えた。私は真っ青になって一瞬固まっていたが、次の瞬間男の後を追って走り出していた。


見失ったのは言うまでもない。全くよせばいいのに私は走った。かなりの距離を走った。正確に言うと日ごろの運動不足とサンダルで足がもつ
れ、走る、というのでもなかったのだけれど。男は急ぐ風でもなく道を何度も曲がりながらどんどん歩いていく。どれぐらい経ったろうか。
追いつけそうな距離まで来て安心し、疲れて立ち止まった瞬間、男の姿が視界から消えた。長距離にわたる必死の追跡も虚しく、男は悠々と夜の
街に消えていったのだ・・・ 
それから大変だった。幸いカードもパスポートももろもろ全部ホテルに預けており、鞄には現金しか入っていなかったもののそれですら決して小
額ではなかったし、何より盗まれたバッグは彼と本格的にうまくいかなくなっていた去年の冬に友達に触発されて貯金とボーナスで思い切って買
ったあの、新品の、私の・・・バーキン・・・!!それを、よりによってエナメルの安っぽいセカンドバッグ(!)と間違えて抱きしめていたな
んて・・・・自分がとんでもないアホ面をしたバカ女に思え、情けなくてへなへなとその場に座り込んでしまった。大声で泣きたい気分だ。



122 :夢花火:2007/08/14(火) 10:07:56 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」4

 やっぱりあまりにショックで思考回路が遮断されているらしい。奇跡的に辿り着いた警察署で何度話しても肝心なところで私の発音はうまく通
じず紙に書いても駄目で、持って来た中国語の本さえもすられてしまっていた私は大学時代の勉強なんてすっかり忘れている自分に愕然としただ
けだった。結局何一つ事態を解決することはできなかったのだ。明日身分を証明するものを持って行こう。だが届け出たところで100%無駄だと
思う。私はジンジンする頭のままさっきから何処だか分からない場所を歩いていた。ずいぶん走り回ったとはいえまさか市内からは出てはいない
だろう。それなのに不思議なことにさっきからタクシーどころか車一台も捜せない。警察に引き返してホテルの番号を聞いて車を出せないか交渉
しようかとも考えた。だがもうだいぶ歩いてしまってここからどう引き返せばいいのかよく分からない。私は血迷って代理店を通さず直接ホテル
に泊ったことを今更ながら後悔していた。こういう時、誰も頼れないのは本当に辛い。自分はもう三十で、しかも一度来た場所だから何とかなる
と高を括っていたのだ。歳だけとって・・・そんな風に思ったらどうしたって涙がこぼれそうになってしまう。私はやっとの思いで息を整えると、
泣くものか、と空を睨んだ。 


さっきより闇が深くなり始めていた。計算するともう夜の十時を超えているはずだ。見ればさっきまでの通りと様子が違う。どうやら屋台街に紛
れ込んでしまったらしい。店はみな小さく、ごちゃごちゃと道にせり出していていた。それにしても今まで私の見てきた場所と比べると人影もま
ばらで静かである。民家らしい建物もあってなんとなく下町の雰囲気みたいなものがした。とにかくこのままでは野宿しかないと思った私は、な
るべく人のたくさんいそうな店に目をつけると道を聞いてみることにした。
「隅俸一下、我迷路了・・・(ちょっとお尋ねしますが、道に迷ってしまったんです)」と言うと数人で飲んでいた客が全員振りかえった。なぜか
急に皆静まりかえったが、次の瞬間その男たちは爆笑し、一人の赤ら顔の中年の男が立ち上がり私のほうにやってきた。何とかしてくれるらしい。
私が「謝謝」と言うと男はニッと笑ってぞんざいに抱きついてきた。びっくりして慌てて男を引き剥がすと、男は何だお前、みたいな顔をして今
度は目の前に汚れたコップを差し出した。飲?、飲?、としきりに言っている。コップを煽るジェスチャーをして、どうやら飲めと言っているら
しい。男の連れらしい人達も口々に何か言って笑っている。違う違う、と言っても男は頑としてコップを下げようとしない。そして無理やり私に
コップを持たせると、男は透明な液体を淵までなみなみと注いだ。それでも私が首を振っていると、男は仲間のほうに振り返り、「真機車(ノリ
がわるいな)」と言って笑い、また私に無理やり抱きついてキスしようとする。これは道を教える条件で、二者択一ということか?馬鹿にされた
ようでカッとなった私は、次の瞬間その液体を一気に飲み干していた。


123 :夢花火:2007/08/14(火) 10:12:13 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」5

気がつくと私は薄いマットレスの上に寝かされていた。
「あれ・・・どうして・・・」
立ち上がろうとして再び倒れこんだ。まるで脳をのこぎりで削られているように頭がガンガンする。それでもなんとか首を回して辺りを見回すと、
そこは赤や黄色の布が何枚も重なって上から垂らされ、天井にも色んな色の布が張られた部屋ともいえないような妙な場所だった。一応リビング
なのか古めかしいテレビやソファはあるが人の気配はない。私はとにかく頭が痛くて目を閉じた。するとだんだん昨日起った出来事が蘇ってきた。
次の瞬間思い浮かんだこと。犯されたかもしれない・・・!私は慌ててジーンズをまさぐった。一応パンツは穿いているしどうも色々大丈夫のよ
うだ。じゃあこれから・・・?売られる・・・?ここはどこ!

 その時視線の先を何かおかしな動きのする白いものが横切った。
「ニーハオ・・・」
恐る恐る声をかけると、布の先からしわがれた声がした。
「あんた、日本人だな」

私が息を呑んでいると、機械のようにカクカク揺れながら真っ白い甚平みたいな(それにしてはやけに上着の丈が長い)服を着たつるっぱげのお
爺さんが現れた。ものすごく年老りだ。でっかい丸いレンズのサングラスをして手には杖の代わりか棒切れを持っている。私は驚いて「誰、何、
どうするつもり」と言った。するとお爺さんはこちらに向き、また揺れながら恐ろしい程ゆっくりした動きで私の前に到着した。
「リンの店でぶっ倒れとるからのぉ、あんなところで寝られたら皆迷惑する。うちのもんがひっぱってきてくれたんじゃ。感謝するのが先じゃろ
が」
(亀仙人・・・じゃないわ、なんだこの爺さんは)
膝が震え、今にも事切れそうなこのよぼよぼ爺さんがマフィアだとは到底思えない。お爺さんはゆっくりソファに腰掛けるとリモコンを手にとっ
て電源を入れ、私などいないかのようにテレビに見入りはじめた。
変なことになった。どうやら倒れた私を介抱してくれたらしい。かなりおかしな格好だが日本語を話せるし、サングラスをしているのでよく分か
らないがやっぱり日本人なのかも・・・
「ええぃこの。いくら押しても、これが、変わらん、この」
・・・怒っているのかもしれない、さっきからお爺さんはブツブツ言いながらリモコンを振り回している。えらい長いこと画面が変わらないので
仕方なくテレビに近づいて変えましょうか、と言うとお爺さんはほっとしたように2をだしてくれ、と言った。操作がよく分からなくて手間取っ
ていると「この時間はニュースをやっとる、もうはじまっとる」と言って急かす。やっと画面が変わると「記憶のバロメーターっていうやつよ。
好奇心を忘れたら駄目」と言った。
いまいち意味は分からないがニュースが出て納得したのか、お爺さんは満足そうに背もたれにもたれるとまた黙ってテレビを見始めた。



124 :夢花火:2007/08/14(火) 10:14:28 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」6

どれくらい経ったろうか。いつの間にかうつらうつらしていた。そして何度となく見た夢を見た。夢の中で誰かが私を責めていた。

前の会社はどうして辞められたんですか
やっぱり若い人が多い職場ですからねぇ・・・
今から正社員を探すのは思っている以上に大変だよ
前のところと関係のない業界は・・・かなり限られると思いますよ
これ以外に資格は何かお持ちでないんですか
もう母さんは帰ってお見合いしたほうがいいと思うわ・・・・・・・・・・・・・・

最初はぼんやりと遠くに聞こえていた声はしだいにはっきりとしていき、真っ暗な場所でうずくまる私の周りを顔のない白い人が取り囲んだ。最
低、恥知らず、そう誰かの声がする。顔のない人はしだいに数を増して、手をつなぐとぐるぐると私の周りを回り始めた。人影はどんどん増えて
押しつぶされそうになってしまう。私は夢の中で耳を塞ぎしっかり目を閉じた。
急に人がいなくなり今度は甲高い声が響いた。 

人を地獄に落として幸せになれると思ったら大間違いよ

私は立ち上がり泣きながら声の主を探す。許しを請わなければならない、この人に謝らなければならない・・・でもあたりは真っ白でもう何も見
えない。
私が立ち尽くしていると後ろから誰かが近づく足音がした。いや、本当は誰だか分かっている。その人はそっと私の肩を抱き、やさしくささやい
た。

「君なら僕なんかよりもっといい人が見つかるよ」
 

目が覚めたらお爺さんは小さなテーブルに移動していた。立って歩いているときは腰が曲がっていて小柄だと思ったが、胴が長いのか正座して姿
勢を正したお爺さんは奇妙に大きく見える。私の頭は前より少し楽になっていた。それにしてもさっきから部屋中が何やらいい匂いだ。
私が起き上がったのを察したのか、お爺さんは背中を向けたまま「食え」と言った。料理なんだか茶色いものばかりで食欲はなかったが、お爺さ
んが何度も食えというので仕方なく料理に口をつけてみるとびっくりするほど美味しい。食べている私を見ながらお爺さんはじっとしていた。が、
しばらくしてからちょっと低い声になって「ところであんた何もんだ」と言った。


125 :夢花火:2007/08/14(火) 10:16:38 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」7

ざっと説明するとお爺さんはふーむ、と言ってタバコをふかしはじめた。私もしばらく黙って料理を食べていたが、お爺さんが顔をこちらに向け
たまま一向に喋らないのでなんだか居心地が悪くなってきた。
「正直に言うと傷心旅行なんです。でも癒されるどころかもういろいろあって散々。昔から思いつきでつっぱしる癖があってバカだって言われて
きたけど、これほどの馬鹿だと思わなかったっていうか。いや、そりゃあ私は馬鹿だけど。それに関しては言い訳なんかないし、人の家庭を壊し
ても幸せになれると思っていたから最後の最後に罰が当たったと思う。でも付き合っている時はすごく幸せだったし、思い出ももらったし、いい
勉強させられたって思ってる。今更彼を責めるつもりはないって感じ。だから」
「まぁ平たく言うと不貞をはたらいたんじゃな」
お爺さんは私の話を遮ると、みるみる間に眉間に皺を寄せ苦虫を噛み潰したようなしかめっ面になった。
「不貞?あぁ、そう。不貞」
不倫のことを不貞というのか。その昔姦通罪っていうのがあったらしいから爺さんぐらいのお年寄りには私はさぞふしだらに映るのだろう。私は
だんだん見ず知らずのお年寄りに言わなくていい身の上話を聞かせたことを後悔しはじめていた。

「その男は極悪人じゃな」
お爺さんはタバコの火を乱暴に消してきっぱり言った。・・・この爺さんは・・・人の話を聞いているのだろうか。
「いやだから、彼だけが悪いわけじゃないし、私だって十九や二十歳でもあるまいし、いい歳をしてだらだら関係続けてたんだから責任はお互い
にあるわけで、そういうのはどっちが悪いとか言っても仕方ないと思ってんですよ」
私がそう言うとお爺さんは「いんや、違う。男が悪い」と再びタバコに火をつけた。きりっと通った鼻から大量の煙が噴出している。
「世の中なんでも先着順。あんたの相手は我慢せんといかんかった。仕事もそう。一度家庭をもったら我慢して、我慢しぬいて女子供を幸せにす
る義務がある。家族を守るっちゅうのは、そういうもんだ。男はそういうもんだ。最近ドラマかなんかで平気で人の旦那や女房に手を出しておい
て自由恋愛とか抜かしくさるがわしはそういうのは腐っとると思う。たとえ相手がろくでなしで借金して暴力して不貞して家族ないがしろにする
バカタレでも、夫婦が協力していい亭主、いい女房にする努力をせんといかん。犬をもらったのと違う。簡単に次の新しい家庭を作ったらいいと
いう考えでは誰と添っても同じ試練がまっとると思う。あんたも人のもんを何でも欲しがる卑しい女になったらいかんが、男を憎んでないところ
をみると心の底から好いとったんじゃろ。女は万国共通、情が深いからのう。犠牲になるのはいつも女じゃ。その男が悪い!」


126 :夢花火:2007/08/14(火) 10:20:15 ID:wIZ6va4/
 「おくりもの」8
お爺さんは話しながら興奮してきたのかだんだん声を大きくしていき、ついには拳で机をぶった。料理がこぼれ、私の額に汁が飛ぶ。私はあっけ
にとられてしまった。こんな見ず知らずの女の身の上話で熱くなるなんて・・・このお爺さんはどうやらよほど感情が高ぶりやすい性格のようだ。
興奮させると倒れそうな様子だったがお爺さんは一向に怒りがおさまらないのか、その男は・・・と語りだし、私から彼のしたこと言ったことを
どんどん聞き出しては「大ばか者が」とか「たわけもんが」とかの暴言を吐いた。お爺さんの話は「女はとにかく無罪」という論法で成り立って
いるようで、微妙に首を傾げることも混ざっている。だが、なぜだろう。私はお爺さんが怒る度に少しずつ固まっていた気持ちが解けていくよう
な気がしてきた。思えば今まで誰かにそこまできっぱりとお前よりもその男のほうが悪い、と言い切られたことなどなかった。


幼い頃に両親が離婚して父親がいなかった。人一倍気を使って生きてきた。はたからはそう見えなくったって。大学は実家から通えるところを選
んだし、就職難で同級生が次々諦める中、私は必死で頑張って堅実な企業に入った。仕事の愚痴は決して漏らさなかったし、その理由の全ては母
親を心配させたくなかったからだ。母は私に、正直に素直でいなさい、人にやさしくしなさい、やったことは必ず自分に返ってくるからといつも
言っていた。
そんな私が唯一人を悲しませてでも欲しかったのが彼だった。彼は大人で、余裕があって、人を包み込む暖かな笑い方をした。彼に家庭があるの
は分かっていたが気がついたら止まらなくなっていた。

私は話すうちに意識して忘れようとしていたこと、心の底で蓋をしてきた思いが溢れて、言葉が止まらなくなってしまった。何か彼にひどいこと
を言ってやろうとするのに、思い出すのは彼の奥さんや子供のことばかりだ。自分のしてきたことの罪の重さが心に突き刺さる。私のせいで彼は
離婚したのだ。あのかわいい男の子はこれから私と同じ思いをするのだろう。散々人を不幸にしたのに、それなのに彼とは結婚できなかった最低
の女。
「私が悪いんです・・・人のものに手を出したから・・・だから・・・本当に、私さえいなかったら、今も幸せに暮らしていたんです。私・・・死んだほうがいい」

「・・・辛い思いをしたんじゃな。もう十分じゃろ。あんたは悪くない。若くてこんなに綺麗なのに、もったいない。そんな風に考えるのは止め
なさい」
静かに言い聞かせるように言って、お爺さんはしわしわの手のひらで私の頭を三回撫でた。不思議と嫌な気持ちはしなかった。おじいさんの手は
皮が分厚くて節が太く岩のような感触だったけど、びっくりするほど一本一本の指が長かった。自然に涙がこぼれていた。一度泣き始めるとせき
を切ったように涙は止まらなくなり、机に突っ伏して私は大声を上げて泣いた。こんな風に子供のように無防備に泣いたのは久しぶりだった。


私が泣くのをお爺さんは黙って見ていた。私はゆっくり自分の気持ちを理解していた。誰かに思い切り味方されたかった。無条件にそうだ、お前
は悪くない、そう言って抱きしめて欲しかった。そうして欲しいのに誰もしてくれなかった・・・優しくされたかった・・・ずっと・・・・


127 :夢花火:2007/08/14(火) 10:22:55 ID:wIZ6va4/
「おくりもの」9

兄貴、道具は持ったか。起こさんように静かにせい・・・ 

薄い意識の中で誰かのひそひそ声を聞いた気がする。気がつくと泣きつかれて再び眠ってしまっていた。どうもここに来てから私はずっと子供の
ようである。
「目が覚めた?」
ものすごい至近距離に誰かの顔があった。思わず「びゃ!」っと叫んだら、私の肩を抱いていた男が慌てて両手を放し、支えをなくした私はバラ
ンスを失いゴン・・・という大きな音とともに後ろに倒れ、床に後頭部を思い切りぶつけてしまった。
「驚かせてごめん。なんだか寝苦しそうだったから床に寝かそうかと思って」
声の主はそう言うと、痛かったかい、と私の目を覗き込んだ。 
 

涼しい目元にどこか幼さの残る顔。この顔はどこかで・・・どこかで見た。どこかで・・・・

「あの時の・・・!!!」こんな事があるか、この男、あの時のスリだ。バーキン!
「よくも!バッグ返してよバカ」私は男に馬乗りになった。あの時は薄暗くて分からなかったがよく見たら子供だ。背も私と同じくらいだし、雰
囲気がひ弱そうだし勝てそうな気がする。
「何のことだよ、やめて、知らない、太過分了!!(ひどいよ)」少年は爪立て攻撃に完全に降参して私を振り切るとソファまで走って逃げた。
「嘘つかないでよ。警察に行く。突き出してやる」
「やってないよ!やってない。知らない」
「知らないならいいわ、一緒に来ればいいじゃない。こういうのは調べたら前科とかあるんでしょ。来たらはっきりする」
私が言うと、彼は「分かった。でも警察に行っていいなら冤罪で訴えてやる」と言って睨んだ。冤罪。難しい言葉を知っている。
「ちょっと。あんた今さっきも変なことしたんじゃないでしょうね」
「してません」傷ついたように言って少年はうつむいた。
「僕が声を掛けたらあなたは鞄を両手でしっかり持っていましたよ。こういう風に、胸の前に。不可能でしょう。声を掛けたのは離れたところだ
った」
「でも、でも声をかける前にとったら出来るわ」
「ならそのまま逃げるよ普通」
それもそうだ。わざわざ自分から顔を見せる必要はない。
「じゃぁ誰が・・・」ふと思い当たった。あのおばさん?人のよさそうな?思いっきり日本人顔の?私は慌てて記憶を辿った。
「眼鏡が青くって、パーマがかかってて、二番目の息子が出張でとか言ってなんか品がいい感じがしたおばさんが、私のすぐ近くに来てた」
「そりゃスンのばあさんだよ。あなたに会う前店で僕も見たし。この辺じゃ有名なんだ」
「知ってんの?」待てよもしかしてこの子・・・幼い顔をしているが窃盗団の一味かもしれない。しかしこの際頼ってみるしかなかった。
「私のバーキン、鞄、取り返して!お願い」
「昨日派手に飲んでいたらしいからね。鞄は売られてなきゃいいけど」と言うとロンは私を急かして表に出た。そして汚い乗り物を指差すとこれ
で一緒に行くよ、と顎をしゃくった。


128 :夢花火:2007/08/14(火) 12:57:11 ID:wIZ6va4/
 

(すみません・・・ここからちょっと時間ください)
 ゴメン(-人-;)(;-人-)ゴメン

129 :癒されたい名無しさん:2007/08/14(火) 18:21:18 ID:hjzksHl9
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +


130 :癒されたい名無しさん:2007/08/16(木) 22:12:40 ID:GVYGPE5V
百均の超ミニタッパーにこっそり貯めていた耳垢、
お盆の間に捨てられてたよ…

耳かきしながら続き待ってます!

131 :癒されたい名無しさん:2007/08/17(金) 10:24:02 ID:VrxTEqY9
もう待ちきれない!

132 :夢花火:2007/08/17(金) 12:25:00 ID:W1rPzrFB
「おくりもの」10

 少年はロンと名乗った。指差したスクーターはもともと二人乗り用ではないのにさらに三人乗れるように台を付けていた。大きいエンジンはむき出しでボディは何回塗り替えたのか分からないほど
の色んな色が塗られ、大部分錆びて剥げている。走る度ガタガタする石畳がもろにお尻を直撃し、私は何度か舌を噛みそうになってしまった。
大通りに出るとスクーターをとめ、ロンはまっすぐ小さな建物の中に入っていった。建物の中は埃っぽく静かだったが天上からの光が明るい。窓には色とりどりのステンドグラスが張られていて、や
さしい光が満ちていた。
(古美術のお店かなぁ・・・)
見渡すと古い猫足のテーブルや、背もたれのゆったりした木の椅子、アンティーク調の家具がたくさんあって、棚には絵画や茶碗や大きな花瓶もある。ロンの後を追って歩いていくと、深紅の重たい
どん帳がカーテンのように垂れている部屋らしきところに着いた。ロンはカーテンを手でさっと分けて入っていく。私も慌てて後に続いた。
中は三畳ほどの大きさだった。そこには一人用の大きなゆり椅子があって、あのお爺さんが座っていた。手作りらしい机の上には小さなテレビがちょこんと置かれている。お爺さんのあれは部屋着で
はなかったらしい。さっきと全く同じ格好である。ロンは何か分からないがお爺さんと喋って、私に「ここでちょっと待っていて」と言ってどん帳部屋の奥にある部屋に消えた。テレビの音以外何も
なく静かだった。お爺さんは私のことを無視してまたニュースを見ている。

どれくらい経っただろうか・・・ロンは一向に部屋から出てこない。私はにわかに不安になり始めた。もしかしてあの部屋は外に通じていて、私を残して逃げたのではないか・・・?私は思い切っ
てドアを開けた。


薄暗い。上から裸電球がぶら下がっている。お香がたかれているのか不思議な香りがした。古い納屋に置かれている干草みたいな匂いだ。部屋には机も椅子もなくてがらんとしている。天井から大き
な蓮の模様の入ったすだれがぶら下がっていた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
すだれの向こうからぼそぼそっと喋る声がして、急に帽子を被った誰かが勢いよく飛び出してきた。私にぶつかると、謝りもせずにその人は走って行ってしまった。
「なんだ・・・?」
すだれを開けると、ロンとさっきのお爺さんが長椅子に座ってこちらを見ていた・・・


133 :軽い耳かき関連シーンあり:2007/08/17(金) 12:26:29 ID:W1rPzrFB
「おくりもの」11

「信じられない。逃がしたの!?あんたたちグルなの?」
グルって?とロンは言った。意味が分からないらしい。さっきの帽子の人はあのおばさんだったのだ。
「鞄もお金も無事なんだからもういいじゃないか」
「よくないわよ。ものが無事だからいいってもんじゃないでしょ?ここで見逃してもまた繰り返すのよ?警察に言うべきだわ」
私がわめくと
「よく来る客なんだ。旦那が病気で死んじゃってから酒を飲みだして方々に借金があるらしい。師匠からも借りている。鞄はこのとおり戻ったんだから、許してあげ
てよ」
全く意味が分からない・・・ごめんで済んだら警察はいらないんだよ。
「あんたたち・・・なんでここにあのおばさんがいたのよじゃぁ。説明しなさいよ!」
「うちに借金を返しにきていたんだ。お金ができたらいつも来るから、もしかしたらここに寄っているかもしれないと思ったら案の定だった」
「そんなの納得できないし、グルじゃない証拠にはならないじゃない!」
「だから・・・」

「うるさぁあああああい!!!!」

突然お爺さんが叫んだ。鼓膜がやぶれるような大声だ。私は耳がキンキンして立っていられなくなって長椅子に座りこんでしまった。

「今、他のお客がいるんだ。その話は後で聞くよ」
ロンがばつが悪そうに肩をすくめて言った。
「・・・他の客・・・?」
暗闇に目を慣らすと、すぐ足元の一畳の畳がそのまま床に敷かれている上に、お婆さんがぽつんと寝転んでいた。
お爺さんはお婆さんのところに行ってあぐらを組むと、ロンを見た。
 ロンは私にチラッと目配せすると、大きなタンスから見るからに古そうな木箱を取り出し、中身を確認するような動作をしてからお爺さんに渡した。そしてまたタ
ンスの引き出しから茶色のお猪口くらいの大きさの陶器と、脱脂綿らしいものや細いうねうね曲がった妙に長い管みたいなものを出した。今度は近くにあった金ダラ
イに部屋の奥に置いてあったカメから何か注いだ。茶色い液体だ。それをたっぷりついでお爺さんのもとに運んだ。

何が始まるんだろう・・・やけに深刻そうなロンの表情と、部屋にずっとある妙な緊張感で私はさっきまでの怒りの持って行き場を失くしてしまっていた。
「・・・・」
私がどうしていいものか迷っていると、お爺さんはお婆さんの耳に手に持っていた電球を近づけ覗きこみ、おもむろに木箱を開けた。


134 :耳かきシーンあり*ちょっとSFチックw:2007/08/17(金) 12:28:13 ID:W1rPzrFB

「おくりもの」12

「あなたも見て行ったらいいよ。師匠の技はめったに見られないんだ」
ロンが近づいてきて小声で耳打ちした。
「技って何?」
「耳をね。まぁ見てろ、すごいぞ」
ロンは急に威張ったように言ってから、私を引っ張って畳みの縁まで連れて行った。

 まず、木箱からカチャリ・・・・と金属の触れ合う音がした。お爺さんは慎重にそれらを指でなぞり、しばらくお婆さんの耳と見比べてから木の細長い棒を取り出
した。お婆さんは信頼しきっているのか目をつむったまま全く動かない。どうやら今から耳かきが始まるらしい。
お爺さんは意を決したようにスッと匙を入れた。耳穴に入るまでものすごく早い。それからお爺さんは耳かきを持っている手の一指し指で小さい円を描くような動作
をした。その次に何かつまむような仕草。大きく混ぜるような動き。そこからしばらく手首を小刻みに震わせる。そして「ぐるん」と音のするような手の返しをした
かと思うと、お爺さんはゆっくり耳から匙を取り出した。

       蛇の抜け殻・・・・大きな大きな蛇の抜け殻だった。

薄い垢の皮が何枚も何枚も重なって、厚いもっこりとした層を作り、その周りを牛肉の脂身の網のような、飴細工のような、後ろが透けて見える程の繊細な衣を辺り
にそうっとまとっている。
すごい。何だこれ・・・・?あっけにとられる私を尻目にお爺さんはさっさとティッシュに垢を出すと、また同じようにスッと耳かきを入れた。今度は前よりさらに
柄の先端のほうを本当に摘む程度に軽く持ち、鋭い角度から掘っていく。カリカリカリ・・・・・ッ・・・・ポリカリカリッ・・・・まるでこちらにまで音がするよ
うな軽快なタッチである。お婆さんの表情は幸福そうに伸びて、ものすごく気持ちよさそうだ。
しばらく耳垢を軽くはがすような動作を続け、お爺さんはまた「ぐるん」をやって匙を取り出した。先ほどより塊が丸い。これは・・・沖縄のサーターアンダギーの
ような・・・丸い、大きくて柔らかそうな耳垢が匙に溢れていた。
「すご・・・」
お爺さんはさらに何回か同じ作業を続け、垢の小山をいくつもティッシュに出した。それはまるで玉子いろのスポンジのかけら。それも少し水分が残ったしっとりと
した粉なのだ。自分でも信じられないが、ちょっとおいしそうにさえ見える。
しばらくしてお爺さんの手が止まった。また木箱をさわって耳かきの道具を出している。今度はさっきより一回り小さい、これまた木の耳かきを取り出した。


135 :耳かきシーンあり*ちょっとSFチックw:2007/08/17(金) 12:29:27 ID:W1rPzrFB
「おくりもの」13

「次はもっと見ものだよ」
ロンがまた小声で耳打ちする。お爺さんは、今度はゆっくりと匙をお婆さんの耳穴に入れた。今度はさっきより耳から見える柄の部分が短い。かなり奥まで入ったら
しい。そしてこちょ・・・こちょ・・・と少しだけ動かすとすぐ取り出す。匙に耳垢はついていない。そしてまた入れる。また少し動かして出す。また入れる・・・
こうしてお婆さんの耳の四方八方の角度から耳かきを差込んでは抜くという不思議な動きを繰り返し行った。
 急にお爺さんは「ほぅん・・・」とため息ともなんともとれない声を上げた。そしておもむろに足元にあった、先ほどロンが持っていったくねくねの長い管を手に
取り、お婆さんの耳にそれをつっ込んだ。
「え・・・」
お爺さんはなんとその管をストローみたいに口にくわえ、空気を吸い込み始めたではないか。
・・・ズズズズズ・・・・ズズ・・ズズズズ・・・
お爺さんは大して苦しくもなさそうに吸うと、息を吐き、またくわえては吸って、また吐く。あまり長い時間ではなかった。お爺さんが管をそうっと抜くと、先ほど
はよく見えなかったが先には小さな金属のキャップみたいなものがついていて、そこのU字型のくぼみ部分に濃い黄色の堅そうな耳垢の塊が挟まっていた。お婆さん
は満足したように微笑んでいる。お爺さんはまた例の木箱から今度はフサフサした綿毛のついた棒を取り出し、お婆さんの耳に優しく入れて最後の仕上げを行った。
この間わずか5分なかったと思う。この爺さん・・・何者・・・

 お婆さんがお爺さんの耳元で何か言った。お爺さんは頷いた。お婆さんは寝返り、反対の耳をやってもらうらしい。お爺さんはまたさっきの木の耳かきを使うと思
ったのに、今度は金ダライ中の液体をお猪口の小さいコップですくい、そのまま器用にお婆さんの耳の穴に注いだ。もう何が何やら分からない。一体何が起きている
のか・・・それでも不思議な高揚感があるのだ。今の私にはお爺さんの技がもっと見たいという、純粋な好奇心しかなかった。

お爺さんはお婆さんの耳に液体を目一杯入れると、脱脂綿に唾をつけて詰め、耳の入口に蓋をした。そしてマッチを取り出した。何・・・何をするというのか・・・?
火をつけた。脱脂綿は一瞬「ボッ・・・」という音をたてて燃え、すぐに炎は消えた。


136 :耳かきシーンあり*ちょっとSFチックw:2007/08/17(金) 12:31:08 ID:W1rPzrFB

「おくりもの」14

「うそ!危ない・・・」
思わず声を出すと、お爺さんは口をゆがめて私のほうを向いた。サングラスで見えないがおそらくしかめっ面をしているのだろう。
「シーッ・・・」とロンも私の服を引っ張った。
 お爺さんは木箱からピンセットを取り出した。なんだか先っぽが少し大きく見える。それで脱脂綿をまず取り除き、お爺さんはその
まま「ぬっ」と穴にピンセットを差し入れた。ググググ・・・・かなり深いところに差し込んでいるらしい。力強く入れてしまうと、
今度は微妙に震えながら少しづつひねりを加え、回転をかけるように引き抜き始めた。ググググググ・・・グッ・・・グリリリリ・・・
少しづつ出てきた・・・・さっきの炎であの茶色い液体は固まってしまったのか、ピンゼットに掴まれて震えながら顔を出してくる。
グググ・・・お爺さんは全く焦ることもなく、ゆっくりゆっくり時間をかけて慎重に茶色の塊をつまみ出した。そして、そしてついに
その姿が完全に現れた。

 耳の形はこうなっているんだな、と分かる完璧な形・・・・・よくサザエのつぼ焼きなんてたとえ方をされるがまさにそのまんま。
よく完璧にこの形のまま取り出せたものだ。あの液体は寒天のように固まって、透明感のある茶色の表面を薄く包むようにして耳垢が
びっしりついていた。びっしり。米が立ったような状態でモロモロの垢がびっちりと・・・・お婆さんはどうやら耳の中を怪我してい
たらしく、古い血の固まりや黄色い液の固まったパキパキしたものもたくさんついていた。そして先の先、つぼ焼きの一番先には、粉
のような耳垢に包まれた小石のようなつやつやの塊がくっついていた・・・・

「す・・・・ご・・・・」
私は思わずティッシュに近づいてまじまじと見ていた。普通なら知らない人の、しかも耳くそなんか汚くって見たくはないと思うだろ
う。私だってそうだ。なのに何でだろう・・・?すごい重量感のこの塊、もうただただ見とれるしかないのである。手にとってみたい
くらいだ。汚いとか、もうそういう感覚は麻痺していると言っていい。芸術品のようなその塊に、私はすっかり見入っていた。


137 :夢花火:2007/08/17(金) 12:32:53 ID:W1rPzrFB

「おくりもの」15
お爺さんはあんなものすごい技を披露しておいてせっかくの収穫には興味がないらしく、さっさと木箱に道具を仕舞いはじめた。お婆さんも
こんなにすごいものが耳から出たというのに、全くそれに関心を示すこともなく帰り支度をしている。お爺さんとお婆さんは言葉を交わすこ
ともなく、身支度を整えたお婆さんはすだれを押しのけて部屋から出て行ってしまった。
ロンは耳垢ののったティッシュをぞんざいに掴むと、まだ私が鑑賞しているのにくるくる包んでゴミ箱に捨ててしまった。
「あ・・・もったいない・・・」
ロンは私の顔を見て、面白かった?と笑顔になって聞いた。
「うん・・・お爺さんすごいね。ここって耳かきするお店なの?」
とまだ夢見心地のような私が聞くと、普段は入口の古美術の店をやっていて、耳かきは特別な客にしかやっていないと言った。
「お師匠はプロの耳かき屋さ。僕も弟子になりたくてここに置いてもらっている」
「へぇ・・・すっごかったねぇ・・・」
よく中国なんかにはものすごい技をもったびっくり人間みたいな人がテレビなんかに登場しているけれど、耳かきのスペシャリストみたいな人
を間近で見たのは初めてだった。間違いなくプロなんだろう、このお爺さん。迷いがない素早い手さばき。あのお婆さんの幸せそうな顔・・・・
「鞄の話だけど・・・」
道具を流しで洗うお爺さんとロンの背中をボーッと眺めていたら、ロンが振り返ってこちらを伺うような顔で話しかけた。
そうだ、私はすっかり鞄のことを忘れていた。
「もしあなたがよかったら、師匠が耳かきで水に流してもらえないかって言っているんだけど」
「え・・・?」
「もともとあのおばさんは師匠が使う道具を作っていた人の奥さんだったんだ。昔からの知り合いがやったことだからって師匠が・・・」
お爺さんはくるっとこちらに向き直ると、私の顔をじっと見た。
 どうしよう。でもあのお婆さんの気持ち良さそうな顔・・・確かに鞄が無事だったんだし・・・私もあの技を受けてみたい・・・
私が答えに迷っていると、カツッ、カツッ、と音がして、誰かがすだれの向こうから近づいてきた。
「どぉれ、やっとるかい」


138 :夢花火:2007/08/17(金) 12:34:00 ID:W1rPzrFB

 「おくりもの」16

 見るとお爺さんだった。お爺さん。あれ・・・?お爺さんは目の前にいる。後ろにいるこのお爺さんは目の前のお爺さん。お爺さん。二人?
二人・・・??

「びっくりしたか?」
わははははは!後ろのお爺さんが爆笑した。
「双子ってこと・・・?」
今までにも双子は見たことがあった。けれど老人の双子、それもこんな着ているものからなにから何までそっくりの双子なんか見たことがない。
後ろのお爺さんは杖(棒っきれ)を持っている。ということは、私と今朝話したお爺さんか・・・ 
「せっかくだからやってもらったほうがええぞ。兄貴の方から客を取るなんてめったなことではないからな」
どうやらお爺さんは弟らしい。兄貴と呼ばれたお爺さんは、むすっと口を閉じてまだ私を見ていた。私は弟に言われてそれもそうだと思った。
どうせホテルに帰っても帰国するしかないのだ。思い出作りになるかもしれない。
「やってもらいなよ。僕はこれから学校に行かなきゃいけないんだ。師匠に任せておけば間違いないよ」
ロンも私にそう言って無理やり畳に連れて行った。もうこうなったら、いや、どうなったらって感じだけどやってみるしかない。私はジーンズ
からゴムを取り出し、髪を縛ってから横になった。

「さて、緊張したらいかんぞ。体に力が入ったらできるもんもできん。何にも考えずにゆったりするんじゃ。眠ってしまうくらいリラックスす
るといい耳かきができる」
弟は畳のそばに床に腰をつけてから言った。ロンが兄のほうに何か喋っている。中国語というか、台湾語だろうか、ちょっと微妙にイントネー
ションが違う。
「お兄さんはあんまり日本語を話さないの?」
こそこそと弟に尋ねると、「あんまりじゃな。めったに喋らん。というか地の言葉もめったに喋らん。恐ろしく無口なんじゃ」と言う。私はち
ょっと心配になってきた。もし痛い時に通じなかったらどうしよう。弟のほうが話安いし、双子なんだからもしかして・・・そう思い「お爺さ
んは耳かきできないの?」と尋ねてみる。
「できるが危ないぞ」
弟はそう言うとこれを見てごらん、と言ってさっとサングラスを外した。お爺さんの両目は白く濁って、黒と白の絵の具を混ぜたようだった。


139 :癒されたい名無しさん:2007/08/17(金) 14:47:13 ID:Fh/gFdBG
wktk

140 :癒されたい名無しさん:2007/08/17(金) 15:54:16 ID:nSZtf8+Y
いいい、いいところで止めますなぁぁぁーーーー

141 :癒されたい名無しさん:2007/08/17(金) 16:12:59 ID:VrxTEqY9
夢花火先生の作品が読めるのは、2chだけ!

142 :癒されたい名無しさん:2007/08/17(金) 17:04:13 ID:moUuP9cY
こりゃまた、内容の濃い小説がうpされてうれしい限り
です。今まで色々な耳垢の隠喩表現がありましたが、
まさか「蛇の抜け殻」ときましたか、しかしそれが
また文に合う事合う事。完成まで頑張ってください。
これは永久保存版になりました。

143 :癒されたい名無しさん:2007/08/17(金) 18:20:30 ID:Ng/eMzwq
すごいボリューム…ゴクリ

144 :癒されたい名無しさん:2007/08/19(日) 08:46:05 ID:Ln+BJARV
夢花火さんに焦らされてハァハァだけど俺も書いて見ようかな

実際の話というか、体験を元に書くのはおk?うちのハウスキーパーさんとの話なんだけど…

145 :癒されたい名無しさん:2007/08/19(日) 09:44:35 ID:ByOUcXJA
>>144
書いて書いて!!

146 :癒されたい名無しさん:2007/08/19(日) 18:00:23 ID:/bVpX/Kb
>144
また新たな挑戦者が、楽しみにしてます。

147 :癒されたい名無しさん:2007/08/19(日) 23:31:12 ID:td2oeBsL
wktk

148 :癒されたい名無しさん:2007/08/20(月) 12:09:06 ID:BpvUxdJS
そろそろクル予感!

149 :癒されたい名無しさん:2007/08/20(月) 19:57:22 ID:arcUN3BM
これはwktkせざるを得ない

150 :癒されたい名無しさん:2007/08/20(月) 23:48:22 ID:pHQsKv1r
癒されたい・・

151 :癒されたい名無しさん:2007/08/21(火) 16:23:30 ID:OiESf839
早く・・来て
夢花火・・・

152 :夢花火:2007/08/21(火) 17:30:05 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」17


「昔は通りで商売していたのさ。でも片目が昔から悪くてね。それでも兄貴と一緒に通りで客の耳掃除をしとったんじゃが、十年くらい前か
ぁ。両目ともほとんど見えなくなっちまってさ。誰だって目が見えない人間に耳の穴をいじられるのは恐いだろ。ひいきにしてくれる客もい
たけど、歳には勝てない。今は兄貴も体が弱くなったし二人して店に引っ込んで、わしはこうやって気の合う客と喋るのが役目になっちまっ
たのさ」
なるほど。 
「そうなんだ・・・お爺さん日本語上手だね。何で?勉強したの?」と聞くと、「わしらくらいの年寄りは、みんな日本語は得意さ」と言っ
て笑った。

  兄のお爺さんが近づいてきた。いよいよ耳かきである。弟にアドバイスされたように、できるだけ体に余計な力を込めないようにする。
兄はスッと床に腰を下ろし、手元の電球をカチっとひねって明かりをつけた。
「ふぅん・・・・」兄はおもむろに私の耳を手で掴み、覗き込んだ。鼻息がこそばゆい。電球をすぐそばで当てているらしく、耳たぶが熱か
った。

「カハッ!!!」

突然兄が笑いとも咳ともつかない声を上げた。びっくりして弟を見ると、お爺さんは愉快そうに口をあけて笑っている。

「・・・何?」

「ははは、こりゃぁいいや。兄貴がいい形の耳だってよ」

いい形の耳。そんなものがあるんだろうか。耳の形にそもそも違いなどないと思っていた私は、そういうものなのかな、と内心疑わしく思っ
た。
兄は例の木箱から道具を吟味していた。そしてさっきのお婆さんのように木の耳かきを出すのかと思えば、今度は何やら赤茶けた柄の棒を手
にとった。
「はぁ〜兄貴、それを使うとはねぇ」

・ ・・・弟は合いの手を入れるのが癖らしい。私はもう覚悟はできていたつもりだが、そういちいち大げさな反応をされては気になるじ
ゃないか・・・

弟がしきりに感心したように言った耳かきは、なんとゆるやかな弧を描いた先端の匙が、普通の耳かきとは段違いの、針のような細さになっ
ていた。先はちゃんと丸くなっているようだが、これが耳に突き刺さった場合確実に鼓膜をやられてしまう・・・


153 :耳かきシーンあり:2007/08/21(火) 17:34:28 ID:R2gtUDQL
「おくりもの」18


「大丈夫?これ大丈夫・・・?」
私は弟の膝に片手でしがみつきながら、見なきゃ良かったと思った。これでは体の力を抜くどころの騒ぎではないじゃないか。血を見るかも
しれない。
「安心しろ。兄貴がこれを使うのは得意中の得意なんだ。そんなことより、リラックス、リラックス」
出来るわけがない。やっぱり止めてもらった方がいい。私は体を浮かして帰ろうとした。じんわり嫌な汗をかいている。だがその時、兄が体
を起こそうとした私の額をポンと叩いた。するとそれだけでなぜだか簡単に力が入らなくなり、私はだらしなく畳にごろりと横たわった。
私の耳にそっと手を添えると兄の耳かきが入ってきた。

 ガゾリ・・・・・
乾いたわら半紙を、丸めて擦り合わせたような篭った音がした。 


ゾリッ・・・・ゾゾゾゾ・・・・・
ゾリゾリ・・・・ガリ・・・ゴゴ・・・ガリゴリッ・・・・
どうなっているのだろうか。今までの耳かきでは感じたことのない音がするのだ。それも乾いた布袋を荒い砂地で引きずるような、ドライな
音だ。自分の耳で鳴っている音なのに、どこか電話越しから聞くような錯覚を起こす音・・・

ガリ・・・・・ボリボリボリ・・・・・・・・・ゴゾッ・・・・・・

どうやらお爺さんの耳かきとも思えない針のような棒は、私の中の垢を素早い早さで突付いているらしい。この音はしばらく続いた。が、あ
る時、音の重さが一瞬変わった。急に現実的なはっきりした音に変わったのだ。まるで無音だった沼から息をするために、顔を上げた魚のよ
うだ。

 ・・・・ボリッ・・・・!!


154 :耳かきシーンあり:2007/08/21(火) 17:38:04 ID:R2gtUDQL
「おくりもの」19

 痒い!・・・・・いや、これは一体何だろう、痒い。それもただ痒いのではない。脳に一番近いだろう部分が、もどかしく心地よくてたま
らないのだ・・・・・この道具は何なんだろう?今までこんな感覚は知らない。
チリッ・・・チリッ・・・という、このなんとも言えないむず痒さ。思わず足を擦ったり、手の指を開いたり閉じたりしてしまう・・・・

「良い具合だ」
急にすぐ耳のそばで声がした。目をグリッと動かして足元のお爺さんを見る。おや、弟がいない。とするとどうやらこれは弟が言ったのでは
ないらしい。慌てて兄の方を見上げると、兄は嬉しそうに口の端を上げて木箱をカチャカチャいじっていた。

兄は次にこげ茶色に煤けた木の耳かきを出した。かなり年季が入っているようだ。見ると柄の部分は微妙にくねっていて、まるで女性の身体
のラインのような美しい弧を描いている。お爺さんはその耳かきを軽く消毒液を浸した布で擦って、私の耳にサッと差し入れた。

  ザグッ!!!

・・・・・サクサクサクサク・・・・サクサク・・・・サックサックサックサック・・・・
・・・・・きもちいい・・・・痒い場所は相変わらずなのだがそれでも微妙な刺激が背筋を撫でるように行き来するではないか。

・・・・・サクッ・・・・・ファサ・・・・・

兄はそうっと耳かきを取り出した。

「は・・・?」
そこには、山があった。匙からこんもりと盛れるだけ盛った山。マウンテン。耳垢の山。
「え。え・・・これ・・・」驚きで言葉が一瞬出なかった。山の見た目はふかふかした素材でできた雲のようである。お爺さんはパッとテ
ィッシュの上に匙をひっくり返して耳垢を落とすと、さらにまた差し入れた。
サクサクサク・・・・サクサクサク・・・・・
そして出た耳垢はまた山もりである。それが三回くらい続いただろうか。三回目には少し色も白から黄身がかった色になり、雲のような質感
からみっちりした、水分のあるような濃密な重さに変わったのだった。


155 :耳かきシーンあり:2007/08/21(火) 17:42:23 ID:R2gtUDQL
「おくりもの」20


・・・・コリッ・・・

しばらくして硬い音に変わった。
・・・・カリカリカリカリ・・・・コリッ・・・コリカリカリコリ・・・・
耳の壁を細かい振動が舐めるように這うのが分かる。あぁ、ぁぁあ・・・痒みを、痒みをほじくっている。そこだと思う場所に必ず匙がやっ
てくる。少し痛気持ちいいくらいにしてくれる。丁度いい。あぁぁ・・・・・

ココココココ・・・・コココココ・・・・

・・・・指の先まで痺れるような快感がやってきた。耳かきの匙で叩くように壁がこそがれている。硬い耳垢を匙がコリカリコリカリしつこ
く追いかけるのだ。もうその快感たるや・・・・・
スッと匙を取り出すと、先ほどの耳垢山とは打って変わり、山吹色に変色しかかったポロポロの耳垢がゴッソリ。文字通りゴッソリ・・・・

お爺さんはそれから匙を変えることもなく、私の耳に器用に手首を返しながら耳かきを入れ、コリコリコリカリッ・・・・コリコリカリコリ
ッ・・・・と小気味いい音をさせながらほじくっていく。

もう力が入らなかった。頭の重ささえ支えられないのだ。深い海でじっとじっと沈んで、お爺さんの耳かきに翻弄されているだけの存在であ
るようだ・・・気持ちよすぎて自然に口が開く。閉じられないのだ。涎さえ垂れかねないこの快感の中で私は、もう恥じらいとか、理性など
は全く用をなさないと自覚した。


どれぐらい経っただろうか。ペリペリペリッ・・・・という何かをめくる音と共に、ズルッ・・・・・と何かが出てきた。

見ると薄いライスペーパーのような半透明の膜が・・・それは耳の穴の形に輪を作って、ぴかぴかでコロッと可愛く丸まっていた・・・

「わぁ、いいなぁ、こりゃいいぞ」
弟がいつの間にかまた座っていてはしゃいだ声を上げた。私も我に帰って、じっとそれを眺めた。すごい、お宝だ。かなり耳の奥にあったのだろう、しっとりしたつややかな外見はつきたての餅みたいに見える。


156 :耳かきシーンあり:2007/08/21(火) 17:47:27 ID:R2gtUDQL
「おくりもの」21

「わぁ、すごーい!!やったぁ!」私は思わず喜びの声を上げた。
兄は私の歓喜の声にも動じず、今度は梵天と呼ばれるふわっふわの毛の付いた棒で仕上げに入った。微妙に改良しているのか、刺繍糸よりさ
らに細い糸で耳の先端まで入るように形を整えられている。手入れがいいのだろう、毛はわき立つような白だ。


ザワワワ・・・・・ゾー・・・ザワザワ・・・・・ゾーッ・・・・・

「あぁ・・・・頭の中が気持ちいい・・・・」
やわらかい風の中にいるようだ。


ザーッ・・・・・ゾワワ・・・・・・ザー・・・・・


「子供みたいな顔をしとるんだろう。さっきまで眉間にしわが寄ってから、せっかくの美人が台無しじゃったぞ」
弟は目が見えないくせにそんなことを言った。でも見えない人にも分かるくらい、今の私の声は穏やかなのかもしれない。兄はまた梵天をく
るくると回し、その度水鳥の羽が、私の皮膚を柔らかな風になってさらってしまうような感覚に酔いしれた。

弟が言った。
「子供の頃な、母親の膝で耳かきされる時間が大好きじゃった。昼も夜も母ちゃんは働いとって忙しくてなぁ。ちっともじっとしとらん。兄
貴の他に妹が三人おったからいつも母ちゃんの取り合いをしとった。耳かきの時だけよ、独り占めできるのは・・・」

そういえば私も小さい頃よく母親に耳かきをしてもらった。暖かくて柔らかい膝の感触が大好きで、普段いつもいない母に甘えていたくて、
耳かきが終わってもなかなか膝から離れなかったのを覚えている。母からはふんわり優しい香りがして、私はずっと一緒にいたくてそのまま
寝たふりをする。母は仕方ないわねと言いながら、私を抱いて布団まで連れて行ってくれた。布団で薄目をしていたら、夏はよくうちわで風
を送ってくれていた。あの頃の私にとって、耳かきはいつも幸福感に満ちていた・・・


157 :夢花火:2007/08/21(火) 17:55:28 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」22


兄はもう片方も同じやり方で丁寧にやってくれた。私の耳はとてもやりやすいらしい。最初は無口だと思ったが、話しかけると兄は結構喋っ
た。主に耳のことについてだけだったが。そして最後、塵のような細かい耳垢も梵天でさっぱりとさらうと、私の耳かきを終了した。
私は素直に感動していた。こんなにすごい耳かきがあったとは・・・世界は広い、お爺さんの技術がどれほど高レベルなのかは、比べようが
ないのでよく分からない。だが私は耳がすっきり爽快になる度に、気持ちまで軽くなっているのを確かに感じたのだ。


翌日である。お爺さんの耳かきに感動した私は、一度はホテルに戻り帰国の準備を終え、すぐ飛行機に乗ろうかとも思った。しかしロン
にも会っていなかったのと、意外にホテルからお爺さんの店が近かったこともあり、再び店を訪れたのだ。店は賑わっていた。すると私は次々
にやってくるお客さんの耳かきを見たくなり、結局お爺さんたちにへばりついて存分に技を堪能してしまった。気がついたら夜だった。そし
て結局一泊してしまったのだ。兄は一人一人全て違ったやり方で耳かきを施した。耳毛のすごい人には油絵のへらのような小さいかみそりで
ジョリジョリ剃ったりもしていた。華麗な手さばきに私はいつしか引き込まれ、時間の感覚をすっかりなくしてしまったのだった。


お爺さん達とロンとの暮らしは穏やかで、私も一緒に居て楽しかった。家事を手伝ったり、皆で簡単なゲームをしたりもした。ロンに私の純
子という名前を教えると、純、純と姉のように親しげに呼んでくれた。中国語と台湾語は微妙に違っていて、お爺さんとロン以外の人の言葉
はさっぱりだったが、(私が飲み屋で道を聞こうとして言った『隅俸一下』は発音の違いでキスしていい?となるらしい。御爺さん達に言う
と爆笑していた)三人とも日本語が達者なので全く不自由しなかった。生活様式や文化がまるで違うのに言葉は通じる。これはやけに心地よ
い空間だった。私は本当に来て良かったと思っていた。ちょっと浮かれていたのかもしれない。もうこのままここで暮らしてもいいかなぁ、
とバカな事を考えるくらいには。


158 :夢花火:2007/08/21(火) 17:59:52 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」23


時間は過ぎる。これ以上は迷惑だし、さすがに帰らなければならなかった。私はお爺さんにお別れしようと、弟に話しかけた。すると弟は
なんだか浮かない様子でぼんやり窓際に座ってタバコをふかしてる。聞けばロンが最近あまり客をとらないらしい。実践で技術を上げるの
が一番だそうだが、ここのところどうもおかしいのだと。

 「近頃の若いのは悩みが多いのかねぇ。何か知らんが塞いでいる。口に出せばいいものを足りん頭で色々ややこしくしおって全く」
弟はそう言いと棚にあった綺麗な缶を空け、小さい子供にやるように私の手のひらにそっとキャンディーをのせた。私も子供のように歯でカ
チャカチャ音を鳴らしてなめた。



 ロンは机に座って勉強をしていた。大きな辞書を引いて英語の宿題をしているらしいのだがさっきから手が止まっている。何か考え事をし
ているらしい。私に気がつくと、いたの、と笑いかけた。そして急に体ごとこちらに向き直ると、純は東京から来たの?と聞くのでそうよ、
と答えるとロンはものすごい笑顔になった。

「サエコを知っている?」
「サエコ?誰?芸能人?」
ロンは違う、木村サエコ、と言ってタンスの引き出しから写真を取り出した。撮影場所はこの部屋だろうか、髪の長い、可愛い女の子が笑顔
で写っている。
「去年の春に来てたんだ、東京から」
ロンはそう言うと写真を大事そうに両手にとって眺めた。それは本当に、大切なものを壊さないように包むような触り方だった。

「知るわけないじゃない。東京ったって広いんだから」
私が呆れて言うと、ロンは「そう・・・」と呟いてみるみる間にしょげ返りうなだれて外に出て行ってしまった。写真の彼女はとてもかわい
くて若く見える。もしかして出会った時に言っていた知り合いというのはこの子のことだろうか。どう見ても十代だろう。一体この顔のどこ
を私と間違えたというのか。全くかすりもしていない。

ロンを探しに行くと家の前の石段に背を向けて座っていた。Tシャツの中でしなやかな背中が丸くなり、悲しんでいるのがわかる。それを見
て私は分かりやすい子だなぁ、と思った。歳の割りにものすごく子供なのだ。

「ねぇ、彼女だったの?」
「・・・お父さんの転勤で来ていたんだ。サエコは高校だったけど。友達になってしばらくして付き合った。最初は帰国しても手紙をくれた
のに、今は連絡がないんだ。手紙の返事がこない。どうしているのか分からない」

「さようなら、ってことでしょ。分かるじゃないそれくらい」
ロンはがばっとこちらに顔を上げるとムキになったように「でも最後の手紙にまた会いたいって書いていた」と言った。

「それっていつの手紙?」
「一年くらい前」

「え、そんなに前なの?どれくらい付き合ってたの?」
「二ヶ月くらい」


159 :夢花火:2007/08/21(火) 18:01:25 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」24


「そんなに好きだったの?」
私は真似してロンの隣に腰掛け、顔を覗きこんだ。自分からさっき舐めた薄荷のキャンディーがふわりと香った。夕方が近づいて店が空く時
間なのだろう。通りが騒がしくなり始めている。

「好きだよ。今も」ポツリとロンは言って膝を抱え、下を向いた。そんなに落ち込まれるとさっきさよならされたと言ったことがいたずらに
彼を傷つけたような気がして、私はだんだん可哀想になってきた。たった二ヶ月付き合ったこと、それが彼くらいの男の子にとって短いのか
長いのか私には分からない。一年以上気持ちを持ち続け、まだ彼女を待っている・・・どうしてなんだろう。彼くらいの頃、中学年くらいの
頃、私はどんな子供だったっけ・・・ 

「まぁ・・・そのうち来るかもしれないし、君もいつまでもくよくよしないで、ちゃんと修行しなさいよ。プロになるんでしょう」
私がそう言うとロンは「くよくよなんかしてない」と言って立ち上がりそのまま通りに歩いて行った。その日ロンは帰ってこなかった。その
日はおじいさん達と私の三人で夕ご飯を食べた。私はこのままではなんとなく帰れないような気がして、もう一日泊まることにした。



160 :夢花火:2007/08/21(火) 18:02:47 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」25


あれだけで傷つく人がいる。彼が帰ってこないのは明らかに私のせいだったが、私はお爺さん達に彼を傷つけるつもりはなかったと言い切れ
なかった。純粋な気持ちを持っている人を見ると傷つけばいいのにと思う。早く世の中はそんなにいいもんじゃないと思い知ればいいのにと
思う。人の気持ちは移ろいやすくて、永遠に変わらない愛なんてないと気がつけばいいのに。そして腹を立てなさい。踏みつけられた自分の
愚かさを恨みなさい。そこから強くなりなさい。世の中で自分ひとりしか信じられるものなんてないと今の私は知っているし、もっと早く知
っていたら、こんな最悪の方法で傷つくことなんてなかったのだから。

 なんだか寝付けなくて、リビングに行くとお爺さん達がまだ起きていて並んでお茶を飲んでいた。

「ロンを待っているの?」
「まぁね。あとちょっとしたら寝る」
弟はそう言って私にお茶を入れてくれた。震える手で、ものすごい高さから注ぐので器にはほんのちょっとしか残らない。

「・・・私がサエコはもう来ないみたいな事言ったから。傷つけてしまって」

「いいや・・・普段からいろいろ思うことがあったんだろう」
と静かに兄が言った。弟も頷いてから言った。

「ロンの家族はここから遠く離れた高雄にいてな。12になってから預かったが最初はもう手のつけられん悪ガキ。頭はええんだが口が達者
で人の揚げ足はとるわ、妙にひねくれとって悪知恵の働く嫌なガキだった。よういろんなもんをちょろまかされて困ったもんだ。今でこそこ
こは都会に思われるが貧しい家も多い。見てのとおりうちも貧乏だしな。ロンの家も貧乏で、小さい頃からいろんな家に預けられていたから、
減らず口は大人とやりあう為に身につけた生きる知恵みたいなもんだったんだろう。こっちに来てからはあまり仲の良い友達もおらんようだ
し、大人とおる方が楽しいと言って心配しとったんだが、サエコと友達になってからは変わった。本当の自信がついたんか優しくなって、友
達もできるようになった」 

ジー・・・ジー・・・

網戸の外で、夏の虫が鳴いている。天井の蛍光灯に小さい蛾がぶつかってパチンと音を立てた。


161 :夢花火:2007/08/21(火) 18:06:12 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」26


「でもあの女子はもうここには来ないだろう。どこかで気がつかないといけなかった」
「心配するな。ロンはしっかりしとる。大丈夫」
二人は口々に言った。そして同時にお茶を飲んだ。

 サエコを待っているのには訳があって、サエコが自分を忘れていないと信じることが今の彼の支えなのかも知れなかった。
嫌な大人だ、私はいつからこうなったんだろう。誰かに無責任な、その場しのぎの声を掛ける奴だったろうか。言葉っ面しか読み取れない、
深読みするのは自分に向けられた言葉だけのいやらしい大人・・・

私が思いつめたような顔をしていたのだろう。お爺さんは、眠れないなら、わしらの話でも聞くか?と言った。私はこっくり頷いた。


「わしらは九つの時に一緒に台北に出た。家族と離れてよ。それから今まで、ただの一回もどうやって生きて行くかなんてゆっくり考える暇
なんかなかったよ。働いて金をためて、奉公先の娘と結婚さしてもらえる約束だったさ。わしの相手は美人だったねぇ。でも何がどうなるか
分からん。その間に戦争があって、兄貴は日本の兵隊にとられた。日本語は公用語にされてな。わしは目のおかげで戦争に行かずに済んだが、
それでも残った片目で地獄を見たよ。戦争は長かった。やっと戦争が終わったと思ったら今度は中国から国民党軍がやってきた。略奪・暴行、
むちゃくちゃな時代よ。長い混乱の時代のうちに、私らの持ち物はなにもかにも無くなった。家族も、家も、村も。その間兄貴はずっと見つ
からんかった。わしは身が半分切られてしまったような気がしていた。双子というのは紛れもない分身だ。長い間落ち込んだね。皆、もう兄
貴はおらんから、しっかり生きろと言った。でもわしは不思議と兄貴が生きている、くたばってはおらん、そういう希望を捨てられんかった。
捨てたら生きる目的がなくなって、もう全部に負けてしまう。また会える、片割れのわしが死なん限り、兄貴は生きている。そう信じてな」

弟はそこまで一気に言うと、テーブルのぶどうを房からもぎ取って口に入れた。そんな話を聞きながら見た瑞々しいぶどうは、命そのものの
ようだと思った。

「ある時、わしは出先で滅多に歩かん通りを歩いとった。夕日のきれいな時間じゃった。そうしたら男に呼び止められた。耳を掻いてくれ、
耳を掻いてくれ、と言う。そうよ、兄貴は生きとった。戦争が終わってもずっと中国におったが、わしと会う本当にちょっと前から台北に戻
って便利屋をしとった。その中で耳かきをやったりもしとった。また兄貴に会えたとき、嬉しかったねぇ。本当に飛び上がった。嬉しかった。
命取られて死んだと思ったのに、それでも生きていて、こうして巡りあった。わしは奇跡を信じるよ」


162 :夢花火:2007/08/21(火) 18:07:21 ID:R2gtUDQL
「おくりもの」27

静かだった。みんな黙っていた。しばらくして、お爺さん達はもう寝ると言って立ち上がった。器を片付けるのを手伝っていると、兄が私の
頭をそっと撫でて言った。

「素直ないい耳をしとる」

「何かいっこでもいい、間違っていてもいい、信じる気持ち。これが持てたらびっくりするほどうまくいく」
弟が言った。お爺さん達はそのまま寝室に入っていった。





自分は本当に不幸だっただろうか?私以上の苦しみを誰も経験していないと思っていたんじゃないか。私は傲慢で愛に飢えていただけじゃな
いか。
「だいじょうぶだよ」そう言われたような気がした。
 ・・・最後に実家に帰ったのはいつだったっけ・・・


程なくしてロンがふらっと帰ってきた。ごめんねと言うと、ロンは大丈夫、と言ってにっこり笑った。


163 :夢花火:2007/08/21(火) 18:09:57 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」28

 
私はここから去ることにした。長く寄り道したような気もするし、まだここで面白いことを見つけたいという気も強くする。でも私の居場
所は日本にある。会いたい人も、母も、みんな日本に。
ここにくれば、何か見つかると思っていた。私は自立した女になるという意味を、どこかで間違えていたのかもしれない。今はなんだか無性
に母に会いたかった。

帰る事を告げるとお爺さん達はものすごく残念そうな顔をした。特に弟は何度も手をさすって放そうとしない。しばらく話してようやく納得
してもらった。一方の兄は頷いただけで、私と握手すると引き出しから例の木箱より一回り小さい箱を出してきて、私に持たせてくれた。中
には美しい曲線の耳かきが一本入っていた・・・

ロンがバス停まで送ってくれると言うので私はまたあの恐怖のスクーターに乗って彼につかまった。例のごとく抜群の不安定さとのハイスピ
ードに振り落とされそうになり、きつく腰に手を回すと自然と体が背中にくっつく格好になる。彼の背中の体温がじんわり頬に乗り移り、汗
とほのかに太陽の香りがした。

「純は痩せぎすだね」運転しながらロンは少し首をこちらに向けて言った。

「痩せぎす?あなた今時そんな古い言い方しないわよ普通。それに、そんな失礼なこと言ったら女を怒らせるから気をつけなさい。スマートとか、スレンダーとか言うのよ」私は少しムッとして言い返した。

「僕はもうちょっと太ったほうが好きだな」
「あんたの好みなんか知らないわよ」

「また来るかい?」
「さぁね。分からないわ。帰ったら忙しくなるし」
雨が降ったのだろう。道路は、まだ太陽の熱が追いつけなくてきらきらしている。細い裏路地を抜けると大通りになっていて、さわやかな風
に髪が乱れた。

「もうこっちに住めばいいのに。仕事だってすぐ見つかる」
ロンはそろそろ目的地なのか徐々にスピードを落としていき、スクーターは隣を走る自転車とそう変わらないくらいになった。

「なぁによ、私にそんな事言っちゃって。サエコはいいの、サエコは」
「サエコは・・・もういいんだ。もう来ないよ。やっと分かった」

ロンはエンジンを切ってスクーターから降りると、向き直ってじっと私の目を見つめた。両手で肩を抱こうとする。どんどん顔が近づいた。驚くほど綺麗な目だった。 


164 :夢花火:2007/08/21(火) 18:11:15 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」29


「何よ、私と付き合うの?言っとくけど私の歳はあんたと二倍も違うんだからね」

私は笑ってなんでもないような振りをしてロンの手をどけた。代わりにそっと優しい握手をする。その手は大きくて、お爺さんたちそっくり
に長い指だった。
「遠くにいてもお互いがんばろうね」と言うと、ロンはそうだね、と言って静かにうなずいた。 

いいタイミングにバスがやって来た。私はロンからバッグを受け取り、もう一度握手をした。今度は強く。

「こういうとき再見って台湾でも言う?」

「いや、ここじゃ言わないよ。我甲意?って言うんだ」

ロンはそう言うと、握手した私の片手をグッと引っ張って軽く抱擁した。私はバスに乗り込んで手を振った。ロンも手を振った。静かにバスは発車した。


165 :夢花火:2007/08/21(火) 18:12:57 ID:R2gtUDQL

「おくりもの」最終話


・・・バッグと共に返ってきた本で早速調べると「我甲意?」って言葉は「我愛?」とほぼ一緒の意味だった。十五の少年に十代に間違われ、
その上愛の告白までされて。ガキの癖にやることがクサイんだ。でも・・・・・・私にだってこういう事があってもいいじゃないか。いや、
この先だってもっといろんなことが待っている。だってその証拠に、私の耳はいい耳なのだから。お爺さん、それだけでもう私は特別なんだ
よね。



さよなら、台湾。帰ったら人生をもう一度やろう。何度でもしてやろう。泣いて笑って毒ついて傷ついて信じて愛そう。自分の時計をしっかり進めよう。きっともうじっとなんかしていられないから。

私は大きく息を吸った。揺れるバスの中で、鞄の中の箱はいつまでもカタカタ鳴っていた。

 

                          完


166 :夢花火:2007/08/21(火) 18:22:41 ID:R2gtUDQL

(言い訳)自分台湾旅行とかしたことないし言葉なんか全くの不知・・・ご存知の方はそのへんの色々な間違いはどうかご勘弁を・・・


・ ・・こんなんでした。≫55さん、そして長らく待ってくださった方ありがとう(;∀;)
・・リクエストに答えられず・・・力及ばず・・・orz
ではまたすぐ投下するかしばらく消えるか分かりませんがこれにてさいなら!もう逃げます(;´Д⊂)

リクエストはあれば・・・・随時受け付け中。今度はもっと短く軽く仕上げますので!

そして>>144さん、自分がスレ引っ張ってて書き込めなかったですよねヽ(´Д`;)ノアゥア...
本当にごめんなさいつД`)
書いてください!待ってます!


167 :癒されたい名無しさん:2007/08/21(火) 19:34:01 ID:Qgmv9oen
花火タン乙!!
よかったよ〜ほんまによかったよ〜!
毎度ながら文章力が素晴らしいですよ
いいもんをありがとう
また連載形式でもいいから書いてほしいなぁ

168 :癒されたい名無しさん:2007/08/21(火) 21:22:36 ID:gUbS8Hzx
夢花火さん、超大作お疲れ様でした。かなり感動し
また耳が痒くなりました、これほどの大作は久しぶりで
またストーリーとしても良く出来て凄まじいまでの文章力に
感服しました。本当にありがとうございました。

169 :癒されたい名無しさん:2007/08/21(火) 23:53:58 ID:73mcyKR1
>>55です。
夢花火さん本当にどうもありがとう。大感謝です。

情景描写とかあまりにリアルだったので実際行ったことあるのかと思ってましたよ・・・
すごいです、本当に。
おじいさんに耳かきをしてもらいたくなりました。

いいスレだなぁ〜〜

170 :癒されたい名無しさん:2007/08/22(水) 09:18:01 ID:KzPe4rNe
乙でした、マジに癒されましたよ。
ああ、幸せだ〜

171 :癒されたい名無しさん:2007/08/23(木) 18:54:20 ID:M8dnviSO
スゲーなぁ…
本物の作家さんじゃないのがまたこれ

172 :癒されたい名無しさん:2007/08/23(木) 20:44:22 ID:sK/QyKNh
癒された。
それにすごいキュンキュンしたw
すごいな〜夢花火さん。

173 :癒されたい名無しさん:2007/08/25(土) 02:25:08 ID:Pd5YcsTj
すげーーーーマジですごいわ。
耳掻き部分意外もすごかった。
なんか純子と立場が似てるので泣けてしまった。

174 :癒されたい名無しさん:2007/08/28(火) 20:55:06 ID:DUNtUc3N
>>173
大丈夫か。・゚・(ノД`)ヽ(;Д; )


>>144さん待ち

175 :癒されたい名無しさん :2007/08/31(金) 14:53:51 ID:/MnGiEJa
なんたる良スレ

176 :癒されたい名無しさん:2007/09/18(火) 20:51:16 ID:PnGgfMWl
ほしゅ

177 :癒されたい名無しさん:2007/09/20(木) 10:31:33 ID:syNWlgKc
次の小説を楽しみに待つ俺

178 :癒されたい名無しさん:2007/09/23(日) 16:51:10 ID:/I8HKeDR
日本初の耳かき専門チェーン 耳つぼマッサージあり
http://news.ameba.jp/hl/2007/09/7270.php

179 :夢花火:2007/09/26(水) 13:44:11 ID:f6vbxAaM
久々に来てみたら人いなくなってた(;´Д`)
自分専用スレではないことは理解してるんですが
どうも寂しいこのスレ(´・ω:;.:...
とりあえず小説投下しまっす
不定期連載&耳掻き無関係
(他の作者様へ)
連載中でもガシガシ書き込んでください



180 :夢花火:2007/09/26(水) 13:52:58 ID:f6vbxAaM

「虹の犬」


 ぼくの家では今大変な事件が起きている。
ぼくが6歳の時おじいちゃんにもらったコロンの足から人の指そっくりの
「できもの」が生えてきたんだ。

「コロンは病気だからお医者に見てもらうんだよ」
「すぐに元気になって帰ってくるわ」
お父さんもお母さんもそう言うけどそれは嘘だってお兄ちゃんが言ってた。
「コロンは殺されるんだぜ。あんな足した奴気持ち悪ぃ。研究材料にされ
て最後は死ぬんだ」

 昨日の家族会議でぼくは泣いて反対したけど、コロンは今日ぼくが学校
に行っている間に偉い獣医さんのいるところに連れて行かれてしまった。
ぼくの足元に昨日コロンと遊んだボールがまだ転がっていて、なんだか
前より庭が広く見えた。

「おじいちゃんがいたらなぁ・・・」
おじいちゃんは肺の病気で去年の冬からずっと病院に入院している。
コロンは前おじいちゃん家にいて大事にされてたんだけど、しばらく家に
帰れなくて世話ができないからってぼくがもらったんだ。コロンはものすご
くおじいちゃんになついていたから、ぼくの家に来ても最初は元気がなくて、
夜はさみしそうに鳴いていたっけ。



「良太、塾の時間じゃない。仕度なさい」
 お母さんはいつもと全然変わらないようにぼくに話しかける。
でもぼくには分かる。なんだか嬉しそうなんだ。
コロンがいなくなってせいせいしてるって感じ。
まだ連れて行かないって約束したのに・・・お母さんなんか大嫌いだ・・・!

「うるさい。塾なんか知らない!」
 ぼくは家から飛び出した。良太!待ちなさい!ってお母さんが叫んでいる。
知るもんか。お母さんが悪いんだ。ぼくは塾へ行く道と反対に走った。
お母さんはこれからすぐ近所のスーパーでパートの時間だ。すぐに追いか
けてこられない。お兄ちゃんは野球の練習でいないし、お父さんはどうせ
今日も遅いに決まってる。ぼくはおじいちゃんの病院に行ってみることにした。


181 :夢花火:2007/09/26(水) 13:59:20 ID:f6vbxAaM

「虹の犬」2


「コロンはオスなの?メスなの?」
「さあなぁ、分からんなぁ」
「じゃあさ、コロンは何歳なの?」
「家の前に捨てられとったからなぁ。その時から大きかったし、よく分からん
なぁ」
「コロンってあんまりご飯を食べないんだけど大丈夫なのかな」
「餌は好きなときに食べるから心配せんでいいよ」
「コロンはあんまり寝ないんだけどそれも平気なの?」
「寝たいときに寝るからそれも心配せんでいいよ」

 おじいちゃんはコロンをぼくにくれる時、あんまり大した説明をしてくれな
かった。ぼくはコロンがおじいちゃんと一緒のところしか見たことがなかった
から、最初の頃コロンだけが家にいるのはなんだか変な感じだった。
 お父さんもお母さんも生き物を飼ったことがない人たちだからコロンをどう
扱っていいか分からなくて、お兄ちゃんもめんどうくさがりだからいつの間に
かぼくが世話をすることになってしまった。
 けどぼくはコロンが好きだったから全然迷惑なんかじゃなかったし、むしろ
嬉しかった。弟が欲しかったしね。
 でもコロンは大きいから弟って感じじゃなかったけど。


 病院につくとおじいちゃんはご飯の時間だったのか、まだ全然食べてないお
盆がベッドの上のテーブルにのっていた。

「良太、久しぶりじゃなぁ」
なんだかおじいちゃんは前より小さくなったみたいだ。顔色も前来たときより
悪いみたい。ぼくが黙ってベッドの横に立っていたら、おばさんの看護婦さん
がやってきた。
「石田さん、食べてないじゃないですか。頑張って食べないといけませんよ」
おばさんは少し恐い顔をした。おじいさんが「食欲がなくてねぇ」と言うとお
ばさんは困ったようにため息をついてどこかに行ってしまった。
「おじいちゃん食べないの?」とぼくが聞くとおじいちゃんは「これ、不味く
てなぁ」と言って少し笑った。 

 コロンのことを話したら、おじいちゃんはそうか、と言っただけだった。
「お兄ちゃんが殺されるって言うんだ。そんなことないよね?大丈夫だよね?」
ぼくは不安でおじいちゃんに抱きついた。おじいちゃんの体から、少し消毒の
匂いがした。

「あぁ、大丈夫じゃよ。コロンは無事じゃよ。良太は何も心配しなくていい」
おじいちゃんはぼくの背中をぽんぽんっと叩いて、いい子だ、と言って笑った。
 ぼくはおじいちゃんがそう言ってくれたからとっても安心したんだ。
おじいちゃんは嘘を言わない。
 コロンが無事に帰ってきたらお兄ちゃんをギャフンといわせなくちゃ。


182 :癒されたい名無しさん:2007/09/26(水) 14:07:41 ID:BQo0p1CL
久々にキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

183 :癒されたい名無しさん:2007/09/26(水) 14:10:35 ID:TBS+tb0v
待ってたよ!

184 :夢花火:2007/09/26(水) 14:20:40 ID:f6vbxAaM

「虹の犬」3


 家の玄関を開けたら珍しくお父さんの靴があった。僕は焦った。
これはまずいぞ、塾をサボったんだから大目玉だ。お母さんはいくら怒っても
口で注意するけどお父さんは容赦なく殴る。今日は帰ったらソッコウで部屋に
こもって勉強してるふりをする計画だったんだ。しばらくしたらお母さんが
ドアをノックして、良ちゃん夕飯食べないの?って聞いてくれるんだから。

 ぼくはそっと運動靴を脱いだ。でもどうしてお父さんがこんなに早くに家に
いるんだろう。これ以上叱られないようにしゃがんで、両方の靴をちゃんと揃
えて気がついた。
 ひとり暮らしをしていて滅多に家に帰らないおねぇちゃんの靴があった。


「ただいま」
リビングに僕が声をかけても、誰の返事もなかった。中で人の気配はするのに
家中が押し黙っている妙な緊迫感。もしかして本格的にやばい状況なのかな。
家じゃあ何かあったときぼくを仲間はずれにしてみんなでこそこそやる。
あれって我慢ならない。
 意を決してドアを開けると、おねぇちゃんとお父さんが向かい合って座って
いた。

「どういうことか説明しなさい」

お父さんの声が震えている。ぼくがどうしたの?と聞こうとしたとき、パート
に行ったはずのお母さんが強引に腕を掴んだ。そしてそのまま台所に連れて行
かれた。そのまま二階の部屋に入れられて、「勉強しなさい」とだけ言って
お母さんはまた下に降りていってしまった。
 ぼくは叱られなかったことにほっとした。だけど、なんだか変だ。
 おねぇちゃんが何かしたのかもしれない。ドアを開けて聞き耳を立てたけど
何も聞こえない。それに階段の下にはお母さんがいるのが見えたから、ぼくは
しょうがなく机に座って宿題をすることにした。 


 それからしばらくしてお兄ちゃんが帰ってきて夕飯になったんだけどお父さん
もお母さんも全然喋らなかった。おねぇちゃんはいつの間に帰ったのかいない。
お兄ちゃんはお父さんとお母さんがいると無口だから気にならないけど、いつも
うるさいお母さんが静かだから調子が狂う。みんな言葉なんて知らないみたいに
黙って食べていた。僕も黙っていた。なんだか喋ったら塾のことでお父さんに
叱られそうだったし。



185 :夢花火:2007/09/26(水) 14:27:54 ID:f6vbxAaM
 
「虹の犬」4


 その晩寝るときになって珍しくお兄ちゃんがぼくの部屋にやってきた。

「姉貴が大変なことになったんだぜ」
「えっ?どうしたのおねぇちゃん」
お兄ちゃんはぼくのベッドに腰掛けると枕を手に持ってくるくる回した。

「子供ができたんだ」
「えっ?子供?」
赤ちゃんができたって?おねぇちゃんに?ぼくはびっくりして固まってしまった。
だってあんまり急だもの。
 ぼくがびっくりしすぎて黙っていたら、お兄ちゃんはニヤニヤして言った。

「お前、子供がどうやって出来るか知らないだろ」
いやらしいことを言うときの目だ。お兄ちゃんはこういう目をしているときは変
なことしか言わない。

「まぁ姉貴も女だからなぁ。でも退学ってまずいよな」
退学?おねぇちゃんはこの春大学に合格したばっかりだ。
偏差値の高い大学だってお父さんもお母さんも親戚にすごく自慢していた。
でも最初の年に受からなかったから次の一年間にものすごい猛勉強して受かった
んだ。浪人って言うんだって。

「学校をやめちゃうってこと?」
ぼくが聞くとお兄ちゃんはニヤニヤ笑いを止めて言った。
「親父やお袋が辞めさせる訳ないさ、あの大学は一浪でも入れる奴ばかりじゃな
いんだぞ。姉貴はバカだよ全く」



 その夜はなかなか眠れなかった。コロンがいつ帰ってくるかお父さんに聞きた
かったけど、今日はおねぇちゃんの事で頭が混乱して聞けなかった。

 子供ができたって。じゃあ学校に行きながらお母さんになるんだろうか。
家に帰ってきたらぼくの部屋はおねぇちゃんの部屋に戻っちゃうな。
せっかく一人部屋ができたのに。ぼくはどこに寝たらいいんだろう。
またお兄ちゃんと一緒になるのかな。時々意地悪されるから嫌だなぁ・・・
  



 そのうちぼくは眠りに落ちて、コロンの夢をみた。

コロンは夢の中でぼくとボールで遊んでいた。高く投げたボールでも簡単にキャ
ッチする。
しばらく遊んだらコロンは公園に入っていった。
後を追って行くとそこには大きな木があって、コロンはその木の周りをぐるぐる
回り始めた。
コロンはぼくの目を見て何か言いたそうなんだけど、どうしたらいいのか分から
ない。
コロンは「クゥン・・・クゥン・・・」と鳴いてずっと木の周りを回っていた。



186 :夢花火:2007/09/26(水) 14:35:24 ID:f6vbxAaM
>>182-183
人いたぁあ!
アタヽ(д`ヽ彡ノ´д)ノフタ
どうもでっす…

でもこれだけしか書けてな(´・ω:;.:...

よければ気長にお付き合いください





187 :癒されたい名無しさん:2007/09/26(水) 14:39:46 ID:jfwmsnUg
>186
うんうん、待ってるから!

188 :癒されたい名無しさん:2007/09/26(水) 14:46:59 ID:Uu/ejjUo
きたああああああああああああああああああ
待ってるからねー

189 :癒されたい名無しさん:2007/09/26(水) 18:39:49 ID:M+mH5mIq
続き楽しみにしてるよノシ
このスレは毎日の巡回コースだww

190 :癒されたい名無しさん:2007/09/27(木) 09:28:20 ID:162EeTKC
>>186
小説を書くスキルが無いからROMばっかりだけど
いつもwktkしながら、このスレを覗いているんだぜ。

超応援してる!

191 :癒されたい名無しさん :2007/09/27(木) 19:18:53 ID:2o75q8AH
新作きたあああああああああああああ!!!


ゆっくりでいいからね
楽しみに待ってますよ

192 :癒されたい名無しさん:2007/09/28(金) 10:12:35 ID:P7JLr/tL
夢花火たんキタ――(゚∀゚)――!!
続き楽しみにしてるよ

193 :夢花火:2007/09/28(金) 15:16:14 ID:0AB3Gtpb
>>187-192
皆さんありがとぉお(´∀`)
んじゃちょこちょこ投下で参ります

194 :夢花火:2007/09/28(金) 15:17:08 ID:0AB3Gtpb

「虹の犬」5

次の日は土曜日で、学校は休みだった。休みの日は普段より寝坊しても誰か
らも文句は言われない。
普段ならお父さんは居間でコーヒーを飲みながら新聞を読んだりテレビを見た
りしているんだけど、今日はぼくが下に降りるとどこかに行くのか慌ただしく
出かける準備をしていた。
お母さんも滅多に着ないスーツを引っ張り出して鏡の前でお化粧をしている。

「良太、お父さんとお母さんは出かけるから、今日は外へ遊びに行っちゃ駄目よ」
「えぇ、どうして?」

どこへ行くんだろう、荷物も小さいし、お父さんと旅行って感じじゃない。
「帰りがいつになるか分からないから。扶美子おばちゃんに連絡しといたから
夜はおばちゃんとご飯食べなさい」
お母さんはそう言うと、お父さんを急かして出かけてしまった。
お兄ちゃんは朝から野球の試合でその後は夜まで塾、扶美子さんが来るまで
ぼく一人だ。ぼくは冷蔵庫に入っていたサンドイッチを食べて好きなアニメを
見た。ポテトチップもあったからお兄ちゃんに取られないうちに全部食べた。
それから漫画を読みながら寝そべっていたら、扶美子さんがやってきた。
ぼくへのおみやげだろう、手にコンビニの袋を提げている。

 扶美子さんはお母さんの妹だ。三十八歳になるのにまだ結婚していない。
けど顔は結構美人だと思う。男の子みたいに髪の毛が短くて背も小さい。
イラストレーターをしてるけど全然売れてないんだって。
「りょう、久しぶり。また背が伸びたね」
扶美子さんはぼくのことをりょうって呼ぶ。親戚の中でもりょうって呼ぶのは
扶美子さんだけだ。リョ―じゃなくて「りょう」。しゃきっとした感じ。
扶美子さんもはっきりしていてしゃきっとした人だ。扶美子さんは他の大人
みたいにぼくを子供扱いしない。たいていのぼくの質問にちゃんと答えてくれる。
嫌なものは嫌だと言うしわかりやすい。
男の友達みたいでそういうところ結構好きだ。


195 :夢花火:2007/09/28(金) 15:20:34 ID:0AB3Gtpb
  
 「虹の犬」6


 コロンに起きたことを説明したら、扶美子さんは「突然変異じゃないの」
と言った。
 コロンの遺伝子はもともとおかしなことになっていて、今になって「おでき」
が生える情報が脳に伝わってコロンの体に異変が起きているんじゃないかって。

「コロンは今ごろ、どっかの研究室にいるのかな」
「たぶんね。科学者なんか命の仕組みが知りたい人間ばっかりだから喜んで
るよ。ひとつの命の重さなんか関係ない。新しい発見のためなら平気でいじ
くり回す。そんなの何の意味もない、たいした意味もないかもしれないのにね」

 そう言って扶美子さんはおみやげのアイスを食べ始めた。
 ぼくがずっと前に美味しいと言ったレディーボーデンのバニラ。
扶美子さんはそういうのをちゃんと覚えていてくれる人。
 ぼくはコロンが科学者の人にお腹を切られてめちゃめちゃになっているのを
想像した。アイスを勧められたけど食欲なんて出なかった。
 さっき食べたポテトチップが喉まで出てきそう。

 コロンは死んじゃうのかな・・・

 扶美子さんに聞きたかった。だけど聞けなかった。
聞いたら扶美子さんは本当のことを言いそうで恐かったんだ。
 

 その夜遅くなってお父さんとお母さんが帰ってきた。おねぇちゃんはいない。
「良太、宿題したの?ならもう寝なさい」
 なんだかお母さんがげっそりやつれているような感じがする。
お父さんは苦虫を噛み潰したような顔をして乱暴にネクタイをほどいていた。
 話しかけたら怒鳴られそうな空気。

 お兄ちゃんは勉強しているのか、家に帰ってご飯を食べてからはずっと部屋に
閉じこもったきり。ぼくは仕方なく部屋に戻って寝ることにした。


196 :夢花火:2007/09/28(金) 15:24:50 ID:0AB3Gtpb
 
 「虹の犬」7


 コロンがいなくなって一週間が経った。
 その間にクラスでは席替えがあって、信じられないことにぼくは黒板の真ん
前になってしまった。
 少し顔を上げただけで担任の石井先生とばっちり目が合ってしまう。
石井先生は「よろしくね」と言って笑っていた。

 石井先生は若くって優しくて可愛い先生で、学校でも人気がある。だからぼく
も、そう言われてそんなに嫌な気はしなかった。
 席は最悪だけど。さらに最悪なのは、後ろがいじめっ子のヒロシだってこと。
 
 さらにもっと最悪なこと。なんだか家族がみんなおかしい。

 家の雰囲気が、前とすっかり変わっちゃったんだ。
 

 おねぇちゃんに赤ちゃんがいるのは本当みたいだった。ここのところ毎日、
お母さんはパートが終わるとすぐにおねぇちゃんのアパートまで説得に出かけ
ている。
 そしていつも一人で帰ってきては、夜遅くまでリビングでお父さんと
小声で喋っていた。
 お母さんはどんどんやつれたみたいになっていて、最近はずっと元気がなく
なってしまっていた。

 コロンのことを聞いても上の空なんだ。
 ご飯も最近はスーパーの出来合いのお惣菜ばかり。味が濃くて食べられたも
んじゃない。お兄ちゃんもぼくも、食事の度にうんざりしていた。


 そんな時、家に電話がかかってきた。K新薬研究センターというところからだ。
その時家にはぼく意外誰もいなかった。
 普段ならよくわからない電話は家の人は留守だって言って切っちゃうんだけ
ど、そのときはなんだか知らないけど予感がしたんだ。
 だから伝言しますって言って話を聞いた。

電話の男の人の声は、なんだかひんやり冷たい感じがした。



197 :癒されたい名無しさん:2007/10/01(月) 12:28:11 ID:03Yyny9M
支援

198 :癒されたい名無しさん:2007/10/01(月) 13:05:47 ID:jZHNupNb
わっふるわっふる!

199 :癒されたい名無しさん:2007/10/01(月) 23:00:22 ID:MOoFTESk
なんたる焦らしプレイ…(*´д`*)

200 :癒されたい名無しさん:2007/10/05(金) 07:08:18 ID:OOZcW8jH
まだ?

201 :癒されたい名無しさん:2007/10/05(金) 20:41:30 ID:DtU4k8LE
気長に待ちましょう

202 :夢花火:2007/10/06(土) 14:26:15 ID:hV2MXKJf

 「虹の犬」8

 例の「おでき」から珍しい遺伝子が見つかった。
細胞は特殊な装置で培養されているのだが、分裂速度が極端に遅くて研究がな
かなか進まない。
ところが、コロンのおできは切除してもまた新たに生えてくることが分かった。
コロンを母体にしてそれを採取したほうが効率がよい・・・

 言っていることの意味はよく分からなかったが、ぼくは一生懸命ノートにメ
モした。

最後に男の人は、電話番号を告げ、
「それなりの対価をお支払いいたしますので、ご連絡下さい」
と言って電話は切れた。


「たいか」「ばいよう」「さいしゅ」・・・・

 意味はよく分からないけど、コロンにただならない事態が起きていることだ
けは理解できる。

「どうしてるんだろう・・・コロン・・・」

 ぼくは不安でいてもたってもいられなくなった。
おじいちゃんか芙美子さんのところに行こう。そう思って廊下に続くドアを急
いで開けたその時、女の人が、玄関に立ってこちらを見ているのに気がついた。

 おねぇちゃんだった。


 テレビのニュースが、大型の台風が迫っていると伝えていた。

 ぼくはさっきから、じっとテレビの中の天気図を眺めつつ、横目でおねぇち
ゃんの様子を伺っている。
 おねぇちゃんはぼくから少し離れた椅子に座り、自分の手の甲を見て黙って
いた。
前会ったときより少し痩せている。顔色もあまりよくない。いつもきちんと
お化粧しているのに、今日はしてないみたいだ。
それに急いで出てきたのか、長い髪の毛も色んな方向にはねていた。

おねぇちゃんが喋らないので、ぼくはどうしていいのか分からなかった。
赤ちゃんの事を聞きたいけど、正直どう言ったらいいのか分からないんだ。
おねぇちゃんと話をするのはただでさえ苦手なのに・・・

一緒に住んでいた頃から、おねぇちゃんはぼくをうっとうしく思っているみ
たいなところがあった。

 理由は簡単。ぼくが、物覚えが悪くて幼稚でのろまだから。
ぼくは自分でも思うけどちょっとそういうところがある。
 話し方が遅いし、イライラさせるって言われるんだ。
最近は少しマシになってきたけど・・・

 とにかくそういう訳で、ぼくはおねぇちゃんを前に少しだけ緊張していた。


203 :夢花火:2007/10/06(土) 14:29:10 ID:hV2MXKJf
 
 「虹の犬」9
 時計を見ると、もうすぐお兄ちゃんが帰ってくる頃だった。
最近は早く暗くなるから、野球も遅くまでできないんだ。

 お母さんはまだ帰ってこなかった。冷蔵庫にはお母さんがパートに行く前に
作っておいた夕飯のコロッケとおにぎりが入っている。
いつもお母さんはパート帰りにおねぇちゃんの所に行くはずだから、今日は行
き違いになって困っているかもしれない。

一瞬、ぼくの頭に、お母さんの疲れて落ち窪んだ目が浮かんだ。



「あの人から聞いた?」
不意におねぇちゃんが口を開いた。
天気予報は終わって、テレビの画面はCMに変わっていた。

「あの人ってだれ?」
「母親」
ぶっきらぼうに言って、おねぇちゃんは足を組んだ。
おねぇちゃんはイライラすると足を組む癖がある。

「あかちゃんの話?」
おっかなびっくりしながらぼくが言うと、おねぇちゃんは少し驚いたような
顔で 「・・・何だ、良太も知ってたのか」 と言った。

「ほんと言うとお別れにきたんだ、良太と孝治に」

ぼくとお兄ちゃんにお別れって・・・どういうことだろう。

 ぼくが不思議そうな顔をしていたら、おねぇちゃんは優しい顔になって
「ずっと会えない訳じゃないよ」と言った。


あかちゃんのお父さんと二人で暮らすから家を出るんだと。お父さんもお母さ
んも反対しているけど、二人で力を合わせて頑張る。
しばらくは帰らないけど、二人でしっかり生活できるようになったら、
また会いに来る・・・


204 :夢花火:2007/10/06(土) 14:33:47 ID:hV2MXKJf
 
 「虹の犬」10 


「バカじゃないか。本物のバカだ。相手にしてらんねーよ」

 帰ってきたお兄ちゃんはその話を聞いて、立ったままで吐き捨てるように言った。

「あんたにはまだ分かんないわ、彼女の一人も出来たことなんかないくせに」

お兄ちゃんは一瞬言葉に詰まって、強張った表情でおねぇちゃんを睨んだ。
お兄ちゃんは普段、滅多に怒ったりしない。
ぼくはハラハラしながら二人のやり取りを見ていた。

「簡単にいくと思うなよ。そんなに簡単じゃない。どうやって育てるんだよ。
子供作る為にあんなに勉強してきたのかよ。どうしたんだよ。
急に色気付いてさ。気持ちわりーよ、似合わねぇよ」

「簡単じゃないのは、あんたに言われなくても私が一番分かってる。
父親も母親も、彼に申し訳ない、話も何も、頭から全然受け入れないんだから。
だから家を出るのよ。それしか、他にもうないんだから」

「何がもうないんだよ、自分勝手なこと言って、親の気持ち無視して、
人生棒に振ってばっかじゃねーの。それにそんなの、全然、ろくな男じゃねーよ。
その証拠に、一度だって家に来ないじゃないか」

 お兄ちゃんは鞄を乱暴に床に投げ、そのまま部屋から出て行ってしまった。
おねぇちゃんはしばらく黙って一点を見つめていたが、のろのろと立ち上がると、
ぼくが何か言おうとしている間に荷物を持って帰ってしまった。  


 しばらく何もない日が続いていた。
 相変わらずご飯はお惣菜ものが多いし、お母さんは疲れた顔をしながら、
毎日のようにおねぇちゃんの所に行っているみたいだった。
 相変わらずコロンのことは、ぼく以外誰も気にもかけていない。

 あんなに一緒に暮らしていたのに、家の人はみんな、もうずっと前からコロン
なんていなかったみたいに生活していた。
 あの日の変な電話のこと・・・お父さんとお母さんは何回聞いてもはっきり
答えてくれなくて、それでもしつこく聞いていたらしまいにはお父さんに
「それどころじゃない!」と怒鳴られてしまった。

 ぼくは正直、夜眠る前にいつもコロンの事を考えるんだけど、コロンの顔を
思い出せない事が増えていた。

 このままじゃ、いつかはぼくも忘れてしまうんじゃないか・・・
ぼくはその度に不安になった。


205 :夢花火:2007/10/06(土) 14:37:10 ID:hV2MXKJf

 「虹の犬」11


「森田ってほんとトロいよな」

ヒロシがさっきからぼくの机に手をついて、意地悪そうな目でぼくを見ている。
休み時間になるといつもこうだ。

「お前、さっきの算数のテスト、分かってないだろ」
「難しかったけど・・・この前塾でやったのもあったから・・・」

「塾とか言ってやんのー。『つばき会』って頭悪ぃ奴が行くんだぜ」
ヒロシは得意そうに言うと、だっせーと言って笑った。
ヒロシは塾に行っていない。家庭教師なんだって。

「でも楽しいよ、違う学校の子と友達になれるし」
ぼくがそう言うと、ヒロシは「ふん」と鼻を鳴らして「それがなんだよ」
と言って凄んでみせた。
ヒロシは丸坊主なので、恐い顔をしてもなんだか面白い顔になってしまう。

「次図工だよ、早く行こう」

その時、同じクラスの優璃ちゃんがぼくらに声を掛けた。
ぼくはこれ幸いとヒロシから逃れると、急いで図工の準備をして教室を飛び出
した。



「それでは、先週から作っている紙粘土の作品を完成させましょう」
石井先生がそういうと、みんな一斉に作業に取り掛かった。

 ぼくの班のテーマは「未来」。ぼくは絵の具で、未来の世界に色を乗せていく。
楽しかった紙粘土制作も今日でおしまいだ。
最後の仕上げに小さく作った人達の顔に色を塗るんだけど、注意しないと真っ
黒になってしまうから気が抜けない。

どんどん作業に集中していくのが自分でも分かる。
頭でイメージした色に近づけるのは結構大変だ。でもそれが不思議と気持ちいい。
ぼくはいつの間にか時間が経つのを忘れてしまっていた。


「はい、ちょっとみんな手を止めて」
先生の手を叩く音で、ぼくははっと我に返った。
頭の中がぽわんとしていて、一瞬ここがどこか理解できなかった。
目が乾いたみたいに少し痛い。
石井先生はつかつかとこちらに歩いてくると、ぼくの作品を手にとって、少し
高い台の上に載せ、みんなに見えるように掲げた。




206 :夢花火:2007/10/06(土) 14:41:48 ID:hV2MXKJf

 「虹の犬」12


「森田君、これはどんな作品なのかな」

先生はぼくの顔を覗き込んで尋ねる。ぼくは一斉にみんなの視線を受けて、
緊張で心臓が一気にバクバクするのが分かった。
どうしよう、こんなの慣れてない。ぼくがどうしたらいいか分からなくて戸惑
っていたら、先生が助け舟を出してくれた。

「ここにいる人は、みんな歌ったり踊ったりしてとても楽しそうね」
先生の指差したほうにみんなの視線が動く。

「・・・えっと、そうです。
未来の世界では、みんな楽しそうにしてるんじゃないかって・・・」

「上手〜」「すごーい」と誰かの声がする。
先生はにっこり笑ってさらに言った。
「とても生き生きしていて、本当に楽しそう」
「お花畑や、上には、これは大きいね。宇宙船かな」

「そうです。未来にはみんなに一台ずつ小さなカプセルがあって、それが合体
していくと大きな宇宙船になって、空を飛ぶんです。
それで、合体するたびにどんどん性能が上がっていって、だから、ひとりぼっち
でいるカプセルも、宇宙船が見つけて一緒に空に上げていくんです。
そうしたら世界中の人がどんどん集まって、たくさんの人が友達になります。
こういうイヤホンをつけて会話をするとみんな言葉が分かります。
それで仲良くなって、いろんな国のことを知って、そしたらまたカプセルに
なってその国に行ったりできます。
動物にも小さなカプセルがあって、動物の言葉も分かるし、鳥も花もみんな
言葉が分かるようになります。
宇宙船に乗ったら、道路もいらないから、地面に木や花をたくさん植えて、
上から花で絵を描いたりできます」

先生は「うんうん」と言ってにこにこしていた。 

 ぼくは一気に喋って、息が足りなくなって倒れそうになった。
いつもは早口で喋れないから、こんなにたくさんみんなの前で喋ったのは初め
てだった。
 先生は「凄い、そうなったら、素敵ね」と言ってくれた。

 ぼくの両方の耳が熱かった。心臓がゴトゴトいっていた。
みんなのほうを見上げると、優璃ちゃんと目が合った。
優璃ちゃんは胸の前で小さくピースをして微笑んでいた。



207 :夢花火:2007/10/06(土) 14:44:56 ID:hV2MXKJf
  
遅筆スマソ。・゚・(ノД`)・゚・。
完成まで結構時間頂くかと思います・・・

208 :癒されたい名無しさん :2007/10/06(土) 17:48:28 ID:hBbJnh1l
イイヨーイイヨー(・∀・)
ゆっくりで良いですよ
楽しみにしてます

209 :癒されたい名無しさん:2007/10/06(土) 19:52:05 ID:W7wjv3Tl
ムッハー(・∀・)=3オモシロイ
いつも楽しみにしてます!

210 :癒されたい名無しさん:2007/10/07(日) 00:10:33 ID:ek/Fy/ne
何度も味わいながら読むからゆっくりでちょうどいいです。
コロンがんがれと応援しながら読んでまつ。

211 :癒されたい名無しさん:2007/10/07(日) 20:35:49 ID:Qb8ir75r
夢花火たん!いつも楽しませてもらってます
また時間のあるときに投下してください

212 :癒されたい名無しさん:2007/10/09(火) 05:59:37 ID:W7YBIxwY
もう、耳かきとか関係なしに、コロンが気になるw
無事だといいなぁ

213 :夢花火:2007/10/10(水) 15:40:14 ID:HJi2et7o
 
 「虹の犬」13

 さらに信じられないことに、先生はみんなの前で、
「他のクラスのみんなにも見せてあげたいから、完成したらこの作品、中央の
展示コーナーに飾ってもいいかな」
と言った。

 展示コーナーは、上級生とぼくらの校舎を繋ぐ中央の踊場、学校のほとんど
の生徒が毎日通る、結構目立つ場所に作られている。
美術部の上級生の、絵の上手な賞を取るような人達の作品も、そこにはたくさ
ん飾られている。
 そこに、そこにぼくの紙粘土が飾られるなんて・・・

 ぼくは先生の手元で、紙粘土が急に光を浴びたみたいにキラキラ輝きだした
ような気持ちになった。
先生がそう言ってくれるなら、みっともないのは作りたくなんかない。
もっとよく仕上げたい、ぼくは沸きあがる興奮で背中がピリッと震えた。
そういうことなら、もっと綺麗に色を塗らないと駄目だ、あそこももっと丁寧
にやらなきゃ・・・

 ぼくの頭の中で、色があふれて踊りだした。
こういう時、ぼくは本当にワクワクする。


 授業が終わった後も、普段はあまりぼくに話しかけないクラスメイトがたく
さんやって来て、ぼくの紙粘土を手に取って口々に褒めてくれた。
 みんなに話しかけられて、ぼくは緊張と恥ずかしさで、ただただ黙って頷く
ことしかできなかった。
 そんな中、ヒロシだけがみんなから離れた場所で、つまらなそうに筆を洗っ
ていた。


214 :夢花火:2007/10/10(水) 15:48:24 ID:HJi2et7o

 「虹の犬」14

 その日はやたらと全てがうまくいっていた。
給食のメニューはぼくの大好きなハヤシライスだったし、午後の体育の時間は
雨で、苦手な鉄棒が中止になった。
 なんだか今日はついている。こんな日ってそうあるもんじゃない。
クラスでは急に、僕は絵がうまいやつとして扱われ、女子がいっぱい話しかけ
てくれたし、男子にはマンガの主人公の絵を書いて、とリクエストされたりした。
 自分が急にクラスの人気者になったようだった。
 ぼくは一日中幸せな気分で過ごした。



 ものすごくいい事の後にはものすごく悪い事がある。
 台風が迫っている影響で、帰りの会の途中から外は本格的な大雨になった。
傘を差しても横からびゅんびゅんしぶきが飛んでくる。家の前まで来るころには、
ソックスの中までぐっしょり、シャツも濡れて腕にぴたりと張り付いて、気持
ち悪いことになっていた。 早く着替えないと風邪を引いてしまう。

 鍵を出して玄関を開けようとした時、何かが庭の植木の陰で動いた気配がし
た。黒い傘に明るい黄色のパーカーを頭から被った人影。
あれは、お兄ちゃんの服じゃない。

「だれか・・・いるの?」
「・・・・・」

返事がなかった。でも派手なパーカーは、確かに茂った葉っぱとツツジの陰で
揺れている。

215 :夢花火:2007/10/10(水) 15:50:21 ID:HJi2et7o
 
 「虹の犬」15


「そこに、いるの、今見えたよ・・・」

 泥棒だろうか・・・警戒しながら、ぼくは思い切ってちょっとだけ庭に近づいた。
黄色いパーカーは逃げようかどうしようか迷っているといった風で、不自然に
止まったり動いたりを繰り返している。
 ぼくは勇気を出してもう一歩近づこうとした。

その時、観念したように、木陰からひょろひょろに痩せた男の人が現れた。
男の人は傘で顔を隠すようにしながらぼくの方まで歩いてくると、やたらにゆ
っくりと傘を下ろし、顔を現した。

「君、ここの子?」

 なんていうか・・・すごく特徴のない顔。
いくつぐらいだろう。声も格好も若いんだけど、なぜかあんまり若さを感じない。
男の人は手に紙袋を提げていた。近くで見るとますます細っこくて、いかにも
頼りなさそうだ。
 それにしてもどうして人の庭に勝手に入っておいて、ごめんなさいとか何も
言わないんだろう。かなり怪しい。


「そうですけど・・・あの・・・だれですか」

「俺、あの園美の」

おねぇちゃんの・・・。
「彼氏」
・・・。


 台風が一番近づいた日の夜、本当に台風みたいにおねぇちゃんの彼氏はやってきた。
不吉なことの前触れみたいな、馬鹿みたいに明るい色のパーカーで。

216 :癒されたい名無しさん:2007/10/12(金) 00:24:47 ID:I7qnrdv3
wktk

217 :ねこずきん:2007/10/13(土) 04:22:02 ID:Ocargqmk
小説製作中・・・

218 :ねこずきん:2007/10/13(土) 04:52:01 ID:Ocargqmk
誰かココ以外で小説を投稿できるスレッドない?


219 :癒されたい名無しさん:2007/10/13(土) 13:48:39 ID:67Exl/qP
>>217
ここにうpして

220 :癒されたい名無しさん:2007/10/13(土) 18:42:14 ID:SIELJcw7
ここにうpうp!!

221 :癒されたい名無しさん:2007/10/13(土) 19:27:20 ID:nuBzHe/m
単純に小説投下するだけならそういう専門板もあったと思うが
しかしここじゃ駄目なのは何故なんだぜ

222 :ねこずきん:2007/10/15(月) 00:10:42 ID:vKZmGUxH
耳かき以外の話もかきたいの。
アップローダーにtxtでうpしないの?
掲示板用に編集したほうがいいの?
アップローダー用意してるよ。

223 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 01:57:25 ID:3vbhNQVW
もともとまったりと耳かき以外もOKのスレで
しかも連載中でも他作者さんも書き込んでってことなんだし
今までもそうやって書いた人いるし
なぜそうまでかたくなに…?
自分専用がよいならこの板にでもスレ立てるかすればよいのでは
なんか読めって感じで高圧的だなぁ…

224 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 02:01:00 ID:Y4Dknu+M
>>222
ていうかもう来なくていいよ。
すでに文章力ないのわかるし。

225 :ねこずきん:2007/10/15(月) 03:17:01 ID:vKZmGUxH
テキストファイルでアップロードしたほうが読みやすいよ?
そういってるだけなのにどうしてそういう風にとらえるかな…。

ここにいる人はアップローダーつかったことないの?

文章力がなくても小説を投稿していけないルールはないと思うけど?


226 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 08:07:15 ID:b+sdhFRp
・・・全然話わかってないねw

帰っていいよ、さようなら。

227 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 09:14:32 ID:6ujkIjR0
とりあえずね、半年ROMって。
話はまずそれからだ。

228 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 15:28:03 ID:GWqWdVR+
暇なんでマジレスしてみよう

>ろだに上げた方が読みやすいだろ
 んなこたぁない、というか人次第
 基本的にろだを使用する理由としては、スレ消費速度(レス数、容量)が問題になるため
 書き手の少ない現時点では気にする必要はない、と思う

>そもそも↑のように言ってるだけなのに、どうして悪印象を抱くのか
 私見だが疑問符を多用した文章は挑発的になりやすいと思う
 あと空気読めてなさすぎ、他の人も言ってるが半年ROMマジお勧め

>お前らロダつかわんの?
 少なくとも、関連スレではお宝のうpに使ってるのしか見たことない
 確かに、多くの小説スレには住人御用達のろだが存在する場合は多いが、それはそれ、これはこれ

>文章力なきゃ投稿しちゃいかんルールなんてないだろ
 勿論ない、よって勝手にすれば良い
 でもまともに読んでもらえないのは覚悟しといた方がいい


とまあこういう事なんで、ほとぼりを覚ます意味も含めて暫く来ない方が良いよ
今作品投下してもショックで自信喪失するかも解らんからね

229 :ねこずきん:2007/10/15(月) 20:23:45 ID:vKZmGUxH
>>228
ふーん… そうかなぁ? もう2ch長いけどあんまりそういうこと書かないほうがいいと思うよ?
わたしが気が短い人だったらここ荒らされて終わりになったり議論になるだけだよ?
わたしはただ、交渉してるだけ。お話してるだけ。
こうしたらどうって聞いてなんで怒るのかなぁ?

別にわたしはここに小説載せて何か言われても気にしない。
ネットに乗せる、2chに書くっていうのは叩きされてしょうがないと思ってるから。


230 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 20:46:06 ID:7+HE4mLr
>>229
>ここは癒しの小説売りが作品を投稿するスレッドです…
>最後に癒しの気持ちが残ればどんなジャンルでもOK
癒しをよろしこ

231 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 21:07:30 ID:mPaw/VH4
>>229
貼るか消えるかどっちかにして。
無意識なのかもしれないけど、あなたの文章は人をむかつかせる。癒しとはほど遠い。

232 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 21:57:58 ID:4VcJjB3T
>>218
>誰かココ以外で小説を投稿できるスレッドない?
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&q=2ch+%E5%B0%8F%E8%AA%AC+%E6%8A%95%E7%A8%BF+%E3%82%B9%E3%83%AC&lr=

ロダなら
http://novel2ch.sakura.ne.jp/

好きなようにしなさい。

ここは癒し空間であって欲しいのさ。

233 :癒されたい名無しさん:2007/10/15(月) 22:57:58 ID:3vbhNQVW
たまらず猫臓の話を読み返したら
ほっこり癒されたぬ〜ん

234 :癒されたい名無しさん:2007/10/16(火) 00:52:21 ID:xz312O9u
なんだ、アテクシ暗黒微笑系か。

235 :癒されたい名無しさん:2007/10/16(火) 01:19:09 ID:NItCLBtp
中二病患者降臨してたのか。
アフォは見なかったことにして夢花火さんの続きをマタリと待とうではないか。

236 :癒されたい名無しさん:2007/10/16(火) 03:47:20 ID:guS7OtOR
書き手は己の作品で全てを語れ
自身が出張りすぎるとロクな事にならん

とは言うけれど、投下前に軽く言い訳して予防線は張っておきたくなるし
後書きで「駄文サーセンwwww」とか軽く自虐してみたくはなるもんだ
大概の人はそうしてるし、これは間違ってないと思うんだきっと

ただ書き手の立場で「○○について俺はこう思う(だからお前は間違ってる)」的な事を言っちゃうのはNG
簡単に纏めると、作品を語るのは有りだが自分を語っちゃ駄目だ、というアレ
と、一応自戒込みで書いておきたくなった
夢花火さんは明らかにそういうキャラじゃないから心配する事もないだろうけど、お互い気をつけましょうぜ、という事で

以上どっかで何かを書いた事のある人でした

237 :夢花火:2007/10/17(水) 12:10:18 ID:E+bHz/X4

「虹の犬」16


「ただ今担当のものが席を外しております。改めましてこちらからご連絡いた
しますので、もう一度、お名前とお電話番号を・・・」

 前にメモしていたK新薬研究センターの電話番号に電話すると、長いコール音
の後、蚊のなくような小さな声の女の人が出た。
その女の人にぼくの話しは上手く伝わらないらしく、何分も待たされたのに結局
ちゃんとした答えが返ってこなかった。
それから四回かけてみたけど出るのは決まってこの女の人だ。
 女の人は同じ事を繰り返し言うだけで、結局、ぼくはあの時の冷たい声の男
の人と話すことは出来なかった。

 ぼくは何日かぶりにコロンの夢を見ていた。夢の中でぼくはコロンに抱きつ
いて、体を撫でようとするんだけど、なぜだかコロンはひどく嫌がって首を振り、
腕からすり逃げていく。

 コロンの目は何か言いたいのを我慢しているみたいに辛そうな三角の形にな
って、じっとじっとぼくを見ている。

 ぼくは夢の中で、どうしたらコロンが喜ぶのかと思っていろんな事をやって
みる。
 ボール遊び、フリスビー、音の出るおもちゃ、骨の形をしたおやつ・・・

 大好きな遊びにもお菓子にも、コロンは座っているだけで全く見向きもしない。

 コロンはじっとして動かなかった。
じっとして、ただ黙って座って、ぼくを見ているだけだ。


 ぼくの不安は、だんだん大きくなっていく。

238 :夢花火:2007/10/17(水) 12:13:22 ID:E+bHz/X4

「虹の犬」17


「良太、ちょっと便所にいきたいんじゃ、手伝ってくれ」

 おじいちゃんの病院に行くと、おじいちゃんがベッドから体を起こしてぼく
に助けを求めているところだった。
近くに看護婦さんの姿はない。

「体を、支えてくれ、前に転ばんように」
「うん、こうでいいの?」

 ぼくはおじいちゃんが伸ばした腕を肩に巻いて、おじいちゃんの上半身を支
えてベッドから降りるのを手伝った。
おじいちゃんの腕はしわしわで、堅いゴム草履の裏側みたいな感触がした。

「そう、おお、もうええぞ、後は一人で行ける」
おじいちゃんはそう言うと、ゆっくりとした動作で病室のドアまで歩いて行った。
ぼくもおじいちゃんの後をついて行く。

「ベッドから起きるのが一苦労になってきてな・・・」
「どこか痛いの?」
「・・・いや、年じゃからな、節々が弱くなってくるんじゃ」

おじいちゃんの動きは歩くというより、這うみたいにゆっくりだ。

「コロンがね、全然戻ってこないんだ。電話があって、よく分からないところから。
家では全然誰も答えてくれないし、変すぎるよね」
おじいちゃんが返事をしないので、ぼくはまた言った。

「おねぇちゃんに彼氏ができて、家に来たんだ。腕とか足とかすごくひょろ長い人。
お父さんが怒って追い帰してしまって、大変だったんだよ。
ケーキを待ってきてくれたのに、全部ゴミ箱に捨ててしまうし。
でもあの人がおねぇちゃんの彼氏って信じられないな。だってずっと好きって言って
た芸能人にちっとも似てないんだもん・・・」

気がつくと、ぼくは一人でトイレの前まで来ていた。
振り返っておじいちゃんを探すと、おじいちゃんはトイレまであと少しのとこ
ろで、立ち止まったまま動かなくなっていた。


「あ・・・」

 パジャマのパンツのところが、みるみる間に濡れていく。
おじいちゃんはぼうっとしたような顔で突っ立っていた。それはおじいちゃん
のパジャマの裾から床に広がって、足元に小さく水溜りを作った。

 ぼくは見てはいけないものを見たような気がして、思わず目を背けた。
 恥ずかしかったんじゃない。嫌だったんじゃない。
おじいちゃんがトイレに間に合わなかった事に、ぼくは動揺していた。
 

239 :夢花火:2007/10/17(水) 12:19:42 ID:E+bHz/X4

「虹の犬」18


「あら、石田さん、あら」
 気がつくと、前に見た看護婦さんが急いでおじいちゃんの所に近づいてくるところだった。

看護婦さんはおじいちゃんがお漏らししているのを確認すると、眉一つ動かさ
ずにてきぱきとおじいちゃんのパジャマをタオルで拭い、トイレの横のシャワ
ー室につれて行く。
おじいちゃんは素直に看護婦さんにされるがままになっていた。
 看護婦さんはしばらくしてシャワー室から出てきて、床のおしっこを雑巾で
ふき取り、消毒液を霧吹きで掛けた。
その間看護婦さんはずっと素手だった。

それから廊下の窓際で突っ立っているぼくに、あなたお孫さんね、と言って、
おじいちゃんのパジャマをとりに行くように言った。
ぼくが背を向けると、後ろで看護婦さんの
「薬、きつかったのかしら・・・」と小さく呟く声がした。



「恥ずかしいところを見せてしまったなぁ」

おじいちゃんは着替えてベッドに戻ると、静かに口を開いた。
「良太、びっくりしたかい」

 ぼくはびっくりしたけど、おじいちゃんがぼく以上にこのことにショックを
受けているのが分かったから、何も言えなかった。
 きっとぼくが二年生に入ってからお漏らして、朝、お母さんに言えなかった
時と同じだと思ったから・・・

「どうも、小便が間に合わないのは、迷惑もかけるし、何より情けない」
おじいちゃんは寂しそうに言った。そう言ったおじいちゃんが小さくて、いつ
もの、何があってもどっしり構えているおじいちゃんとは別人みたいに見えた。

「ぼくだって、あるよ」

おじいちゃんはぼくを見ると、息を吐きながら、少しだけ笑い、良太とは違うさ、
と言った。

「違わないよ、ぼく、ぼくも、したことある。
でも、気がついたらしちゃってるんだ。それはもう仕方ないんだ。
だって気をつけてても駄目で、頑張っても、どうしようもないんだもん。
だから全然、恥ずかしくないし、そんなの全然なんてことない」

 ぼくは、おじいちゃんがしょんぼりしているのを見たくなかったんだと思う。
この状況をなんとかしたくて、ぼくはひたすら一生懸命に喋った。

 おじいちゃんはいつだって頼もしくって優しくって、すごく面白い、
ぼくは大好きなんだもの・・・

「そうか。なんてこと、ないか」

「そう、全然、ぜーんぜん、ぜーーーんぜん」
「ふふ。ぜーーーんぜん、か」

 顔を見合わせて、おじいちゃんとぼくは一緒に笑った。
 ぼくはおじいちゃんの笑顔を見てほっとした。
それから、これはおじいちゃんとぼくの秘密にしよう、と心の中で思った。

240 :夢花火:2007/10/17(水) 12:22:58 ID:E+bHz/X4

「虹の犬」19


「良太、コロンの話じゃがな」
おじいちゃんは急に真顔になって言った。

「あれは不思議な犬でな。昔うちに迷ってやってきたんじゃ。
その頃から体は大きくてな。だから何歳なのか正直、わしにも分からん。
雑種じゃし、どこか獣みたいな風貌をしとるから、最初はうちに置くのを反対
したんじゃよ。首輪もしとらんし、見るからに野犬じゃもの。

庭に座って動かんので、ほうきで追い回したり、石をぶつけたりしたな。
それでも出ていかん。そうしたらその内、雨に打たれたのと腹が減ったのとで
だんだん衰弱してきてな。
 迷惑に思っとるもんでも、毎日毎日見とると情が沸くんじゃ。
ばあさんがうちで飼おう、うちで飼おうと言うのに負けて、仕方なく飼い始めた」


そこまで言うと、おじいちゃんは少しさびしいように優しい、懐かしそうな顔になった。

 おばあちゃんの事を話すときはいつもこういう顔になる。
 ぼくの小さい頃におばあちゃんは死んだ。
 ぼくはおばあちゃんの顔を覚えていない。


「ばあさんは、猫とか犬とか、動物が死んだり、捨てられとるのを見るのが我慢
できんのじゃ。ばあさんは病弱じゃったからな。
 やたらに拾って、育てられんと結局動物も可哀想だし、わしに迷惑をかける
のも忍びなくて、いつもは遠慮しとったんじゃ。
 コロンは不器量だのに、ばあさんはえらく気に入っていたな。飼ってみたら
コロンはおとなしくて無駄吠えもせんし、体が大きくて面構えが凶暴じゃから
番犬にもなるしで、そのへんの飼い犬よりよっぽど重宝した」

 おばあちゃんが動物好きだったなら、それはお母さんより芙美子さんに受け
継がれたのかもしれない。
 芙美子さんはウサギやカメや金魚、それから猫を三匹も飼っている。


「コロンでひとつ困ったのがな。飼いはじめの頃じゃが、時々朝見ると、
どうやって抜けるのか、首輪を器用に外しとるんじゃよ。
夜中にどこかへ行っとるらしい。別段噛み付きもせんが、あの図体じゃし、
もし何かあってご近所の迷惑になったらいかん。
 すぐ柵を高くして首輪も立派なのに変えたが、それでも朝思い出したように
時々抜けた首輪が転がっとったりしてな。

 何度もこっそり隠れてどこに行くのか確かめようとしたが、コロンは頭がいい。
わしが見とるのが分かるのか、そういう時は絶対に小屋に入って出てこなかったよ。
 でもそれは飼いはじめの頃のことで、しばらくしたら止んだ。

 わしは勝手に、もとが野生じゃったから急に生活が変わって窮屈なんじゃろ
うと思っとった。それから五年の間、もう二度と、そういうことはなかった」


241 :夢花火:2007/10/17(水) 12:27:01 ID:E+bHz/X4
 
 「虹の犬」20

 
 おじいちゃんはそこまで言うと、ぼくの方に顔をぐっと近づけた。
自然と目と目が合う高さになる。

「じゃが不思議な事に、ばあさんが死ぬ前の日・・・
 わしはその日の昼間、たまたま庭木の手入れをしとって、一日中体を動かし
てクタクタに疲れてもう夕方には眠ったんじゃ。
 そうしたら夜中に、ばあさんがわしを呼ぶ声で目を覚ました。実は死ぬ一年
くらい前からばあさんは、少し、ボケとってな。夜でもなんでも急におじいさ
んおじいさんと言うて呼ぶことがあったんじゃよ。

 どうしたと言うてばあさんの布団を見たら、ばあさんが横になったまま宙を
見ながら『コロンは好きな所に行って、いいわねぇ・・・私も一緒にそっちに
行こうと思うのだけど、おじいさんと一緒じゃいけないって言うのよ』と言う。

 ばあさんはそれまでもそういう事を言うことがあったんで、わしは大して気
にせずに『そりゃぁ、コロンもばあさんも行くなら、わしも一緒に行きたいが
な』と言うと

『ほんとうに、おじいさんも来られたらいいのにねぇ』
と苦しそうに目を瞑って、困った顔をする。

『ばあさん、まだ夜中じゃ、眠ろう』とわしは言って、布団に入ろうとした。
 そうしたらまたばあさんが、
『おじいさんと一緒にいたいんだけれど、どうしようかしらねぇ。ああ、順番が
もう決まっているみたい・・・ごめんなさいね、私だけ・・・先に行って』
と言った。

 見ると目を瞑って笑っている。わしは急に勘がした。

『ばあさん、ばあさん、待ってくれんか、行くのは、また今度にしてくれんか・・・』
言い終わらん内に、ばあさんは畳の上をまさぐってわしの手を捜すような格好をした。

 わしは急いでばあさんの手を握って、おおい、おおい、と呼びかけたけれど、
返事をしない。

 まるでそのまま眠ったようじゃった。
 ばあさん綺麗な顔しとった。

 部屋中が静かでな。ずっと手を握っとった。
朝が近くなって気がついたら、堅く握ったばあさんの手がすっかり冷めていて、
ああ、死んだんだ、と思うたよ」


おじいちゃんはぼくの手を包み込むように両手で握って、あったかいじゃろ、
と言った。


「その朝のことよ。ふっと見たらコロンの首輪が抜けとったんじゃ。
コロンはばあさんの通夜が済むまで、小屋の前でじっと臥せって動かんかった。

そう・・・まるでどこか遠いところに行って来て、疲れて眠っているようにな・・・。



わしはあれが、ばあさんを道案内したんじゃろうと思っとる・・・」


242 :夢花火:2007/10/17(水) 12:35:00 ID:E+bHz/X4
 「虹の犬」21


 ぼくが初めて聞く話ばかりだった。
 コロンはうちにやってきてから一度だって首輪を外したりしなかったし、
ましてや夜中にどこかに行ってしまうことなんてなかったんだから。

 おじいちゃんはここまで喋ると少し疲れたのか、ベッドに横になる、と言った。
ぼくはおじいちゃんがスリッパを脱ぐのを手伝った。
パジャマの裾から、おじいちゃんのほっそりした足首が見る。

 それを見て、ぼくはなぜだか分からないんだけど、急におじいちゃんが年寄りの
知らない人になったみたいな気分になった。
 なぜだか分からないんだけど・・・

 心細くって、不安で、ぼくはおじいちゃんの握ったままの手をぎゅっとした。
するとおじいちゃんも、きゅっとぼくの手を握り返し、

「コロンは黄泉の国から来た使いかもな・・・」
と小さく呟いた。

「よみのくに・・・」


 そのままおじいちゃんは眠くなったのか瞼を重たそうにしていたが、
やがてすっかり寝息をたてて眠ってしまった。

 よみのくにって、どんな所なんだろう。
 帰り道ぼくの手には、おじいちゃんの手が、何度も何度も撫でた感触が残っていた。




 次の日の朝、昨日までぬるかった風はすっかり澄んで、きれいな秋の空が広がっていた。
ピンとした空気に鼻の頭がちょっぴり冷たい。
 長袖のトレーナーから風が通り抜けて、心地よかった。


 ぼくは今日、少しだけ早く家を出た。
いつもは早起きなんかしないぼくが、台所に立ってパンなんか焼いてたもんだから、
お母さんが驚いて寝坊した!って慌てていたのが可笑しかったな。

なぜ早起きしたかって、今日は紙粘土の仕上げをやって、石井先生に渡す約束
の日だからだ。

同じクラスの子のはとっくに仕上がって教室の後ろに飾られている。
ぼくの紙粘土は、まだ展示コーナーに飾られていない。 
 先生の推薦で、県の芸術コンクールに出品されることになったからだ。
先生が、「内緒だけど、三年生では森田君のしか出品されないのよ」って教えてくれた。
 
 コンクールなんて言われたらもう、張り切らずにはいられない。
 もっとちゃんと仕上げたくて、ぼくは先生に無理を言って完成を待ってもらっていた。

歩きながらも、ぼくの頭の中は紙粘土の中の未来の世界の人達でいっぱいだった。
 もちろんコロンのことだって心配だ。
 でも今は先生に、上手に色を塗ってきれいに完成したやつを見せてあげたいって
気持ちが大きい。

 胸いっぱいに風を吸い込んで、自然とぼくは早足になっていく。
 ぼくは軽やかに校門をくぐった。 

243 :夢花火:2007/10/17(水) 12:38:29 ID:E+bHz/X4
「虹の犬」22

            赤。

 赤い、いろ。

 花畑のきみどり、人の肌が、銀の宇宙船が、ぜんぶが


             真っ赤だった。

 ぼくが最初教室に入ったとき、ぷんと、チューブから出たばっかりみたいな、
絵の具の濃い匂いがしていた。息苦しくって胸が悪くなるみたいな匂い。

 いつも通りに見えた教室で、ぼくは後ろに並んだ作品の中から自分の紙粘土
を選ぼうとした。
 でもすぐ気がついたんだ。だって、いつもだってぼくの紙粘土は、上にハリガネ
でぶら下げた大きな宇宙船があってとても目立つんだから。

 宇宙船は大きく二つに割れて、ぼくの作った地上の花畑や、たくさんの人達
の上にあっけなく転がっていた。
下敷きになった場所の人達は砕けて、不恰好にちぐはぐな欠片が床にまで散ら
ばっていた。


 そして、ぼくの紙粘土には、上から隙間もないくらい一面に、
まるで血の海みたいに、鮮やかな赤色が塗りたくられていた。

 
 その赤が濃くって、濃くってぼくは・・・

 それが何か悲しくなるくらいの赤で、なぜか怒るより先に頭の中がチンと冷
えてぼくは立っていることも忘れた。

 みんなの、色とりどりに塗られた紙粘土の中で、その赤い紙粘土だけが
異様で、大声で叫んでいるみたいにぼくには見えた・・・・

244 :夢花火:2007/10/17(水) 12:42:54 ID:E+bHz/X4
 
 「虹の犬」23


「やった人は手を挙げなさい」

石井先生はさっきから同じ質問をしている。ぼくは目を閉じて下を向いているけど、
誰の手も上がっていないのは気配で分かる。
 先生はかすかなため息をついて、みんなに目を開けるように言った。

「こういうことが、クラスで起きたことが、先生はとっても悲しい。
確かに、みんなの中にこういうひどい事をした人がいるとは、先生も思いたく
ないです。もしかしたら他のクラスの子かもしれない。
それとももしかしたら違う学年の子かもしれない。

でも、もしそうじゃないなら、やった人は違う人に疑いをかけて、ああよかっ
たっていってほっとするのかな?
 先生は、そんなことじゃあその人はずっと後悔して、これから学校でずっと
笑顔で過ごせないと思う。 
 ちゃんと森田君に謝って、反省したら、森田君も先生もクラスのみんなも
絶対に責めたりしない。
 それに、それができたら、これからもっともっといいクラスになっていけると思う」

 ぼくが石井先生の顔を見ると、先生はうっすら目の周りをピンクにしていた。

 教室は静かで、隣のクラスの朝の会の歌が聞こえてくる。
先生はぐるっと教室を見渡して、
「名乗り出てくれるのを、先生は待っています」
と言った。


 休み時間、クラスではぼくの紙粘土を壊した犯人の話で持ちきりだった。
いつの間にか学級委員の三上君がみんなのまとめ役を買って出て、彼を中心に
たくさんのクラスメイトがぼくの席を取り囲んだ。

 みんなはぼくに向かってまるで取調べの刑事みたいに次から次に今朝の様子
なんかを聞いてきたんだけど、ぼくはその度に同じ話を繰り返すだけだった。
 そのうちみんなは質問に飽きたのか、三・四人のグループで固まって好き勝手
におしゃべりを始めた。

245 :夢花火:2007/10/17(水) 12:46:01 ID:E+bHz/X4
 
 「虹の犬」24
 

「こういうことはクラスのみんなで考えないといけないと思うんだ」

 賢そうな広いおでこをした三上君が、くりくりした瞳で言うと、騒がしかっ
た教室が静まった。

「クラスの誰がやったか分からない限り、全員がようぎしゃなんだ。
先生はああ言ったけど、僕はクラスの中に犯人がいると思う。
みんなの紙粘土は無事で、森田のだけめちゃめちゃにされたってことは、
犯人は森田のを狙ってやったんだ。
 あれが森田の作品だって知っていて、コンクールに出ることになったのを知
っているのはこのクラスの人間だけだろ。
だったら、このクラスの誰かがやったってほうが、説明がつく。
 もうすぐ運動会もあるのに、このままじゃクラスがバラバラだよ。
一人の勝手な行動で大変なことになってしまう。
やった人は、今名乗り出てほしい。」

 三上君の言葉に、みんなは顔を見合わせた。
お互いがお互いを疑っているような、湿った空気。


「でも一番かわいそうなのは森田君よ。犯人最っ低―」

大勢で固まっていた女子の中のだれかが言って、女子たちが、かわいそうーとか、
信じらんない、とか口々に騒ぎ出した。


再びはじまったおしゃべりは、今度はなかなか収まらなかった。
三上君は女子の迫力に押されてしまったみたいに、困ったみたいな顔で突っ立
っている。

 すると、女子の中でも大柄でリーダー格の西田さんが、一人ひとりの顔を確認
するように見回して口を開いた。


「みんなで犯人捜さない?このままじゃ気分悪いし」

一瞬にしてみんな口をつぐんだ。
誰もが考えているような間があった次の瞬間、どこかのグループの中から、
「賛成ー」という誰かの声が上がった。



「あたしも」
「疑われてるの嫌だもんね」
「犯人が正直に言わないんだから仕方ないよね」
「そうそう、正直に言えば許してあげるのに、黙ってるんだからしょうがないよ」

 女子たちは群れになって西田さんのところに集まっていき、他にいたグループも
ちりじりになって、三上君のもとにはぼく以外誰もいなくなってしまった。
 三上君は戸惑ったみたいにしばらくその様子を見ていたけど、完全に西田さんが
女子たちを束ねてしまったのを感じたのか、諦めたように肩を落とすと自分の
席に帰っていってしまった。

 西田さんたちは教室の後ろに移動して、ひそひそと真剣そうな顔で話し合い
をしはじめた。

246 :夢花火:2007/10/17(水) 12:50:13 ID:E+bHz/X4

「虹の犬」25


 一瞬にしてぼくの周りから人がいなくなった。
ぼくはいまだにショックから抜け切らない頭で、机の横に下げた粘土の欠片が
入った紙袋を見つめていた。

 なんでこういうことになったのか。いくら考えても答えが分からない。

ぼくは真っ赤な紙袋の中身とさっきの先生の辛そうな顔を同時に思い出して、
じっとりと胸の中に酸っぱいような苦いような痛みが広がっていくのを感じていた。


ふと気がつくと隣に優璃ちゃんが立っていた。

「いつもは関係ないって顔してるのに、こういう時はなんで急に正義の味方み
たいになるのかな、あの人たちって」
優璃ちゃんはつまらなさそうに言って、遠くにいる女子のグループに顎を杓った。


 優璃ちゃんは西田さんのグループには入っていない。
というかどのグループの中にいるとか決めていないみたいだ。
 クラスの女子の中で優璃ちゃんみたいな子は他に長谷さんしかいない。
 長谷さんは休み時間になるといつの間にかどこかに行ってしまうか、教室に
いてもいっつも黙って読書をしていて、話しかけてもほとんど喋らないからみ
んなから空気みたいに思われていた。

 ぼくは、優璃ちゃんは強い女の子だと思う。
だってグループに入っていない場合、いろいろ面倒だからだ。
例えば授業でペアを作ったり、班に分かれたりするときにそれはよく分かる。
優璃ちゃんと長谷さんはそういう時決まってはじかれて、結局最後に先生が出
てきて二人の班を決めるのだった。

 優璃ちゃんはぼくと違って勉強ができるし運動神経だっていい。
性格だって明るいし、その上優しい。ぼくがヒロシにいじめられそうになると
助けてくれる。
 みんなに同じように振舞うし、誰かの悪口を言って回ったりしない。

 見るからにクラスの人気者になりそうなのに、クラスに優璃ちゃんと仲良く
する女子はあんまりいないみたいだった。


「森田君は、どう思う?」
「どうって」
「犯人探し」

 そう言われても、ぼくにはよく分からなかった。犯人は見つかってほしいけど、
見つかったからといってあの紙粘土は元どうりにはならない。

 ぼくがどう言ったらいいか考えていると、優璃ちゃんは紙袋を上から覗いて、
ため息をひとつついた。


「可哀想だよね・・・。何か言いたいことを、こんな風にしてしか言えないなんて」

 その言葉の意味を、ぼくはそのときは理解できなかったんだ。

247 :夢花火:2007/10/17(水) 13:13:47 ID:E+bHz/X4
 ここまでいっぱい書いといて何なんですけど、
このスレは自分専用でもないのに他の書きたい方に迷惑かけてるんじゃ
なかろうかって気がレス読んでたらすごくしてきまして・・・

お言葉に甘えて、かなり身勝手に時間空けて投下したりして、
その間にいくら書き込んで下さいって言っても
他の作者さんからしたら(住人さんにしても)迷惑以外の
何者でもないのかもしれないと思うのです。

ですので、次の投下を含め、作品の投下は小出しをやめるか、
>>232さんの示してくれたような場所にしたほうがいいのかちょっと
迷いが出てきまして・・・


248 :夢花火:2007/10/17(水) 13:29:16 ID:E+bHz/X4
連投スイマセン・・・

最初は作者さんがそれぞれいろんなジャンルの作品を好きに投下できて、
また読んだ方も、書いてみたいと思ったら好きに書けるようにという
願いも込めて立てたはずが、
今、自分の占領でせっかく書こうとしていらっしゃる
作者さんの投下の場を奪うどころか
やる気までそいでしまうとしたら申し訳なさすぎるのです。

きっと前に投下を考えていた・いる作者さんも、占領中でなければ
普通に投下できたかもしれないと思うと・・・

とりあえずこの小説を完成させないことにはですので、
次の投下は小出しをやめたほうがいいでしょうか?

今まで小出しにさせてもらったのは、自分を奮い立たせる為というか
ある程度投稿してしまえばなにがなんでも完成させないと、という気持ちに
なるというなんともお粗末な理由だったのも確かで(-∧-;)

うまく言えなくて申し訳ないんですけど・・・
他作者さん、夢花火はいないものとして、いつでも投下してください。
私も投下の仕方をちゃんと考えたいと思いますので・・・

249 :癒されたい名無しさん:2007/10/17(水) 15:51:45 ID:vyTPcmco
癒されにきたのに中二病患者のせいでむかついただけだった。
どうやらあちこちのスレで見当違いのことばかり言ってる人のようだ。
気にするだけ無駄な気がする。
夢花火さんはもっと堂々としてりゃいいと思う。
ぶっちゃけあなた書いてないとき九割方過疎だし。

250 :癒されたい名無しさん:2007/10/17(水) 15:53:19 ID:vyTPcmco
あ、個人的には耳かきはいつかなぁとかは思ってたりします。

251 :癒されたい名無しさん:2007/10/17(水) 16:05:40 ID:71uFZrIy
>夢花火さん
名無しに戻ると宣言したけど、今回は書き手の立場から意見しちゃうぜ!
という事で>>71の人ですどうもこんにちは
こういう立場の使い方はちと卑怯かもわからんが、そこは勘弁な
あと長文レスが嫌いな人は読み飛ばし推奨

で、もし>>217辺りからの流れを気にしてるなら、そんな必要はないと俺は思う
これはスレの雰囲気の問題というより、当人の資質による問題が大きいと断言せざるを得ない
俺も大分感想もらってイヤッホウと浮かれる事が出来たし(本当有り難う!(つД`))、>>144の人だってしっかり期待応援のレスがついてるし
>>217だって当初は投下を期待するレスがついてた事も考えれば、こういう結論にしかならないと思うんだな
だから書き手になろうとしてる人は、その気さえあればいつでもなれるし、スレ住人もまたそれを望んでる、これは間違いない
ただ耳かき小説なんて正直マイナージャンルだと思うし、住人自体そこまで多くはないだろうから、今は単に書き手が少ないだけじゃないかなー

というかね、そもそもスレ住人としては、ただ面白い作品が読めればそれで良い、と考える人が多数だと思うんだ
少なくともここにいる面子は夢花火さんの作品に惚れてついてきてる訳で、言ってみれば夢花火さんのためにここにいるって部分はまだまだ大きかろう
小説スレでは多数の読者と少数の書き手しかいないなんて当たり前のことで、ここみたいに主な書き手は一人しかいないって事も本当に多い

結論としては、夢花火さんがやりたいようにやっていれば良い、と俺は思う
いるかいないのかも解らない(他の)書き手の事なんか気にしても仕方ないさ
小出しにするも一旦まとめてから投下するも好きにしてくれておk
今はやりやすいようにやるのが一番さ


って書いてる間にレスがあったので軽く触っちゃう

>>249
まあなんだ、叩きはほどほどにしとこうぜ
あの人はあの人で一応やる気はあったみたいだし、と一応フォロー
ただこのスレの趣旨を今ひとつ理解してもらえなかったのは残念だったなあ、とも思う
どんな人が書いた作品であろうと、俺としては正直読んでみたかったし

あ、耳かきモノが読みたいのは俺も同意(゚∀゚)
自分で書けって? ネタがないですフヒヒサーセンwwwww

252 :癒されたい名無しさん:2007/10/18(木) 00:18:31 ID:ixZneRFw
>>251
ネタがない?、
あるじゃないか「耳掻き」という共通のネタが!
次は作者さんとして降臨される事を期待しておりますw


小出しでもいいと思うよ
他のスレでも小出しの間に別のお話が挟まってたりするんだからさ
投下中の割り込みにだけ気をつければいいんじゃない?

253 :癒されたい名無しさん:2007/10/21(日) 12:39:01 ID:EoXLS6aI
>>251
あなたの作品好きです!
書いて、書いて〜!
思わず眠くなるようなきもちい〜い耳かき小説を!
前回のは何度読み返しただろう…ハァハァ

254 :癒されたい名無しさん:2007/10/28(日) 19:02:24 ID:AhJZ8rIJ
耳花火あげ

255 :癒されたい名無しさん:2007/10/30(火) 22:34:20 ID:72iOYFtI
耳かき(する方)の体験談をSSに興してみたんだけど、なんだかとんでもなく長くなった…
ここに投下してもいいかな?

256 :癒されたい名無しさん:2007/10/30(火) 22:42:33 ID:oPR3nTr+
>>255
問題無し。ここはそういう場ですから、ってか是非お願いします。

257 :癒されたい名無しさん:2007/10/30(火) 22:54:18 ID:0L+uqVcj
>>255
是非是非、お願いします。

258 :癒されたい名無しさん:2007/10/31(水) 01:29:14 ID:GTdGmz9u
それではとりあえず途中まで。
誤字脱字等あったらごめんなさい。もちろん耳かき小説なんて書くのは初めてなので、どうかぬる〜い目で見てやってくれるとありがたいです。

259 :我が家の場合・1:2007/10/31(水) 01:30:47 ID:GTdGmz9u
育ちの良い旦那は甘やかされて育った長男だったので、思春期まで耳かきは母親のひざ枕でしてもらうのが当然だったらしい。
元々不器用なので自分では上手くいかないらしく、付き合い始めてすぐ同棲が始まったので、必然的に母親の役目は私になった。
私はといえば幼少の頃から耳かきが好きすぎて学校にまで耳かきを持っていっていた。今考えると外耳道炎気味だったのだろう。
しかし自分の耳垢はいわゆるネチョ耳、溜まりやすいが収穫のしがいが無い。過去に二度程通院した外耳道炎は結局意志の弱さで治りきらず、掻きすぎると今もすぐ汁が出る。

話を戻して旦那の耳である。
旦那の肌質は油性である。学生時代にはニキビに悩まされたらしい。
無論耳も例外ではなく、周辺の皮膚が鳥肌のようにプツプツしている。
毛穴もでかく、耳裏や耳穴付近に角栓が詰まっていたりすることもしばしば。角栓フェチの私としては、耳かきついでにそれをプリュッと耳かきのへらで押し出すのも堪らないものがある。
確か先週の週末だったはずだ。耳かきを持って「やってくれ」とソファにいきなり横たわった。
そういえばしばらくやってあげてないな、と普段気乗りしなければ断る事もあるが、ティッシュを用意させ素直に膝を貸した。素晴らしきかな耳かきは夫婦のスキンシップも兼ねている。


260 :我が家の場合・2:2007/10/31(水) 01:34:07 ID:GTdGmz9u
使うのは普通の竹の凡天だ。
いろいろと気になる耳かきはあるものの、冒険する勇気がない。結局これに戻ってしまう気がする。
左側を天井に向かせて寝かすと、もうそれだけで脂ぎった耳たぶがぎらぎらと光っている。
大きめの耳穴から長い耳毛に細かく付着した耳垢が見えた。旦那は粉耳なのだ。これはいい収穫が期待出来そうだ。

さて施術に入る。
まずは痒みがかなり来ているようなので、もういきなりだが穴の中腹まで匙を一気に突き入れる。
それだけで「はぅ」と声が出た。相当キていたようだ。可愛いヤツめ。
そのまま内壁に沿って一周ぐるりと撫で上げ、入口までゆっくりと掻き上げつつ獲物を落とさないよう慎重に匙を出す。
…そこには。
比較的幅広なへらの上に、こんもりと盛られた山。白いパンの皮を細かく崩したような、しかし、抜け落ちた細かい耳毛と相俟って、それは死んだ皮膚の面影を残している…見事な収穫があった。
通常なら小山は出来てふた匙ほど、あとはカスを集める程度なのだが、今夜はちょっと違った。掻いても掻いてもパン粉が出てくるのである。
外耳道の中、壁をえぐるように動かすとボロボロと剥がれてくる。
奥から手前に向かってスナップを利かせ、さながら砂城にトンネルを開けるが如く耳垢を掻き出す。
最後に入口付近、耳毛に絡まったカスをかき集める…ティッシュの中央にそびえ立つパン粉タワー、それは壮観だった。


261 :我が家の場合・3:2007/10/31(水) 01:42:45 ID:GTdGmz9u
しかしここで一つ問題が。
旦那は仕事柄か、耳毛が濃く、さらに外耳道が曲がっているため、肉眼では鼓膜付近までよく見えない。
果敢にアタックを試みるも、ちょっとした軟骨の出っ張り、そのカーブの先には確実にカリカリと存在を主張している何かがあるのだが、それ以上奥は『痛い』と抵抗されてしまうのだ。
いつか絶対、イヤースコープ付きの耳鼻科に連れていってやる、もちろん私同伴で。とひそかに野望を企てている事を、当然だが誰も知らない。
誰か近所でいい耳鼻科知りませんか?いやマジで。



262 :癒されたい名無しさん:2007/10/31(水) 04:07:38 ID:Ue3z3cJL
落ちが宜しいようで、というか、もう少し癒しが欲しい感じがしました。
でも、拍手。 パチパチパチパチ…
パン粉タワーが部屋中に飛び散ってしまいますた。

263 :我が家の場合・4:2007/10/31(水) 07:47:30 ID:GTdGmz9u
ここで読者諸君に朗報がある。
うちの旦那の耳の最大のポイントであり、また長所でもある部分が、何を隠そう『耳垢が穴の中だけじゃない』ところだ。
先にも話したとおり脂性の旦那の耳は、ホントに洗ってるのかと思うほど常にギトついている。
上手く表現出来ないが、耳表面の軟骨と軟骨の間、俗に耳介と呼ばれる部分であろうか?その最も汚い箇所がこの、耳介部分に存在しているのである。
まずは焦らない。入口手前の比較的平坦な部分の皮膚の掃除からだ。
すでに油の浮いている皮膚は、カリコリと軽くすくうだけでへらに油がとれる。多分耳全体は油取り紙2枚くらいなら平気で透明にしてしまいそうな程だ。
段々と、所々黒くなった毛穴から角栓の先が飛び出し、表面の古い皮膚がめくれはじめる。
そこを一気に、少々強めに2、3回グリっと押し出す。
…表面はいい…角栓の抜けたぽっかり毛穴もぺたぺたの薄皮が剥けていく様子も、蛍光灯の下鮮明に見える…
拭き取った汚れは、さすが外気の影響をモロに受けるのか中の白さとは違い、グレーがかったまさに『汚れ』である。


264 :我が家の場合・5:2007/10/31(水) 07:56:34 ID:GTdGmz9u
さてここからが最大の山場だ。
さきほど話した耳介、耳穴の上のちょうど軟骨の裏側に当たる部分に、滑らせるようにして耳かきを差し入れる。
ズ、ズズ、ズリッ…ゆっくりとしたストロークで押し付けるようにして掻き出すと…こ、これは…
『有り得ない』
ギトギトとした油をまとったそれはパン粉なんて生易しいモノではない。
さながら油こし器のザルにのった、いわゆるカスだ。そしてこれもまた黒ずんで、グレーの細かな皮が油で一まとめになっている…それも『もりっ』という効果音がぴったりなほど…!
きったねぇぇえ!!!思わず口に出た台詞に旦那の寄せた眉毛も気にならないほど興奮していた。
もう皮膚がそのままえぐれているんじゃないかと思うぐらい、軟骨の裏側は掻けば掻くほど垢が出てくる。まさに取っても取っても。
ようやく耳かきに何もつかなくなる頃には、グレーの天カスがこさじのスプーン半分ほどが取れていた。
一体なんだ、なんなんだこのスポットは…?!魔法か?!マジカルスポットなのか…?!

最後に、耳たぶ裏の角栓や皮ムケをチェックし、濡れティッシュで全体を拭いて終了。ここまでしてもまだ拭いた後のティッシュは汚れるのだから、もう相当である。
一戦を交えた後の耳にお疲れ様を言い残し、あまりの興奮に思わず握り潰してしまった左こぶしの中のティッシュを、そろそろとあけてみる。
…素晴らしい戦果だった。本当に。手の平を丸めていないと零れおちそうなほどの豊かな量。またそのひとつひとつも、グレーから黄みがかった白、ちいさな痂の黒っぽい赤まで、実にカラフルに富んでいる。
捨てるのは惜しいが、生憎コレクションするまでの趣味は持ち得ていない。
豪快に丸めてごみ箱に投げ入れるこの瞬間こそ、この人と結婚して良かったと、心から思える時がある事を、感謝している証になるのかも知れない。



265 :癒されたい名無しさん:2007/10/31(水) 08:00:06 ID:GTdGmz9u
以上です。お粗末様でした。
オマケも書こうとしたんですがお目汚しになりそうでしたので…
途中眠気に負けて投下に時間がかかってしまい、すみませんでした。

266 :癒されたい名無しさん:2007/10/31(水) 13:31:29 ID:KUUGEykB
GJ
興奮したわw

267 :癒されたい名無しさん :2007/10/31(水) 15:16:18 ID:JoX2SS3n
乙!
これは面白いwww
素敵なお話れした

268 :癒されたい名無しさん:2007/10/31(水) 21:59:39 ID:AEioNEtJ
お疲れ!!夫の外耳道の掃除だけではなく
耳表面の軟骨と軟骨の間等の掃除が事細かで
身震いしました。

269 :癒されたい名無しさん:2007/10/31(水) 22:47:27 ID:rdxEg57t
マジカルスポットに激しくハアハアしますた

270 :癒されたい名無しさん:2007/11/01(木) 01:47:26 ID:lgcmJgsL
癒されなかったけど、興奮したワァ コリコリコリ *─σ ´ Д`)ハァン

271 :癒されたい名無しさん:2007/11/02(金) 00:33:19 ID:XECjUuVH
なんて覚醒作用のある小説!
興奮して(・∀・)ネレネーヨ!!
マジGJ!!!

272 :癒されたい名無しさん:2007/11/07(水) 22:05:50 ID:qxw0PTLO
たまんね〜〜〜

ぜひぜひまた書いてくだされ!
なんで耳かき小説ってこう感覚を揺さぶるかねー

273 :癒されたい名無しさん:2007/11/12(月) 16:03:38 ID:XaXzB6ua
支援

274 :癒されたい名無しさん:2007/11/20(火) 19:55:51 ID:nys0c7tz
ほしゅ

275 :癒されたい名無しさん:2007/11/22(木) 14:18:42 ID:6Ylrt/Zm
そろそろ続きが読みたい
支援

276 :癒されたい名無しさん:2007/11/28(水) 22:44:17 ID:7zbqaiyw
夢さん消えたのかぃー

277 :癒されたい名無しさん:2007/11/29(木) 00:34:15 ID:Hv+sPn1A
スランプなんだろうさ
連載中に突然筆が止まるのはよくあること
しかもそういう時ってさ、期待がすげえ重荷になるんだよな
書くって宣言しちゃったし書かないと、ああでも書けないようわあああみたいな
まあ単にリアルが忙しいだけかもわからんがなw


つー訳で俺はひっそりと応援だけしとく
無理はしないで適当に自分でペースでガンガレ

278 :癒されたい名無しさん:2007/11/30(金) 01:59:04 ID:dB7SnGyX
うんうん。気長に待っているよ。

279 :癒されたい名無しさん:2007/11/30(金) 10:39:56 ID:hxRtDuSr
ここの小説読んでたら
ケータイ小説はアホらしくて読めないナリ

280 :ケータイ小説:2007/11/30(金) 11:39:46 ID:ZE+c112F
 ───アタシの名前はアイ。耳かきしすぎで傷を負った女子高生。カサカサミミクソでたまりやすい体質の耳垢ガール♪
アタシがつるんでる友達は耳かき制作をやってるミキ、学校にナイショで
膝枕耳かきで働いてるユウカ。訳あって耳かきグループの一員になってるアキナ。
 耳かきしていてもやっぱり学校はタイクツ。今日もミキと耳かきの素材で口喧嘩になった。
ミミカキスト同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で耳かき店に行くことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!
 「あー耳痒い」・・。そんなことをつぶやきながらしつこいキャッチを軽くあしらう。
「カノジョー、ちょっと耳掻きしていかない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
キャッチの男はカッコイイけどなんか耳かきが下手そうでキライだ。もっと小指大以上の耳垢を取って欲しい。
 「すいません・・。」・・・またか、と耳セレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、
チラっとキャッチの男の手を見た。
「・・!!」
 ・・・チガウ・・・今までの耳かき店とはなにかが決定的に違う。ミミカキスティックな感覚がアタシのカラダを
駆け巡った・・。「・・(耳かきダコ・・!!・・これってレスプ級・・?)」
男は凄腕耳かき屋だった。連れていかれて筒状の耳垢を取られた。「キャー耳の皮全部持ってかれる!」耳垢水をキメた。
「カリカリコリコリ!ゴロッ!」アタシは鼓膜に付いた耳垢まで取られた。ミミエステヒーリング(笑)

281 :癒されたい名無しさん:2007/11/30(金) 20:15:55 ID:XzvRn5CV
>>280
面白かった。もっと頼む。

282 :癒されたい名無しさん:2007/11/30(金) 21:34:46 ID:CvXOyiTW
アレンジイイ

283 :癒されたい名無しさん:2007/11/30(金) 22:00:18 ID:hz1UAo5d
>>280
これは良い改変w

284 :癒されたい名無しさん:2007/11/30(金) 23:51:22 ID:A4OQcOAj
>>280
こんなケータイ小説なら一日中読みたい(*´Д`)

285 :癒されたい名無しさん:2007/12/01(土) 01:39:49 ID:HTvk35cI
ガッキー&川内康徳氏で映画化希望

耳垢の歌〜さぁ掘り出した〜何時間も見てられるね〜
でもとりあえずタッパーへ〜♪

286 :癒されたい名無しさん :2007/12/01(土) 19:20:39 ID:hm0e911U
>>280
おもしれぇwww

287 :癒されたい名無しさん:2007/12/02(日) 17:36:27 ID:YkhFY7RM
ワロタw

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